第29話 ガルアの二つ名
「こんにちはー」
「あら、フィリアちゃん。おかえりなさい!」
今日はレドルフからの指名依頼を受けた。
依頼されていた素材の採取を終えてまごころ診療所に戻って来れば、カローナが出迎えてくれた。
「今ちょうど患者さんがいないから、カウンターの所で待っててくれる? レドルフ呼んでくるから」
「わかりました」
カローナがレドルフを呼びに奥に消えていくのを見送って、私はカウンターの前に置かれている椅子に腰を下ろす。
レドルフが来た時にすぐ素材の品質確認ができるように、カウンターに採ってきた素材を並べて置いておこうかな。
「お待たせしました!」
採ってきた素材を並べ終えた時、ちょうどレドルフがカローナと共にやって来た。
「こんにちは、レドルフさん」
「こんにちは。相変わらず仕事が早いですね」
仕事が早いと褒めてもらえた。嬉しいな。
レドルフはカウンターに並べられた素材を数えていき、数え終えた彼は「はい、確かに」と言って並べられている素材を片付け始めた。
あれ? 今日は品質確認をしないのだろうか?
「レドルフさん、品質の確認を……」
「その必要はありませんよ。あなたが持って来てくれる素材は絶対に良い品質の物ですから」
まあ確かに、ここに持ってくる前に解析鑑定ですべての素材の品質が高品質である事は確認済みではあるが……。レドルフは私の事を信頼してくれているんだなぁ、と思うとまた嬉しくなった。
「こちら今回の報酬です」
「ありがとうございます」
レドルフから渡された報酬の入った袋をマジックバックにしまう。依頼書にサインをしてもらったので、あとはこれを提出しにギルドに戻ろう。
「本当にフィリアちゃんには助かってるわ~。訪問診療も手伝ってくれて」
「そうだね」
カローナの命を救う為ですからね! 絶対に訪問診療にはついて行きますよ!
「ありがとうね、フィリアちゃん」
「いいえ! こちらこそです!」
ありがとうございました、と言ってまごころ診療所をあとにした私は、冒険者ギルドに向かって歩き出す。
私がレドルフたちと知り合ってから行われた訪問診療は全部で2回。そのどちらにも付き添ったが、どちらの日も帝国の兵士が攻めてくることはなかった。
けれど、気を緩めちゃダメだ。来年の4月までの間に行われる訪問診療は残り7回。そのうちのどれかで絶対に帝国の兵士が村を襲う。まずは二週間後の訪問診療を警戒だ。
◇ ◆ ◇
「――はい。これで指名依頼は完了になります」
お疲れ様でした、とギルドの受付職員から冒険者カードを受け取る。
まだ時間もあるし、もう一つくらい何か依頼を受けようかな。
そう思ってEランクの依頼書が貼られている掲示板に向かおうとした時、「よぉ、フィリア!」と声をかけられた。聞き覚えのある声に振り返って見れば、やっぱりガルアさんがいた。
「依頼は終わったのか?」
「はい、ついさっき」
「早ぇな。採取しないといけない素材、結構数あっただろ?」
「素材の採取は得意分野だから!」
どの素材がどこに生息しているかはゲームをやっていて大体覚えているし、特殊スキル“解析鑑定”でその素材の正しい採取方法がわかるから高品質の素材を難なく採る事が出来る。おかげでレドルフや他の人たちから素材採取の指名依頼をもらえてそれなりに安定した収入が入ってくるので、解析鑑定様様だ。
「へぇ~。それじゃあ素材の採取依頼を受ける時にはフィリアに付き合ってもらおっかなぁ?」
「いいですよ。私で良ければ」
「ホントに? ありがとう~」
「依頼完了の手続き終わったぞ」
ディックたちと話していれば、キールさんがやって来た。
「ん? 報酬は?」
「後日受け取りになりましたよ」
あれ? なんだかキールさんの声が冷たいような……。っていうか、なんかキールさんやルディさん、ディックの目線がすごく冷ややかだ。どうしてそんな目をしているのだろうか? 確かディックたちが受けた依頼は魔物の討伐依頼だったはずだが、その依頼で何かあったのだろうか?
「ど、どうしたの?」
「あ? 何が?」
「なんか、ディックたちのガルアさんを見る目が冷たい気がしたんだけど……」
不思議に思って近くにいたディックにコソコソと耳打ちして聞いてみれば、彼は「ああ……」と据わった目をガルアさんに向けた。
「ガルアさん、また壊したんだよ」
「何を? っていうか、“また”って?」
「あー、お前知らねぇのか。ガルアさんの二つ名」
「二つ名?」
二つ名ってあれでしょ? ○○の錬金術師とか、○○王子とか、○○の貴公子みたいなヤツでしょ?
一体ガルアさんにどんな二つ名が――
「“壊し屋ガルア”」
――え?
「あの人よく壊すんだよ、建物とか」
いや、何をそんな当たり前みたいな感じで言ってるの?
え? ガルアさんって破壊衝動でもあるの?
ディックの話によると、魔物などの戦闘でガルアさんが暴れ回って近くにある物を壊してしまう事があり、“壊し屋ガルア”はその様子からつけられた二つ名だそうだ。せっかくの報酬も、ガルアさんが壊してしまった物の修理費などが差し引かれてしまうという。
「もしかして、さっきディックたちがガルアさんを冷たい目で見てたのは……」
「そ。あの人また暴れて物を壊しちまったんだよ。あーあ。今回はどんだけ減らされちまうんだろうな」
ちょっ、ディック! そんな声大きくしたらガルアさんに聞こえ……ちゃってるね。ガハガハ笑ってキールさんと話していたガルアさんの顔色が悪くなっちゃったよ。
「あー! そうだ! フィリアに頼みたいことがあったんだ!」
「なんですか?」
「ちょっと回復魔法で治してもらいたくてなー……痛っ! 何すんだよ、キール!!」
「フィリアを便利屋みたいに使わない!」
回復魔法が必要という事は、どこか怪我をしているのでは? 見たところ外傷はなさそうだけど……。
「あの、私なら大丈夫ですよ?」
「ほら! フィリアがこう言ってるし!」
ガルアさんが私の後ろに回り込んだ。なんかこれ、私を盾にしてるみたいだな。
目の前にいるキールさんはというと、ガルアさんの態度に対してであろう溜め息をついている。
「フィリア、ガルアさんを甘やかすな」
おっと、私に対する溜め息だった!
別に甘やかしてはいないと思うのだけど……。
「回復魔法って……。フィリア、光属性の魔法が使えるのか?」
……え?




