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第24話 私の武器


「う、うーん……」


 苦しさを感じて目を覚ます。最近の私の目覚めはいつもこんな感じだ。

 私は一緒に寝ていたニコちゃんの頭を撫でる。もう起きてるんじゃないかと思うほど、私の服を握っているニコちゃんの力が強い。


 あの日、私が宿に倒れてしまってから、ニコちゃんとは一緒に眠っている。

 それは、ニコちゃんが「いっしょにおねんねしてもいい?」と聞いてきたことが始まりだ。

 ニコちゃんからのお願いを断る理由なんてなかったから「もちろんいいよ!」と言って了承した私は、後日セレナさんからの話でどうしてニコちゃんがそんな事を言ってきたのか、その理由を知った。


 私が倒れてグレイグさんにまごころ診療所に運ばれた日の夜、突然ニコちゃんが泣きながらグレイグさんとセレナさんの寝室に駆け込んできたそうだ。


「おねえちゃんが! おねえちゃんが死んじゃったよぉ……!!」


 そう言って、ニコちゃんは一晩中泣いていたという。

 私が戻ってきたとはいえ、あの日の出来事はニコちゃんにとって相当なトラウマとなってしまっているようだ。

 連日のようにニコちゃんが私の元に来て一緒に寝ているのは、“また私がいなくなってしまうんじゃないか”という不安感から来ているのだろう。

 こんな小さな子に恐い思いをさせてしまうなんて、本当に申し訳ない事をしてしまった。


「んむ……」


 身じろいだニコちゃんの目がうっすらと開かれる。何度か瞬きしたニコちゃんの目が、私を捉えた。

 私は少しでもニコちゃんが安心できればと、笑ってニコちゃんの頭を撫でた。


「おはよう、ニコちゃん」


 腕の中にいるニコちゃんは、ほっと安堵したように息を漏らすと笑顔で「おはよう! おねえちゃん!」と返してくれた。




◇   ◆   ◇




「遅ぇ」


 ニコちゃんと共に一階に降りて食堂に行けば、開口一番にディックにそう言われた。

 確かに今日はいつもよりのんびり起きて来たので、彼に言い返す言葉がない。


「ごめん、ディック。すぐ準備するから」

「……ったく」


 もうすでに朝食を食べ終えたのか、ディックはテーブルに立てかけていた木刀を持って食堂から出て行った。これ以上彼を待たせるわけにはいかないから、私も急いで食べなければ。


 まごころ診療所から戻って来てから一週間。私はディックに稽古をつけてもらっている。

 それは、このままでは帝国の兵士からカローナを助けられないと思ったからだ。


 私は弱い。


 カローナを助けるんだと意気込んでおきながら、今の私では彼女どころか自分の身すら守り切れないだろう。

 だから私は、同じ片手剣使いであるディックに稽古をつけてほしいと頼み込んだ。断られるかと思ったけれど、有難い事に彼は私の頼みを聞いてくれた。


「ディック! おまたせ!」


 急いで朝食を食べて支度を整えた私は、ジョルナルドの安らぎ亭の裏手の庭で待っていた彼の元に走った。地面に座り込んでいたディックが立ち上がる。


「んじゃ、始めるぞ」

「はい! お願いします!」


 グレイグさんが用意してくれた木刀を構える。

 目の前にいたディックが一気に距離を詰めてきて、持っていた木刀を横殴りに振ってきた。それを防ごうとしたけれど、ディックの力が強く、防ぎきることが出来なかった。


「脇締めろ! 踏ん張りも弱ぇ! 何度言えばわかんだバカ!!」

「ご、ごめんなっ……」

「喋ってる暇あんなら集中しろ!」


 ディ、ディックの鬼コーチ!

 ……でも、早く強くなる為にはこれだけ厳しくしてもらった方がいい!


