第33話 夜の出来事
ディックたちと素材採取の依頼を終わらせた日の夜。
私は、ジョルナルドの安らぎ亭の厨房にいた。
「……フィリア?」
ふいに声をかけられて振り返って見れば、そこにはディックが立っていた。寝間着姿の彼はなんだか新鮮だ。
「何してんだ? こんな時間に……」
「ポーションを作ってたの」
「ポーション?」
手持ちしている体力回復のポーションなどの在庫が減ってきたので、グレイグさんの許可をもらって私は厨房でポーションを作っている。実は今日が初めてというわけではなく、ディックたちと知り合う前から時折こうして厨房を借りて作っているのだ。使っている鍋などの道具は私が用意したものだ。
厨房に入って来たディックが、私の手元を覗き込む。
「お前、ポーションなんて作れたのか?」
「うん。……あれ? 言ってなかったっけ?」
もう話した気でいたのだが、ディックに「聞いてねぇよ……」と軽く睨まれてしまった。ごめんなさい、と謝れば、ディックはひとつ溜め息をついて、また私の手元に視線を落とす。
「ポーションって、こんな風に作るんだな。初めて見た」
「そうなの?」
「薬師じゃねーからな。ポーションとかは店で買うわ」
「そっか……」
そうだよね。確かに私もゲームではお店で買っていた。物語を進めていって薬の調合なんかが出来るようになっても、材料を手に入れたりするのが面倒で、お店で買える物は店で済ませてしまっていたな。今は素材の採取もこうしてポーションを作るのも楽しくて、あまりお店は利用していない。
「ハァ……。全属性の魔法を覚えてて、さらにはポーションを自力で作れるって……。お前、実はとんでもねぇヤツだな」
「そ、そんなことな――」
「ある」
「……ウッス」
強く言われてしまって、ディックに言い返せなかった。
……もう、ポーション作りに集中しよう。
…………。
……………………。
「……あの、ディックさん」
「あ?」
「そんなに見られたら、集中できないんですが……」
さっきからものすごくディックからの視線を感じる。身体に穴があいちゃいそうだ。
「はっ、はあっ!? べつっ、別に見てねえよ!?」
「いや、見てたよね?」
「み・て・ね・え・よ!!」
「いひゃい、いひゃい!」
ちょっとディックさん! 思いっきりほっぺたを引っ張るのやめてください! 千切れる!!
私の抗議の声を聞き入れてくれたのか、ディックが手を離してくれた。
「バカな事言ってねえで、さっさとポーション作っちまえよ!」
「あい……」
なんで怒られているのだろうかと不満を抱きながらも、私は淡々とポーションを作っていく。
水の入った鍋に薬草を入れて、魔力を注ぎながら煮込んで、煮込まれた液体を濾して、冷やす。そうして薬瓶に液体を注いでいって、出来上がり。
「はい! 出来ました!」
一本の薬瓶を手に持ってディックに見せれば、彼はパチパチと小さく拍手してくれた。
「傍から見てると、結構簡単に作れそうだな」
「せっかくだし作ってみる?」
「いや、無理だろ」
「作り方教えるよ?」
「教えてもらったところで出来ねえモンは出来ねえよ」
むー……。確かにポーションなどを作る為には緻密な魔力コントロールが必要だとは言うけれど、ここまで拒まれると何となく無理やりにでも作らせてみたいという気持ちになってくる。
「ちょっとだけ! ね? ちょっとだけやってみない?」
「嫌だっての」
あー、やっぱりダメかー……。
これ以上無理強いするのは良くないかな……。
「そんじゃ、俺寝るわ。邪魔して悪かったな」
「あっ! ちょっと待ってディック!」
厨房から出て行こうとしたディックを呼び止めて、私は作って置いてあった回復ポーションなどを手に取って胸に抱えて持って行った。
「これ、貰って!」
「は? なんで?」
「前にジャイアントラビットから助けてもらったし、それにディックたちには何かとお世話になってるから、そのお礼! こっちが回復薬で、こっちが解毒薬と眠気覚ましの薬ね」
説明しながらディックに作ったポーションを渡していく。なんだかディックはぽかんとしているが、それに構わず私は渡した。
「いや貰えねえよ!?」
「え? なんで?」
「なんでって、これはお前が自分の為に作ったもんだろうが!」
「そうだけど……。でも、言ったじゃん。“お礼”だって。私、ディックたちにたくさんお世話になってるのに何のお返しもしてないな、って思ってさ。こんな物じゃ足りないだろうけど、貰ってくれると嬉しいな」
それに、私は回復魔法が使えるからポーションが切れても魔法で体力も怪我も治せる。魔力量が非常に多いから魔力切れになる事はそうそうないだろうし、状態異常無効のスキルを持っているから、毒だとか眠りだとかの状態異常にかかる事もないだろう。回復薬などを作っているのは、万が一という事があるかもしれないと思っての事だ。
「……わかった。ありがとな、フィリア」
「こちらこそ! いつもありがとう」
渡したポーションを抱え直して、ディックが厨房から出て行く。その背に向かって私は声をかけた。
「おやすみ、ディック!」
「おう。おやすみ」




