第40話 がんばったな
「気ぃ抜いてんじゃねえぞ! フィリア!!」
「ディック!!」
私に襲い掛かって来た兵士を、ディックが倒してくれた。
彼がここにいるという事は、先ほどの破壊音と衝撃波はもしかして……。
「オラァ!! かかってこいやぁあああ!!」
見覚えのある大剣が振り回されている。それを行っている人物は――ガルアさんだ。
暴れられるのが嬉しいのか、それとも戦いが楽しいのか、あるいは両方か。笑いながら帝国の兵士を次々と切り倒していくガルアさんの様子は……見ていてちょっと怖い。
「また助けられちゃったね。ありがとう、ディック」
「……ったく。胸騒ぎがして来てみれば、なんで帝国のヤツらがいるんだよ?」
「胸騒ぎ……? アベリア村からの救援要請で来てくれたんじゃ……?」
「救援要請?」
二人して首を傾げてしまった。
その時に帝国の兵士たちは襲い掛かって来たので、二人同時に切り捨てる。今の状況では落ち着いて話もできやしない。
「話はこいつらを倒した後だ!」
「うん!」
◇ ◆ ◇
ディック、ガルアさん、キールさん、ルディさんが加勢してくれたおかげで、ようやくアベリア村を襲うとした帝国の兵士たちを倒し切ることが出来た。
ようやく戦いが終わったのだ。
「大将はどいつだぁ?」
生き残った帝国の兵士たちを縄で縛りながら、ガルアさんが辺りを見回す。
「あ……」
「隊長はそこの女が殺した!!」
縛り上げられていた帝国の兵士が一人、叫ぶようにそう言った。
「我々はただ、この村に休息を求めに来たのだ! それなのに! そこの女が突然攻撃を仕掛け、我らが隊長の首を刎ねたのだ!!」
あいつは確か……途中で指揮を取り出した兵士。
隊長の首を刎ねた事以外、全部嘘っぱちじゃないか! 完全に敗北したというのに、まだそんな反抗を見せるなんて……。
「その話は本当か?」
ガルアさんの冷たい声に、肩が跳ねる。
「ああ! そうだ! 全部本当の事だ!!」
「ちがっ……!」
違う、と叫ぼうとした私は、最後までその言葉を紡げなかった。
それは、その兵士の首元に刃を突きつけているガルアさんの姿が目に入ったからだ。
「な……何を……!?」
「本当の事を言え。でないと、今すぐお前の首を切り落とすぞ」
後ろに回り込んでその兵士の髪を掴み上げているガルアさんは、彼の首に刃を喰い込ませた。そこから少量の血が流れ落ち、兵士の瞳に恐怖の色が浮かぶ。
あんなに恐ろしい表情をしているガルアさんを見るのは初めてだ。彼のその表情は私に向けられたものではないのに、私まで恐怖を覚えてしまった。
「嘘です!!」
キールさんが縛り上げていた兵士が叫んだ。
「その者が言った事はすべて嘘です! 我々はこの村に休息に来たわけではありません!! 我々は……我々は、この村を襲いに来たのです!!」
「お前、何を言って……!?」
「お願いします! どうかっ、どうか命だけは! 命だけはお助け下さいっっ!!」
泣き叫ぶように言った兵士は、地面に額をこすりつけて懇願する。彼に続くようにして、次々と帝国の兵士たちが頭を下げ始めた。
ガルアさんに刃を突きつけられていた兵士もそれを見てようやく観念したのか、抵抗を示さなくなった。それを確認したガルアさんは、乱暴に兵士の頭から手を離す。
「フィリア」
「はい!」
「こいつらの隊長がいる場所、わかるか?」
「わかります」
「案内してくれ」
「はい」
私は立ち上がり、戦いの最中に帝国の兵士たちが遺体となったあの隊長を運び込んだ場所までガルアさんを案内した。ディックたち三人は、捕らえた帝国の兵士たちの見張りの為にその場に残った。
帝国の兵士たちは自分たちの隊長の遺体を戦いに巻き込まれ傷ついたりしないようにしたかったのだろう。案内した先にあった隊長の遺体には布が巻かれていた。ガルアさんが大きい方と小さい方、どちらの布も解いて中身を確認する。
「何があった?」
「アベリア村の訪問診療をしていたら帝国の兵士たちがやって来て、“ヴォルスト皇帝陛下に忠誠を誓え。今ここで忠誠を誓えば、貴様たちの命は助けてやろう”って言ってきたんです」
「それで?」
「答えないでいたら、突然兵士の一人が爆発したんです。彼らはそれを私がやった事として、村の人たちを皆殺しにすると言って武器を取りました。女性は慰み者にするとも……」
そして、私は隊長の首を切ったのだ。
私の話を聞いたガルアさんは、「そうか……」と一言呟くと立ち上がり、私を振り返った。
「よくがんばったな」
ポン、とガルアさんの大きな手が私の頭に置かれた。それからわしゃわしゃと撫でられる。
顔を上げて見れば、目が合ったガルアさんはニッと笑った。
いつもと変わらない、笑顔だった。
それを見たら、身体の中から何かが込み上げて来て、だんだんと目の前にいるはずのガルアさんの姿がぼやけてよく見えなくなる。
「とりあえず、今は泣いとけ」
そう言って、ガルアさんは私の身体を抱きしめた。
それがとても優しくて、あたたかくて、堰を切ったように涙が流れだした。
優しいガルアさんの腕の中で、私はしばらくの間声を上げて泣き続けた――。




