第21話 ギルドマスターに報告
キブシ村を出た私たちは、サルビアの町への帰路についていた。
「すごいですね、あの魔道具! 声を録音できるアイテムがあるんですね!」
先ほどディックさんが持っていた指輪のついた球を思い出して話しかければ、キールさんはなんてことないように言い放った。
「ああ。あれは嘘だ」
「――え? 嘘?」
「そ! さっきディックが取り出したのは、何の変哲もないガラス玉だよ」
「え? でも、じゃああの指輪は……?」
あれが何の変哲もないガラス玉だと言ったルディさんに尋ねてみれば、彼は笑いながら「あれは前にガルアさんが酔っぱらってはめ込んじゃった、ただの指輪だよ!」と答えた。
えーっと、つまり……?
「全ては村長にこの誓約書にサインしてもらう為の嘘だって事だ」
懐から誓約書を取り出してひらひらと見せてきたキールさんが言った。
確かに今回の討伐依頼が虚偽だったとギルドに報告する為にしたって、カガチ村長がそれを認めたり、証拠が必要になるだろう。私たちがただギルドに言ったところで、依頼主に「そんな事は言ってない」「そんな事になってるとは知らなかった」などと言われたらそれで終わってしまっていたのかもしれない。
キールさんがこうして機転を利かせてくれたおかげでカガチ村長は虚偽を認めたし、こうして証拠となる誓約書も手に入れることが出来た。
何から何まで、私は彼らにお世話になりっぱなしだ。
「……お前、あのクソ村長に文句言わなくてよかったのか?」
ふいにディックさんが話しかけて来た。
「言おうと思ってたんですけど……ディックさんが全部言ってくれたので、それで十分です」
「……なんだそれ。ってか、“ディックさん”って気持ち悪いからやめろ。呼び捨てでいい。敬語もいらねぇよ」
「え? でも……」
「たいして歳が変わんねぇヤツにさん付で呼ばれるとか、敬語で喋られるとか、気持ち悪ぃの!」
「わ、わかりまし……あ、いや……わかった」
これからはディックさん――じゃなかった。ディックに話しかける時は、さん付けと敬語にならないように気をつけよう。
そう思い前に向き直した私の目に、何やらこちらをニヤニヤとした表情で見ているルディさんの姿が映った。
「なに見てんだよ! ルディ!」
「べっつにー」
ディックも気づいたのか、ルディさんに噛みついた。ルディさんはけらけらと笑いながら走り出し、ディックがそれを追った。
どことなくディックの頬が赤かった気がするが、どうしたのだろうか?
◇ ◆ ◇
ディックたちと共にサルビアに戻って来た私は、そのまま冒険者ギルドへと向かった。
冒険者ギルドに辿り着くと、キールさんが「ちょっと待ってろ」と言って、受付にいるギルド職員さんに何か話しかけた。何を話しているのか気になって近づこうとした時、横から声が飛んできた。
「フィリアさん!?」
声のした方を向いて見れば、そこにはヴィーラさんがいた。カウンターの向こう側にいない彼女は、何だか新鮮だ。
ヴィーラさんは顔色を悪くすると、私の方に駆け寄って来た。
「ど、どうしたんですか? 服がボロボロじゃないですか! 怪我は……!?」
「お、落ち着いて下さいヴィーラさん!」
「何かあったんですか? ホーンラビットを6体退治するだけの依頼なのに、フィリアさん昨日の内に戻られなかったし……」
「その話をこれからギルドマスターにするところだ」
受付のギルド職員との話が済んだのか、キールさんが戻って来た。
「ギルマスいんのか?」
「ええ。タイミングが合ってよかったです」
ギルドマスターというと……“マルロス・ケリシュー”か!
初めて会うなぁ……。ちょっとドキドキしてしまう。
「キールさん。お待たせしました。ご案内いたします」
先ほどキールさんが話していた受付のギルド職員がやって来た。彼女の案内のもと、私たちは二階にある一室に通された。
部屋の中には一人の男性がいた。
私は彼の顔を見てハッとする。
マルロス・ケリシューだ!!
冒険者になって三週間経つが、本物を見たのは今日が初めてだ。
どうしよう、頬が緩みそうだ……。耐えろ、私!
「フィリア?」
「あっ、はい!?」
顔のにやけを押さえることに必死になっている間に、いつの間にかキールさんやガルアさんが席に着いていた。なぜか二人はひとつ席を開けて座っていた。
「何してる。早く座れ」
「え? 私がですか?」
ガルアさんとキールさんの間の席を示されて、思わず言ってしまった。キールさんの表情が呆れたようなものになる。
「当たり前だろ。お前は当事者なんだから」
あ、はい。すみません。
私はガルアさんとキールさんの間の席に座った。ディックさんとルディさんはそれぞれ後ろに立っている。
「それで? 先ほどナタリアから虚偽の依頼があったと報告を受けたが、どういうことだ?」
ナタリアとは、私たちをこの部屋まで案内してくれたギルド職員の事だろう。
それにしてもマルロス、ダンディな良い声だ。
「フィリア、依頼書を」
「はっ! はい!」
キールさんに言われて、マジックバックの中からキブシ村からの依頼書を取り出してテーブルの上に置いた。マルロスがそれを手に取り、確認する。
「キブシ村の村長からのホーンラビットの討伐依頼か……」
「はい。その依頼を彼女が受けたんですが、ホーンラビットが出没する森に行ったところ、依頼書に書かれていた数以上のホーンラビットが生息していたんです」
「なに?」
「それだけでなく、ジャイアントラビットも2体出現しました」
マルロスが目をカッと見開いたかと思うと、次の瞬間彼は「なんだと!?」と大声を出した。表情と相まってすごい迫力だ。
「ジャイアントラビットについては私たちの方で倒しました。ホーンラビットは、全て彼女が」
「ちなみにホーンラビットの数はどれくらいだ?」
「えっと、正確な数はわからないですが、30体はいたかと……」
マルロスさんに尋ねられて答えれば、彼は信じられないといった表情を見せた。
「それだけの数のホーンラビットを、Fランクである君が一人で……?」
「ええ、まあ……。無我夢中といいますか、あの時は必死で……」
大量のホーンラビットに追いかけられ、倒していった時の事を思い出す。
たとえ低級の魔物だとしても、一度にあんなに大量のホーンラビットが襲い掛かって来たら、戦闘経験の少ないただのFランクの冒険者は怪我だけでは済まなかっただろう。
魔力量が馬鹿にみたいに多くて助かった。おかげであの大量のホーンラビットを倒し切ることが出来た。
「キブシ村の村長はこの事実を知りながら、依頼料が払えないという理由で、虚偽の依頼内容を出したのです」
「そのせいでこいつは死にかけた」
「ギルドマスター、こちらを」
キールさんがカガチ村長のサインが書かれた誓約書をマルロスに差し出した。それを受け取ったマルロスは、誓約書の中身を見て渋面を作る。
しばらく誓約書と睨めっこをしていたマルロスは、突然立ち上がって私たちに頭を下げた。
「危険な目に遭わせて申し訳なかった! この件については、こちらで然るべき対応をする」
「はい。よろしくお願いします」
ギルドマスターへの報告を終えた私たちは、冒険者ギルドをあとにするのだった。
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