第32話 ディックたちとお仕事
私は今日、ディックたちと一緒に素材の採取に来ていた。
私が使える魔法の属性の事で嘘をついていたのがジークたちにバレた日、ゴーシュからパーティーを組もうと誘われた時にディックが「悪いけど、こいつは俺たちとパーティー組んでるから」と言ったのがきっかけで、私は本当に彼らとパーティーを組むことにした。
とはいえ、パーティーを組んだから今後は絶対に彼らと一緒に仕事をしなければならない、というわけではないので、私は今まで通り一人で依頼を受けていた。私の冒険者ランクはEで、ディックたちのランクはC~Bと離れてしまっているからね。
だけどこの間、ガルアさんが急に「フィリア! いい加減俺たちと一緒に仕事しようぜ!」と言い出して、あれよあれよという間に素材採取の依頼にガルアさんたちがついて来る事になった。
「あー……ヒマだ……」
木の幹に寄り掛かり座り込んでいたガルアさんが、空を仰ぎながら呟いた。
普段は基本的に討伐依頼を多くこなしているという話だし、確かに素材を採取するだけで、魔物と遭遇しなければ戦いも発生しない素材採取の依頼はガルアさんからしてみたらつまらないものだろう。
「ちょっとガルアさーん。しっかりやってくださいよー」
「だぁってよー」
「フィリアと一緒に仕事がしたいと言い出したのはガルアさんですよ」
ああ……。ガルアさんがルディさんやキールさんに叱られてしまっている。
ごめんなさい。私が討伐依頼を受ければよかったですね……。
「お、すげー。高品質じゃん」
「うおっ!?」
突然隣から声がしてびっくりして振り返って見れば、先ほどまで少し離れた場所で採取していたはずのディックがいた。可愛らしくない声を出してしまった……。
ディックは鑑定メガネで私が今採取したスイミ草を見ている。
「ディックさん。何をしておられるのですか?」
「品質チェック。お前ホント素材採るの得意なんだな」
「うん! ディックの方はどう?」
尋ねてみれば、ディックが採って来たスイミ草と鑑定メガネを差し出してくる。私はどちらも受け取って、鑑定メガネを使って品質確認をした。
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【スイミ草】
品質:高品質
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「おおっ! 高品質だ! すごいね、ディック!」
「別にすごかねーよ。お前が採り方教えてくれたからだし……」
照れたように頬を掻いたディックは、「……ありがとな」と言った。その声は小さかったけれど、私の耳ははっきりと彼の言葉を捉えていた。
ディックには何度も助けてもらっていて、私が彼にお礼を言う事はあっても、彼が私にお礼を言ったのは今回が初めてで。ディックの役に立てたという事が嬉しくて、私は自然と笑顔になっていた。
「どういたしまして!」
「……おう」
「お二人さ~ん。良い雰囲気ですね~」
「へ?」
ディックと話していれば、いつの間にかルディさんが近くまでやって来ていた。
「おまっ!? 変な事言ってんじゃねぇぞ!?」
「え~? 変な事ってぇ?」
「男がクネクネしてんじゃねえ!! 気持ち悪ぃ!!」
目の前でディックとルディさんの言い合い(……と言っても、ディックが一方的に怒鳴っているだけだが)が始まってしまった。
どうしよう……。よく見る光景だけど、これは止めた方がいいんだろうか?
……ハッ! キールさんの目が今光った気がする!!
「ふっ、二人共! とりあえずその辺にしませんか!?」
「ハァ!? なんで……」
言い返そうとしてきたディックに、私は背後にいるキールさんを指さす。私の指の先を追ってそこに誰がいるのか確認できたであろうディックは、キュッと口を結んだ。ルディさんは腹を抱えて笑っている。
「フィリア」
「はっ、はい!?」
キールさんに名前を呼ばれて思わず背筋が伸びてしまった。
私のところにやって来たキールさんは、「これを」と言って今回受けている採取依頼の素材を差し出した。
「品質は確認してある。すべて高品質だ」
「ありがとうございます!」
「いや、こちらこそ。採り方を教えてくれたおかげで、俺でも高品質の素材を採取する事が出来た」
「ありがとね~」
キールさんやルディさんにもお礼を言われて、嬉しくなる。
ディックたちが一緒について来るという事で思い切って素材採取の依頼を三件同時に受けてみたのだが、やっぱり一人でやるよりも人数が多い方が早く終わらせられる。それに彼らが採って来てくれた素材の品質はすべて高品質のもの。確かにやり方は教えたが、一度の説明でこうして高品質の素材を採って来れたのだから、彼らには素材採取の才能があるのかもしれない。
「これで依頼されていた物はすべて揃ったので、そろそろサルビアに帰りましょうか」
もうガルアさんが限界そうだ。
それはキールさんたちも思っていたようで、彼らはガルアさんを見て頷いた。
「ガルアさん! 帰りますよ!」
「おっ!? そうか!」
嬉々とした声を上げてガルアさんは立ち上がった。その様子に「ガルアさん、何しに来たんです?」と心の内でツッコんでしまった。
「ん? なんだこの実?」
少し歩いたガルアさんが、木の枝に成っていたオレンジ色の木の実に気づく。風船のように膨らんでいるあの木の実は、確か――。
「なんか皮むけそうだな、これ」
「ガルアさん! むいちゃダメです!!」
「え?」
制止の声を上げたけれど、遅かった。ガルアさんが実の皮をペリッと剥いでしまった。それを見て、私は咄嗟に地属性魔法である“ロックウォール”を発動する。これは、岩の壁を形成して攻撃を防ぐ防御技だ。
ドン、ドンと岩壁に何かが衝突する音がする。それと一緒に、ガルアさんの悲鳴も。
「ガルアさん!?」
「フィリア、一体何が――」
音が止んだのを確認して、キールさんたちと共に岩壁の向こうを確認する。
こう言うのはガルアさんに対して悪いというか、失礼かもしれないが……なんとも間抜けなポーズを決めたガルアさんがそこにいた。
彼の頭や脇の先にある木の幹には何かがめり込んでいるので、それをかわした結果こんな格好になってしまったのだろう。
私はガルアさんがむいてしまった木の実を手に取り、キールさんたちの元に戻る。
「何だそれ?」
「……あ! これって、“スカットの実”?」
「そうです」
――そう。ガルアさんが先ほど皮をむいてしまった木の実は“スカットの実”。拡散爆弾を作る為の材料となる素材だ。
この木の実を採取する際には、一度皮に小さな穴を開けて中に詰まっている空気を抜いておく必要がある。それをせずに皮をむくと、今みたいに中にある実がまるで弾丸のように四方八方に飛び散るのだ。
「ガルアさん……生きてます?」
「な……なんとか……」
かすれた声でガルアさんが返事をくれた。
……ごめんなさい、ガルアさん。我慢の限界です。
「あははははははっ!!」
「なっ!? 笑うとかひどいぞ、フィリア!!」
「すっ、すみません……!! でも……!!」
下手をすればガルアさんは大怪我を負ってしまっていた。
けれど、先ほどのガルアさんのポーズが何と言うかもう、ツボに入ってしまって、笑いを我慢しきれなかった。
本当にごめんなさい、ガルアさん。
「素材の採取をサボった罰ですね」
「ちょっ、キールまで!?」
「ほら、早く立ってくださいよ」
「そうですよ~。町に帰るんですから~」
「お前らちょっとは俺の心配しろよ!?」
最後にハプニングはあったものの、こうしてディックたちパーティーとの初めての仕事は終わったのだった。




