第20話 カガチ村長、お話があります。
大量のホーンラビットとジャイアントラビットが出現した森で一夜を過ごした私は、ディックさんたちと共にキブシ村へと戻って来た。
村に戻ってきたのはホーンラビットの討伐依頼を達成した報告をする為でもあるがもう一つ、大事な話をする為だ。
「カガチ村長」
キブシ村にあるカガチ村長の家にディックさんたちを連れてやって来た。
カガチさんは最初、ディックさんたちを見て警戒心を覗かせていたが、彼らがCランク以上の冒険者だとわかると、途端に表情を明るくさせた。私が来た時とは大違いの反応だ。
「ささっ! どうぞこちらへ」
カガチ村長はディックさんたちを椅子に座るよう勧めると、傍にいた女性にお茶を出すように指示した。あの女性は村長の娘さんだろうか?
……というか村長よ。私が来た時にはそんなこと一切しなかったじゃないですか。挨拶したらそれで終わり、だったじゃないですか!
まあ、この村長の態度から見て、昨日キールさんが言っていた話は間違っていないと確信が持てた。
キールさんが椅子に座り、私に隣に座るよう言ってきた。いいのだろうかと迷っていると、ディックさんに早く行けと小突かれてしまった。ディックさんに小突かれた箇所を摩りながら、私は席につく。カガチ村長がキールさんの向かいの席に座った。
少しして、お盆にコップを載せて女性が戻って来た。私たちの目の前に湯気の立っている飲み物が置かれる。色的にこれはお茶だろうか。
「それでいかがでしょうか? 魔物の討伐の方は……」
「ホーンラビット6体の討伐なら、無事に完了しましたよ。ただ、村長にお伝えしたいことが……」
「なんでしょう?」
「実は、あの森には6体以上のホーンラビットがいた上に、ジャイアントラビットが生息していたんです」
「なんですって!?」
キールさん、演技派だなぁ……。
カガチ村長の反応が何だか白々しく思える。
「安心してください。森に生息していたホーンラビットとジャイアントラビットは、すべて我々が倒しましたから。もう安全ですよ」
「おお……。さすがはCランクの冒険者様。Fランクの、しかも女の冒険者が来た時はどうなるかと思いましたが、これで私たちも安心して眠れます」
……はあ!?
何だこの村長は!?
ちょっと一発殴らせろ!!
立ち上がりそうになった私の手首を、隣のキールさんが掴んで止めた。
「カガチ村長。少し伺いたいことがあるのですがよろしいですか?」
「はい。何でしょうか?」
「先ほど、“Fランクの冒険者が来た時はどうなるかと思いました”と仰いましたが、低級であるホーンラビットの討伐は基本的にFランクの冒険者に任されるものですよ」
「は……」
「村を治める村長であるあなたが知らないわけないですよね?」
キールさんの言葉に、カガチ村長が黙り込む。
「ランクが上の冒険者をご所望であれば、指名依頼を行えば良かったのに……。まあ、ホーンラビット6体の討伐依頼を指名で行うにしても、Eランクの冒険者が限界だと思いますが」
キールさんの口は止まらない。
何だろう……。声は静かなのに、隣からものすごく怒りのオーラを感じる。ちょっと隣を振り向きたくない。
「単刀直入に言います、カガチ村長。あなたは、あの森に数十匹のホーンラビットがいる事も、ジャイアントラビットが生息している事も知っていましたね?」
「ど、どこにそんな証拠が……」
「強いて言えば、先ほどのあなたの発言ですね。“Fランクの、しかも女の冒険者が来た時はどうなるかと思った”という。ギルドの人間が聞いたら、今の私の様にその発言のおかしさに気づきますよ」
「そんなもの証拠にはならない!!」
ガタンと音を立てながらカガチ村長が立ち上がった。勢いをつけすぎたせいか、カガチ村長が座っていた椅子が床に倒れてしまった。
「いえ、証拠になりますよ。ディック」
キールさんが後ろに立っていたディックさんの名を呼び、呼ばれたディックさんは懐から指輪のついた球を取り出して見せた。
あれは一体何だろうか?
「それは?」
「これは魔道具です。声を録音する為の」
それを聞いてカガチ村長の目がこれ以上ないほど大きく見開かれた。私も驚いてしまった。ゲームではそんな録音アイテムなんて出てこなかったから。
「この家に入った時からずっと会話をこの魔道具で録音していました。だからばっちり入ってますよ、先ほどのあなたの発言」
わーお。キールさんがすっごくいい笑顔で笑ってる。
でも、その笑顔に何だか恐怖を抱いてしまった。
会話が録音されていることで観念したのか、カガチ村長は倒した椅子を元に戻してそこに力なく腰かけた。
「……見ての通り、この村は貧しい。正直に大量のホーンラビットやジャイアントラビットの討伐を依頼すると、依頼料が高くついてしまう。そんな金額を支払う余裕が、この村にはないんです……」
「だから、ジャイアントラビットの事は伏せ、数を偽って依頼を?」
キールさんが尋ねれば、カガチ村長は頷いた。
それはまた、何と言うか……でも――。
「ふざけんじゃねえ!!」
バンッ、と突然ディックさんがテーブルを叩いて大声を上げた。
びっくりして彼を見てみれば、目がすごく吊り上がっていた。
ディックさん、めちゃくちゃ怒ってる!
「テメェが正直に依頼しねぇから、こいつは死ぬところだったんだぞ!?」
「おい、ディック……」
「それは申し訳ないと思っています……。ただ、討伐依頼なのに女の冒険者が来るとは思わず……」
村長。それは火に油を注ぐ発言だと思う。
ほら、ディックさんの目がさらに吊り上がってしまった。
「はあ!? テメッ、マジでふざけんなよ! 冒険者に男も女も関係ねぇんだよ!! テメェが正直にジャイアントラビットの討伐依頼を出してればよかった話なんだよ!! 金がねぇ? だったら依頼出す前にギルドに相談しろよ!! こいつが死んだらどう責任取るつもりだったんだ!? 人の命をなんだと思ってんだよ!?」
「ディック!!」
ディックさんの脳天に、キールさんの拳骨が落とされた。ものすごく鈍い音がして、ディックさんは頭を抱えてしゃがみ込む。痛みに悶えるディックさんを見ているとなぜだか自分まで痛くなってきて、私は自分の頭を押さえた。
キールさんはディックさんの頭を殴った手をひらひらと振ると、カガチ村長を振り返った。私もそれに倣って見てみれば、先ほどの光景を見たせいかカガチ村長は顔を真っ青にさせていた。
「村長。今回の件はギルドに報告しますが構いませんね?」
「はい……」
「では、念の為こちらにサインをお願いします」
キールさんが一枚の紙を取り出して、それをテーブルの上に置いた。そこには今回のホーンラビット6体の討伐依頼の内容が虚偽であった事や、大量のホーンラビットやジャイアントラビットが生息している事を知りながらも、それを隠蔽して討伐依頼を出した事などを認める旨が記載されていた。
いつの間にこんなものを用意したのだろうか?
カガチ村長はキールさんが差し出した誓約書を読むと、迷うことなくそこにサインした。カガチ村長がサインをし終えたところで、キールさんがサッとその紙を回収した。
「……確かに。それでは、我々はこれで失礼します」




