第39話 救援
残酷な描写がありますので、お読みになる際はご注意ください。
「バケモノ……」
アベリア村を襲いに来た帝国の兵士が一人呟いた。
彼の目の前で繰り広げられているのは、一人の紅い髪の少女が数十人の帝国の兵士の相手をしている光景。
この村に辿り着いた当初、村から出てきた少女を見た兵士の感想は特になかった。どうせ殺してしまう相手だ。そんなもの持ったところで何の意味もない。
それがどうだ?
どうせ殺す相手だと思っていたその少女は、目の前でこの小隊の隊長の首を刎ねた。
兵士は最初、何が起こったのか理解できなかった。彼が理解できたのは、地面に転がった生首となった隊長と目が合った時。その時にはもう、隊長を殺した紅い髪の少女に向かっていった別の兵士が燃やされていた。
隊長を失くし、仲間の一人を失った帝国の兵士たちは、敵であるその少女に一斉に襲い掛かった。これだけの人数が一度に向かって来れば、さすがに殺せるだろうと思っていた兵士たちは、すぐにその考えを改める事になる。
「ウィンド・エッジ」
紅い髪の少女が呟いた。
次の瞬間、無数の風の刃が少女に向かって行った兵士たちを襲った。着用していた鎧が砕かれ、吹っ飛ばされていく兵士たち。運悪く鎧の付けていない二の腕あたりに当たってしまった兵士は、そこから下の腕が地面に落ちてしまった。移動手段でもあった馬も風の刃で切り裂かれてしまった。
紅い髪の少女は悠然と戦場に立っている。
見た目はどこにでもいそうな普通の少女なのに、兵士たちは彼女が恐ろしくてたまらなくなった。
「うっ、うわぁああああああっ!!」
一人の若い兵士が恐怖から叫び出し、その場から逃げ出した。それに追随するように何人かの兵士たちも走り出す。
「逃がさない」
紅い髪の少女は呟くと、再び魔法を発動した。
帝国の兵士たちの周りを、少女の魔法によって作り出された岩壁が取り囲む。これで兵士たちは逃げ場を失ってしまった。
「そんな……!? そんなぁああああああっ!!」
「おい! しっかりしろ!! まだ負けたわけじゃない! 立て!!」
「救護班! 負傷した者の治療を急げ!!」
「はっ、はいっ……!!」
光属性の回復魔法が使える兵士が数人、紅い髪の少女によって怪我をして動けなくなった兵士たちに駆け寄り、治療していく。
「相手はたった一人! 持久戦に持ち込めば、勝機はこちらにある!!」
指揮を執り始めた兵士が、仲間を鼓舞するために声を張り上げた。魔法を使えば魔力を消費する。これだけの人数を相手にしていれば、すぐにそれは底を突くだろう。魔力回復薬を持っている可能性があるが、それを奪うか飲む隙を与えなければいい。たかが村一つを滅ぼす事など容易いと思い物資はあまり持って来ていなかったが、相手があの少女一人であれば十分持つ量だ。声を張り上げた兵士は勝利を確認したように笑みを浮かべる。彼の声を聞いて、その表情を見た恐怖で怯えていた兵士たちは、だんだんと平静さを取り戻していく。
しかし、帝国の兵士たちは知らなかった。
彼らの目の前にいる紅い髪の少女――フィリアの魔力量を。
彼女の魔力量はすでに3,000を超え、そうそう簡単に底が尽きる事はない事を。
◇ ◆ ◇
――どれくらい時間が経っただろうか……?
さすがにちょっと、疲れて来た……。
「スリープ!!」
襲い掛かって来た兵士を一人、闇属性魔法で眠らせる。その兵士の影から飛び出してきた兵士が振り上げて来た剣を受け止めて、彼にもスリープをかける。
眠らせたり、戦闘不能にさせた帝国の兵士たちを抜かせば、残りの人数は半分ほどにまで減った。冒険者になってからだいぶレベルも上がったとはいえ、ここまで戦えるとは正直自分自身に驚いてしまった。
「くらえ! ファイアボール!!」
「ホーリー・シールド!!」
飛んできた火の弾を聖なる盾で防ぎ、すかさず反撃してまた一人倒した。
そろそろ身体強化の魔法の効果が切れそうだ。一旦彼らから距離を置いて、魔法をかけ直さないと……。
そういえば、救援はいつごろ到着するのだろうか……って、あ゛っ!?
私は四方八方が岩壁に囲まれている状況に気づいた。
これでは救援が来たところでまずこの岩壁を崩す為に時間が取られてしまう。逃げ出そうとした帝国の兵士たちを逃がさないために自分でやった事とはいえ、やらかしてしまった。
どうしよう……? ここはファイア・バーストで岩壁の一部に穴を開けるか?
帝国の兵士たちへの警戒は緩めずにそう考えていると、突然大きな破壊音と地響きがした。
何事かとそちらに顔を向けて見れば、強烈な衝撃波がこちらに向かって来ていた。「ええっ!?」と驚きながらも慌ててそれを避ける。
しかし、衝撃波の勢いはすさまじく、風圧で飛ばされてしまった。これは直撃していたら無事では済まなかっただろう。
こんな力を持った兵士が隠れていたなんて……。
「死ねぇええええええ!!」
「しまっ……!!」
体勢を崩していたところを狙われてしまった。
振り下ろされるであろう兵士の剣を受け止めるために、咄嗟に双剣を頭の上で構える。
「……?」
けれど、一向にその剣は振り下ろされなかった。
どこかデジャヴを感じなくもないその状況に困惑していると、私に向かって剣を振り上げていた兵士が倒れたて来た。
「え……?」
驚いていた私は、倒れた兵士の後ろに見知った人物がいた事に気づき、自然と笑顔が浮かんでいた。
「気ぃ抜いてんじゃねえぞ! フィリア!!」
「ディック!!」




