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第22話 みんなでジョルナルドの安らぎ亭へ


 今回のキブシ村からの討伐依頼については、虚偽の内容だったこともあり、いろいろな事が片付くまで報酬の支払いは保留となってしまった。


 また、私が討伐したホーンラビットの正確な数を知る為に魔道具を使って冒険者カードを確認した結果、最初に討伐した6体を含めて合計で44体ものホーンラビットを倒していた事が判明した。一緒にそれを確認したマルロスは、頭を抱えていた。


 私はというと、無我夢中だったとはいえ、そんなにも大量のホーンラビットを倒していたのかと驚いてしまった。

 キブシ村の件について冒険者ギルドに任せた私は、ガルアさんたちと共にギルドをあとにした。


 冒険者ギルドから出たところで、私は彼らに頭を下げた。


「あの! 何から何まで、本当にありがとうございました!」


 ジャイアントラットから助けてくれた事や、キブシ村のカガチ村長に今回の討伐依頼が虚偽であった事を認めさせたり、ギルドマスターへの報告だったり、昨日から彼らにはお世話になりっぱなしだ。


「いや、こちらこそ。ディックの怪我を治してくれてありがとう」

「そんな畏まらなくていいよ~」

「お礼なら酒を奢ってくれたらいいぞ!」


 キールさんやルディさんの言葉を聞いて、本当に優しい人たちだと思った矢先のガルアさん。思わず笑ってしまった。

 ああ、キールさんがガルアさんに肘鉄をかましている。


「ごめんね~。ウチのリーダーが……」

「いいえ! 懐に余裕があるわけじゃないですが、少しなら――」

「やめとけ。容赦なくすっからかんになるまで飲まれるぞ」


 少しなら奢れると言おうとしたところをディックに遮られてしまった。ルディさんも「ガルアさん酒豪だからねぇ」と苦笑している。


「そ、そうなんですね……」

「とりあえず俺はもう宿に行って休みてぇよ」

「さんせーい」


 ルディさんがキールさんとガルアさんに声をかけに行った。

 私もジョルナルドの安らぎ亭に帰ろう。

 そういえば、一日宿に帰らなかったのは初めてだな……。グレイグさんたちに心配をかけてしまっただろうか。


「どうせなら宿まで送ってくぞ! フィリア!」


 ガルアさんに声をかけられてハッとする。


「いえ! そこまでご迷惑をかけるわけには……」

「気にすんなって!」

「でも……」

「いいからいいから! どこの宿だ?」


 なんか、ガルアさん必死な感じが……あ。なるほど。キールさんから逃げたいのか。

 ガルアさんの背後で彼を睨んでいるキールさんの姿を見て、納得してしまった。

 これは、お言葉に甘えた方が良さそうかな?


「それじゃあ、ジョルナルドの安らぎ亭までお願いできますか?」


 そうガルアさんにお願いすれば、彼やディックたちがきょとんとした。

 え? 何その反応?


「なんだ! お前グレイグんとこに泊まってんのか! 奇遇だなぁ。俺らもこれからそこに行くとこなんだよ!」

「え!? そうなんですか!?」


 何たる偶然!