 次々と仕掛けてくるディックの攻撃を何とか躱したり、防いだりしながら攻撃をし返すのだが、どれも簡単に防がれてしまう。稽古をつけてもらってから、私はまだ一度もディックに攻撃を決められていない。経験の差があるとはいえ、やっぱり悔しい。


「なんかやり辛そうだなぁ」


 どうすれば攻撃を決められるだろうかと考えていると、後ろからグレイグさんの声がした。振り返って見れば、建物に寄り掛かりながら腕を組んだグレイグさんがそこに立っていた。


「やり辛そうって?」


 ディックが尋ねた。私もグレイグさんの言っている意味が分からず、首を傾げる。


「武器を振るっているフィリアの動きが、なーんか悪い気がすんだよ」

「それはこいつがまだまだ弱っちぃからじゃないッスか?」

「うーん……」


 グレイグさんは私を見て首を捻っている。

 私はというと、手に持っている木刀を見た。これまで片手剣を使っていて、やり辛いとかそんな事を感じたことはないのだが……。


「ちょっと待ってろ」


 グレイグさんはそう言うと、宿屋に戻ってしまった。それを見送った私とディックは顔を見合わせ、どちらともなく首を傾げた。





 ディックに稽古をつけてもらいながらグレイグさんの帰りを待っていれば、戻って来たグレイグさんはなぜか一本の木刀を手に持っていた。


「フィリア! ちょっとこれも使ってみろ!」


 グレイグさんが手に持っていた木刀を投げてきて、私は慌ててそれをキャッチする。今使っている木刀ではなく、この木刀を使ってみろという事だろうか? でも、今もらった木刀と、今まで使っていた木刀とは何ら違いはないと思うのだが……。

 私が使っていた木刀をその場に置いて、もらった木刀を構えれば、グレイグさんが「違う違う!」と言った。


「それ二本でやってみろって事だ」

「へ……?」


 それはつまり、二刀流って事ですか?

 いや……ゲームではよく双剣で戦っていたけれど、実際にやるのとはわけが違うだろう。

 私は戸惑いながらも、言われた通り二本の木刀を手に持った。


「……あれ?」


 なんだか、しっくりくるような……?


「いくぞ!」


 不思議に思いつつも、向かってくるディックを迎え撃つために私は木刀を構えた。

 そして、振り下ろされたディックの木刀をしっかりと受け止めた。


「……!?」


 私もディックも驚いてしまった。

 ディックがすかさず二撃目を繰り出してきたが、それにもしっかりと対処することが出来た。武器が二本に増えたからとかそんな事ではなく、私にとってはこれが正しい形のような……とにかく、なんだかすっごくやりやすかった。


 カン、カンと、木刀同士がぶつかる音が庭に響く。

 こんなにも打ち合いが続いたのは、初めてだ。今までは大体がディックの攻撃を受けきれなくて木刀を吹っ飛ばされてしまったりしていたから、数回ほどしか打ち合うことが出来なかったのに。


 これは――いけるかもしれない!




◇   ◆   ◇




 ……いけませんでした。


 あー。今日も空が青いなぁ……。


「惜しかったなー!」


 私の視界にグレイグさんが映った。

 仰向けで寝転んでいた私は、身体を起こしてグレイグさんを振り返る。


「かなり動きが良くなってたぞ、フィリア」

「本当ですか!?」

「やっぱ二本にして正解だったな。ディックも焦って、本気になってたし……」

「別に本気になってないッスよ!」


 横からディックの抗議の声が飛んだ。

 それから彼は不貞腐れたようにこう言った。


「得物が二本と一本じゃ、一本しかない俺の方が不利じゃないッスか」

「本当にそう思ってんのか?」

「う……」


 グレイグさんの反論に、ディックが口を噤む。

 私自身ディックと良い感じに戦えたのは武器が増えたからだと思った部分はあったけれど、それよりも片手剣だった時より双剣の方が格段に動きやすかったのだ。今まで双剣など扱ってきたことはなかったのに、なぜかこの形が私にとっては“当然”のような、初めてとは思えないほどまったく違和感を感じなかった。


「こりゃ、フィリアがディックから一本取る日は近いなぁ」

「……だぁああああ!! フィリア! 休憩は終わりだ!! もっかいやるぞ!!」

「え!? もうちょっと休みた……」

「うるせえ!! 実力の差ってヤツを思い知らしてやる!!」


 グレイグさん!? ディックの事焚き付けましたね!? っていうか、焚き付けすぎじゃないですか!?


「ブッ飛ばしてやる!!」

「え、えぇえええ……」




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