第25話 大事なお話
一部内容を修正しました。
私は今、冒険者ギルドに来ている。なぜかというと、ギルドマスターであるマルロスに呼び出されたからだ。
今回部屋まで案内してくれたのはヴィーラさんだ。彼女にはキブシ村の討伐依頼の件でひどく心配をかけてしまい、しかも「私が依頼を受理しなければ」と思い悩ませてしまった。
「今回お呼びしたのは、キブシ村の件でフィリアさんにお渡ししたいものがあるのと、大事なお話があるからです」
「大事な話、ですか……」
渡したいものというのは、おそらく報酬の事だろう。
では、“大事なお話”というのは?
キブシ村に関わる事なら、私だけではなくキールさんたちもいた方が良いと思うのだが……。
「こちらです」
ヴィーラさんが部屋の扉をノックすると、中からマルロスの声がした。扉を開けてくれたヴィーラさんにお礼を言って、部屋に足を踏み入れる。てっきりヴィーラさんとはここでお別れかと思っていたが、なぜか彼女も一緒に部屋に入って来た。
「急に呼び出してすまないな」
「いえ、大丈夫です」
その事を不思議に思いながらも、私はマルロスの向かいの席に腰を下ろす。それを見届けたマルロスが、ヴィーラさんに目配せした。ヴィーラさんは頷くと、ある物を私の目の前に置いた。それを見た私は飛び出してしまうんじゃないかというほどに目を見開いた。
ヴィーラさんが私の目の前に置いた物、それは――お金だった。それも札束。
トレイの上には札束以外に袋も置かれていて、開いて中を見てみればそこにも硬貨がびっしりと入っていた。
「こ、これって……!?」
「討伐依頼の報酬と慰謝料だ」
「むしり取ってやりましたよ! 私としてはこれでもまだまだ足りないと思いますが……」
おお、拳を握ってまでこんなにも声を荒げたヴィーラさんは初めて見た。マルロスと一緒に思わず見つめていれば、私たちの視線に気づいたヴィーラさんが「失礼しました」とひとつ咳払いをした。マルロスがその様子を見て笑う。
「まあ、私としてもヴィーラと同意見だよ。すまないな」
「いいえ! 十分です!」
「一応ここに書かれている金額があるか確認してもらえるか?」
これ、元の報酬の何倍だろうか? ……ちょっと怖いが、頑張って数えよう。
手の震えを何とか抑え込み、お金を数える。硬貨の枚数を数えるのは少し骨が折れたが、何とか数え終わった。
「はい。問題ありません」
「ありがとう。もしよければ、口座があれば送金するが……」
「お願いします!」
こんな大金を手に持っていることが怖くて即答してしまった。マルロスに笑われてしまったが、しょうがない。
……あ。そういえば。
「あの……」
「ん? なんだ?」
カガチ村長は、キブシ村はどうなったのかを聞こうとして、やめた。
気にはなるが、この件についてはもうギルド側に任せているのだから私が出しゃばっていいものではないだろう。マルロスの口からその事について話される気配がないから余計にだ。
「いえ、何でもないです」
「そうか? それじゃあ次に、君に伝えなければならない大事な話がある」
それまでにこやかだったマルロスの表情がスッと引き締められた。何だか緊張感漂う空気に、私は背筋を伸ばした。
一体どんな話なのだろうかと、ドキドキしながらマルロスの次の言葉を待つ。
そして、彼は言った。
「――おめでとう! 今日から君はEランクの冒険者だ!」
……へ?
「え……? Eランク……?」
「ああ!」
「おめでとうございます!」
「あ、ありがとう、ございます……?」
……って、ちょっと待って。確か一つ上のランクに昇格する為には、依頼をこなして一定数のポイントを得る必要がある。私はまだEランクに昇格できるだけのポイントは稼げていない。
「あの、私はまだ昇格の条件を満たしていないと思うのですが……」
「確かに君が今の時点で集めたポイント数は昇格する為に必要な数に到達してはいない。……だが、君にはもう十分その資格があると判断し、私が推薦した」
「それは、つまり……ギルドマスターの推薦によってEランクに昇格できたという事ですか?」
私がそう尋ねれば、マルロスは二ッと笑った。
いいのか!? そんな事があっていいのか!?
というか、私にはそんな資格があるとは思えないのだが……。
「君には昇格に足る資格が十分にあるよ。甘んじて受けなさい」
「――はい」
……そうだ。うだうだ言うなんて、せっかく推薦してくれたマルロスに失礼だ。
これからはEランクの冒険者として、今まで以上に頑張っていかなければ! 推薦してくれたマルロスに報いる為にも!
「……ちなみに、何も君だけってわけじゃないぞ」
「え?」
「“一定数の依頼をこなす”というのは、あくまで指標。冒険者本人に十分な能力があると判断されれば、基準値の依頼をこなさずとも昇格できるんだよ。ジークとか、リオンとか……あと、ディックもそうだったな。まあ、Bランク以上に昇格する時にはたとえ推薦があっても必ず試験は受けてもらうがな」
そ、そうだったのか……。知らなかった……。
でも、そっか。私だけじゃないなら、何だか気持ちも楽だ。
ふと、マルロスの方を見てみれば、彼はなぜだか微笑みながら私を見ていた。
「どうかしましたか?」
「いや……。フィリア、君は嘘が苦手だろう」
「え!?」
突然何を言いだすのか? しかも、なんでそんな確信を持ってというか、自信満々に言うのだろう?
……まあ、確かに嘘は得意な方ではないが……。
「な、何でそんな事を……?」
「君は表情に出やすいみたいだからな」
表情!?
私は思わず自分の頬を押さえてしまった。
「コロコロ変わる表情は見ていて飽きないが、他人と何か取引などをする時には気をつけた方がいい。手の内がバレバレになる」
「き……肝に銘じます」
◇ ◆ ◇
マルロスとの話を終えた私は、一階に降りて依頼書が貼られている掲示板の前でグニグニと頬を弄りながら突っ立っていた。
表情に出やすいか……。もしかして、じーくに告白して来た相手を聞いてきたグレイグさんや、私の魔法の属性を聞いてきたジークたちには、私が嘘をついていることがバレてしまっていたのだろうか……?
そういえば、グレイグさんの時のは結構態度に出てしまっていた気がする……。あの時グレイグさんは特に追及してこなかったけど、もしかして察してくれて……?
うわー! だとするとなんかものすごく恥ずかしい!
「何してるんだ? フィリア?」
うんうんと唸っていると、後ろから声をかけられた。
この声は――
「ジークさん!」