 世間は狭いとはこのことだなと思っていると、ガッとガルアさんが首に腕を回してきた。ちょっと痛いです。


「おっしゃ! そんじゃあグレイグんとこ行くぞー!」


 ガルアさんのその掛け声と共に、私たちはジョルナルドの安らぎ亭を目指して歩き出した。




◇   ◆   ◇




 ジョルナルドの安らぎ亭に辿り着いた。

 昨日帰って来てないだけなのに、なんだかもうずいぶんと帰って来ていなかったような、懐かしい気持ちになってしまった。


「久しぶりだなぁ」


 ガルアさんがジョルナルドの安らぎ亭を見上げながらそう言った。

 私の心の声が読まれたかと思った。


「三ヶ月ぶりくらいか?」

「ニコちゃんとアルドくん、元気にしてるかなぁ」

「俺早くグレイグさんの飯食いてぇ」

「おーい、グレイグー」


 ジョルナルドの安らぎ亭の扉を開けて、ガルアさんを先頭にぞろぞろと中に入って行った。

 本当に彼らは賑やかだなぁ。

 ガルアさんたちに少し遅れて宿に足を踏み入れれば、食堂の入り口の前でガルアさんたちがグレイグさんと話をしている姿があった。


「久しぶりじゃねーか、ガルア! 仕事は終わったのか?」

「おうよ! また世話になるぜ!」

「ああ! ――フィリア!?」


 ガルアさんと話していたグレイグさんは私の姿を認めると、声を上げた。それからギュッと眉間に皺を寄せると、ドスドスと音を立ててこちらに歩いてやって来た。


 ……めちゃくちゃ怖いんですけど。


 グレイグさんは私の目の前に立つと、じっと私の事を見下ろしている。

 一言も発さずに、グレイグさんはただただ私を見下ろしている。


 ……あの、本当に顔が怖いんですけど……。


「あの、グレイグさ――!?」


 口を開いた途端、グレイグさんが突然両腕を広げた。

 なんだ!? と驚いていると、次の瞬間私はグレイグさんのその逞しい腕に抱きしめられていた。


「グ、グレイグさん!?」

「無事で、良かった……」


 どうしたのかと驚いていれば、グレイグさんは絞り出すようにそう言った。

 その言葉と共に、私を抱くグレイグさんの腕に力が入る。

 なんだか、視界がぼやけて来た。


「フィリアおねえちゃん!」


 上から声がしたかと思ってそちらを向いて見れば、二階に続く階段の途中にニコちゃんとアルドくん、セレナさんがいた。三人とも、目を丸くして私の事を見ているように思える。


「お、おねっ……おねえちゃぁあん!!」


 ニコちゃんがその大きな目からボロボロと涙をこぼしながら腕を伸ばして駆け寄って来た。私はニコちゃんの小さな身体を抱き留める。お腹辺りが湿っていった。


 ギュウギュウと私の事を抱きしめているニコちゃんは、ずっと「おねえちゃん、おねえちゃん」と口にしていた。


 ぽたぽたと、ニコちゃんの頭に置いている私の手に雫が落ちる。


「ごめん……。ごめんね、ニコちゃん……。帰るの遅くなって……心配かけてごめんね」


 抱きしめているニコちゃんが、何度も首を横に振った。


「グレイグさんも、セレナさんも、アルドくんも……本当に、ごめんなさい」

「お前が謝る事なんてなんもねーさ。無事に帰って来てくれりゃ、それでいい」


 そう言って、グレイグさんの大きな手が私の頭を乱暴に撫でた。

 セレナさんがそっと私の肩に手を置いて、優しく抱き寄せてくれた。

 アルドくんは、私の服の裾をギュッと握った。泣かないようにぐっとこらえている彼の姿を見て、また涙が出て来た。


 ――とても優しい人たち。

 そんな人たちに心配をかけてしまった事に、胸が痛くなる。


「ほれ、ニコ。いつまでも引っ付いてちゃ、フィリアが休めねぇだろ」


 離れろ、と言ってグレイグさんがニコちゃんの肩を掴むも、ニコちゃんはイヤイヤというように首を横に振った。


「言う事聞きなさい」


 グレイグさんはそう言うと、ベリッとニコちゃんを私から引き剥がして、ニコちゃんを抱き上げた。


「いやー! おねえちゃあん!」

「大丈夫だよ、ニコちゃん! 私はここにいるからね」

「フィリア、腹減ってないか? すぐに用意するぞ」

「はい。お願いします」

「グレイグさん! 俺も腹減ってるからなんか食いたいッス!」


 ディックが手を挙げた。それに対してグレイグさんが「おう、任せとけ! お前らの分もちゃんと用意すんぞ!」と言って、ニコちゃんを抱き上げたまま食堂へと向かう。他のみんなも揃って食堂へと入って行った。



 ……帰って来たんだなぁ。

 


 食堂へ入って行くみんなを見送って、「さて、私も行こうかな」と一歩足を踏み出した瞬間、そこで私の意識は途絶えた――。




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