第41話 恐れられる女
「……落ち着いたか?」
「す、すみません……」
「ガハハハッ! いいっていいって!」
大声をあげてわんわん泣いてしまった。
こんなに泣いたのはいつ振りだろうか……いや、前世と併せても物心ついてからは初めてかもしれない。……恥ずかしい。
「あいつらのとこ戻るか」
「……はい」
目元の涙を拭って、きっと真っ赤になってしまっているだろうからキュアを使って治す。
ガルアさんのあとについてディックたちの元に戻れば、最初にルディさんが私たちに気づいた。
「おかえり~」
「おう!」
「戻りました」
座り込んでいたルディさんは立ち上がると私の方にやって来て、優しく頭を撫でてくれた。
「お疲れ様」
「怪我はしてないか?」
キールさんもやって来て、心配そうに顔を覗き込んできた。
彼らの優しさに触れて、止まったはずの涙がまた出てきそうだ。
「大丈夫です。回復魔法で治してますから」
「わーわー泣いてたな、お前」
「うっ……! だって……」
やっぱり聞こえてしまっていたか……。本当に恥ずかしい……。
からかうように笑っているディックに、ちょっと腹立たしさを覚える。
「こう言ってるけどねぇ……ディックってばずーっとソワソワソワソワしてフィリアの事心配してたんだよ」
「え……」
「ルディ!! テメェ、いい加減な事言ってんじゃねえぞ!!」
「ホントの事じゃ~ん」
ディックとルディさんの追いかけっこが始まってしまった。
あ、キールさんのこめかみに青筋が……。これは雷が落ちるまで秒読みと見た。私はサッと両耳を押さえる。
「ディック、ストップ!」
「あ!?」
ディックに追いかけられていたルディさんが、キールさんの様子に気づいたようだ。ルディさんが指さす先にいたキールさんを見て、ディックが青褪める。
こうして、二人の追いかけっこは終わった。
「こいつらの事はこの後来る駐屯騎士に任せるとして、問題はこの岩壁だな」
「あ、それなら私が……」
「ヒィッ!!」
私がやる、と言おうとして手を挙げた時、目の前にいる兵士が悲鳴を上げた。
「……」
一歩、彼らに近づいてみる。
すると、また悲鳴を上げた。兵士たちは縛られている足を何とか動かして私から逃げようともがく。
「これは……」
「めちゃくちゃ怖がられてるねぇ、フィリア」
「お前何したらこんな怖がられんの?」
何したらって……彼らの目の前で隊長の首を刎ねて、それに怒って襲い掛かって来た兵士の一人をファイアボールをぶつけて燃やして、カローナたちを守る為に残った兵士たちと戦っていただけだ。
大体、彼らは兵士だ。他国を侵略した帝国の兵士だ。そんな彼らが、こんな小娘を怖がるなんて――。
「うわあっ!?」
……やっぱり怖がられている。
帝国の兵士とはいえ、さすがにそんな反応をされると傷ついてしまう……。
「……ブッ! ハハハハハハハハッ!!」
堪えきれないといった様子で吹き出し、大笑いするガルアさん。彼につられてディックたちまで笑い始めた。
「フィリア、スゲーなお前! 帝国の兵士に恐れられる女!!」
やめてその呼び方!?
っていうか、いつまで笑ってるんだこの人たちは!!
「笑いすぎだぞ、みんな」
そうですキールさん! もっとみんなを注意してください!! 怒ってください!!
この場を仕切れる人であるキールさんに助けを求めて見てみれば、彼も肩を震わせているではないか!
「もうっ!! 笑うな――!!」
◇ ◆ ◇
その後、アベリア村からの救援要請を受けてやって来た騎士たちに帝国の兵士たちの身柄を引き渡し、私は岩壁の前に立つ。自分の倍近くは高さのある岩壁を見上げて、手を翳した。
「ロック・ブレイク」
これは地属性魔法のひとつ。その名の通り岩を壊す事が出来る魔法だ。
ゲームだと進行方向を塞ぐ大岩を壊す際に使用していたそれを、目の前の岩壁を崩す為に発動する。
しかし、ただ発動するだけだと勢いよく岩壁を壊してしまい、岩壁の向こう側の村や村人たちに壊れた岩が飛んでいってしまう危険性がある。だから、少しずつ砕いて壊すよう魔力を操作して威力を抑えて慎重に慎重に作業しなければ。
「おらあっ!!」
背後から響く破壊音。
村とは反対側の岩壁の破壊はディックたちに任せているが、それにしてもガルアさん、景気よく壊してるなぁ……。
おっと、私は自分の作業に集中集中。
それにしても、ゲームではボタンひとつでただただ岩を壊すだけだったけど、こうして魔力を操作して少しずつ砕いて壊していくという事ができるなんて……。感慨深いというかなんと言うか……。
「……あ!」
私は砕いて土砂と化した岩壁の残骸を見る。
ゲームと違ってこれだけ魔法に自由が利くのなら、邪魔になっているこの土砂も魔法でどうにかできるかもしれない。この岩壁をすべて壊し終えたら、試してみよう。
それからも私は岩壁を砕き続け、ようやく一部の岩壁が崩れ去り向こう側が見えた。
「カローナさん!!」
最初に見えたのは、カローナの姿。それから彼女の周りにはアベリア村のみんながいた。
安全な場所に避難しておくように言ったのに、みんな残ってしまっていたのか。
「フィリアちゃんっ!!」
私の姿を認めたカローナが、涙を流しながら駆けて来た。
そして、思い切り私の身体を抱きしめる。
「もうっ……! どうしてあんな危険な真似したの!? フィリアちゃんのバカ! バカバカバカっ!!」
「えぇ!?」
「先生。命の恩人にそんな事言ってはいかんよ」
数人の村人たちを引き連れてやって来たムラク村長がカローナを宥めてくれた。
ようやく解放してくれたカローナの顔を見てみれば、目は真っ赤に充血してとても痛々しかった。
「心配かけてごめんなさい……」
「……無事で良かったわ……」
カローナさんがもう一度私を抱きしめた。私は彼女の背中に手を回す。
守る事に必死で、彼女の気持ちなど何も考えていなかった。
そりゃたった一人で何十人もの兵士に戦いを挑むなんて、普通は死にに行くようなもの。残された方はたまったもんじゃないだろう。
というか、無我夢中だったとはいえ本当によく無事だったな、私……。
「フィリアさん」
「はい?」
「助けてくれて、ありがとう」
ムラク村長をはじめとするアベリア村のみんなが口々にお礼の言葉を述べてくれた。
私は、彼らを守りきることが出来たのだ。
「皆さんが無事で、良かったです!」




