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番外編 とある宿屋の少年のお話

2022.1.16 第1章内整理の為再掲です。


 僕の両親は“ジョルナルドの安らぎ亭”という宿屋を営んでいる。

 昔はそれなりにたくさんのお客さんで賑わっていたけど、サルビアの町に“紫雲亭”というお風呂屋兼宿屋が出来てからはほとんどのお客さんがその宿屋を利用するようになってしまって、ウチの宿にはお客さんが来なくなった。


 そんな中で久しぶりにやって来たお客さん――新人の冒険者フィリアさん。


 僕は、宿に来てくれたフィリアさんにとても失礼な事をしてしまった。

 少し前に来た三人組の冒険者がウチの宿にお風呂がないと知って怒鳴り散らした事があったんだけど、あの日フィリアさんがウチの宿に来た時にその事がちらついてしまって、僕はフィリアさんに対してウチにお風呂はないと、風呂に入りたいならガランの湯を利用しろと、冷たい言い方をしてしまった。

 僕はせっかく来てくれたお客さんに対して取ってはいけない態度を取ってしまって、すごく後悔した。

 謝りたいのになかなかタイミングが合わなくて、それに失礼な態度を取ってしまった事が後ろめたくて、フィリアさんと顔を合わせづらくて避けるような態度まで取ってしまった。


 その後ようやく謝る事が出来た僕は、フィリアさんに怒られる覚悟でいた。

 でも、フィリアさんは僕を怒らなかった。それどころか「謝れて偉いね!」と褒められてしまった。

 悪い事をしたら謝るのは当然だ。褒められるような事じゃない。

 それなのに、フィリアさんは僕を褒めてくれて、頭を撫でてくれた。

 ……フィリアさんに頭を撫でられた時、何だかくすぐったい気持ちになって、落ち着かなかった。


 フィリアさんは僕が失礼な態度を取ってしまった事を気にしてない様子だけど、でも僕の気持ちが治まらなかった。

 何かフィリアさんの役に立ちたい。何か、僕に出来ることはないだろうか。……こんな事を言っては、フィリアさんを困らせてしまうだろうか。

 色々と考えて、何だか頭がぐちゃぐちゃになって来た時、フィリアさんから言ってくれた。


「じゃあ、アルドくん。ひとつ私のお願いを聞いてもらってもいいかな?」

「はい! 何でも言ってください!」


 フィリアさんからのお願い。

 どんなものでも絶対に叶えてみせると意気込んでいた僕に伝えられたお願いは、サルビアの町の案内だった。

 明日町を散策するのに、道案内をして欲しいと、フィリアさんは言った。

 そんな事でいいのかと返した僕に、フィリアさんは「一人で町を巡るのはちょっと寂しいなって思ってたから」と言った。


 もしかしたら、フィリアさんには僕の考えが筒抜けだったのかもしれない。

 そう思うとちょっと恥ずかしい気持ちになったけど、でもせっかくのフィリアさんからのお願いだ。最高の道案内が出来るように、しっかりとプランを立てなければ! と、僕は意気込んだ。






 次の日のサルビアの散策には、ニコもついて来た。

 一度わがままを言いだしたニコを止めるのは骨が折れるから、フィリアさんがニコが一緒でも大丈夫だと行った時、僕も頷いた。

 ただ、なぜだか残念な気持ちになった。


 フィリアさんとニコの三人で町を回っていると、フィリアさんが水着屋に寄りたいと言った。三人で一緒にお店に入ると、いくつか水着を見ていたフィリアさんが急に動かなくなった。

 フィリアさんの手には一着の水着。その手に持っている水着が気に入ったのだろうか? と思っていると、近くにあった何客化の水着を忙しなく見始めた。

 どの水着もフィリアさんに似合いそう……って、何を想像しているんだ僕は!?

 頭の中に描いたものを頭を振って慌てて消して、フィリアさんの様子を見る。難しそうな顔をしていたフィリアさんは、ハッと我に返ったかのような反応を見せると、僕たちの方に顔を向けた。


「どうしたの? おねえちゃん?」

「フィリアさん?」


 どうしたのだろうかと思ってフィリアさんをニコと二人で見れば、フィリアさんは「何でもない!」と顔の前で手を振った。

 それからフィリアさんは縁に黒のラインが入っている水色の水着を手に取ると、近くにいた店員に声をかけることなくレジへと向かった。

 てっきり試着をするのだと思っていた僕は、それをそのまま口に出して言っていた。


「え?」


 きょとんとした表情でフィリアさんが僕を振り返る。


 今、僕は何を言ったのだろうか?

 試着しないんですか? って、それではまるで、僕がフィリアさんの水着姿を見たいと思っているような――。


 次の瞬間、僕は顔に熱が集中した。

 鏡を見なくてもわかる。今、僕の顔はトマトみたいに真っ赤に染まっている。


「ちがっ、変な意味じゃなくてですね……!! 服を買う時にも試着してサイズを確認したりするので、それをしなくても大丈夫なのかなって思っただけで、決して! 決して僕は、その……!!」


 ああ、言葉がまとまらない。

 なんだかこれ以上喋っていると、とんでもない事を口走ってしまいそうだ。

 チラッとフィリアさんの方を見てみれば、フィリアさんは首を傾げていた。それを見て、僕は冷静になることが出来た。その後すぐに恥ずかしさが溢れ出てきて、僕は思わず顔を両手で覆う。


「……何でもないです……」


 僕は最後に、呟くようにそう言った。






 あの時の事は、今思い出しても恥ずかしい。


 ……あ。そういえば、あの後ジーク・スティードと出会ったんだ。

 それで、お父さんが町で聞いたジークに告白した人物がフィリアさんだったとわかって――。



 チクリ



 でも、あれは誤解だとフィリアさんが説明してたっけ。それで、その時僕はホッとして……。

 そういえば、どうしてあの時僕はホッとしたんだろう?


 ……まあ、いっか。


 フィリアさん、今日はいつ頃帰って来るんだろう?

 魔物の討伐依頼を受けるって言ってたから、遅くなるのかな?

 お父さんが張り切ってご飯を作ってるから、早く帰って来てほしいな。

 それでまた、みんなで一緒にごはんを食べたいな。




 フィリアさん、早く帰って来ないかなぁ……。




お読みいただきありがとうございました。

今回はアルド視点のお話を書かせていただきました。

楽しんでいただけましたら幸いです。

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