第2話 いざ、サルビアへ!
一部内容を修正しました。
前世の記憶を思い出してから、早いもので二ヶ月が経った。
二ヶ月前、私は両親にこの村を出て冒険者となる事を告げた。
そして、両親からは案の定反対された。
「冒険者なんて危険な仕事はやめろ!」と言ってくる両親に、けれど私は折れなかった。
私は決めたのだ。
「せっかく大好きなゲームに転生したのだから、この世界を思う存分遊び尽くしたい!」と。
……それに、冒険者になれば推しキャラとお近づきになれるかもしれないという打算もあった。
反対する両親をなんとか説得し、二ヶ月経った今日。私はこの村から出る。
私を見送る為に両親とルーラとジュード、それから二人の両親も来てくれた。
「本当に行っちゃうの……? フィリア……」
「うん。もう、泣かないでルーラ。もう二度と会えないわけじゃないから」
ボロボロと涙を流して私の服の裾を掴むルーラの頭を撫でる。ルーラの母親が、私の服を掴んでいる彼女の手をそっと取って引き離してくれた。
それからルーラの母親は彼女をそのまま引き寄せて、ルーラは母親の胸で泣き続けた。
「どうせすぐ音を上げて出戻って来るのがオチだよ」
「コラ! ジュード!」
なんてこと言うんだい、とジュードが母親に頭を叩かれる。
ジュードの父親は彼の頭を鷲掴みにすると、無理矢理頭を下げさせて私に謝って来た。
「ごめんなフィリアちゃん。バカな息子で」
「いやいや! ジュードはバカじゃないですよ! 私の事心配してくれたんだよね? ありがとう、ジュード」
父親の拘束から解放されたジュードに笑いかける。
けれど、ジュードはそっぽを向いてしまった。
「行くなら早く行けば?」
憎まれ口をたたくジュードだけれど、その声は震えていたし、何より今にも泣き出してしまいそうな顔をしているから釣られてこちらまで泣きそうになってくる。ルーラもまだ泣いているし。
「お母さん、お父さん」
私は最後に、両親に挨拶をしようと二人に向き直った。お母さんもお父さんも涙ぐんでいる。お父さんに至っては、今にも目から涙が零れ落ちそうだ。
「気をつけるのよ。いつでも戻って来てね」
「うん。それじゃあ、いってきます!」
両親と見送りに来てくれたルーラたちに手を振り、私は16年間過ごした村から旅立った。
◇ ◆ ◇
私が暮らしていたサンザシ村からサルビアまでは30キロ程離れている。両親からは馬車での移動を進められたが、お金がもったいないので私は歩いて向かう事にした。サルビアに着くまでの間にレベル上げをしたかったのもある。
サンザシ村から出発して数時間。10キロは歩いただろうか。素材の採取や出くわしたスモールラットなどの低級な魔物との戦闘などをしながら進んでいた私は、座るのに丁度良さそうな岩を見つけたので一旦休憩する事にした。
草原に吹く風が心地良い。
「ステータス」
そう唱えると、目の前にウィンドウが現れた。
これはゲームをやっている人ならお馴染みの、自分のレベルや能力などを確認できるウィンドウだ。この世界では生活魔法の一種とされている。
前世ではゲーム機の画面上にのみ表示されていたものが、画面越しではなく目の前に現れるというのは何とも不思議な気分である。
なんとなく空中に浮いているウィンドウに手を伸ばしてみたが、触る事は叶わずすり抜けてしまった。ちょっと残念。
私は現在の自分のステータスを確認した。
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氏名:フィリア・メルクーリ
レベル:7
HP94/124
MP724/784
攻撃力:40
防御力:52
魔攻力:78
魔防力:63
素早さ:42
≪戦闘スキル≫
・片手剣:LV3
≪魔法スキル≫
・火属性魔法:LV4
・水属性魔法:LV3
・風属性魔法:LV3
・地属性魔法:LV2
・光属性魔法:LV3
・闇属性魔法:LV2
≪耐性スキル≫
状態異常無効
≪生産スキル≫
製薬:LV3
調合:LV3
料理:LV2
≪特殊スキル≫
解析鑑定
魔力操作
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皆様お判りいただけますでしょうか。
私、なぜか全属性の魔法を覚えておりました。さらには“状態異常無効”という耐性スキルまで。
前世の記憶を思い出す前は火属性と風属性の魔法しか覚えていなかったはずなのに……。
それにレベルに反してMP……魔力量が多い。
ゲームではレベルが二桁に届かないのに魔力量が700を超えるなんて事はなかった。
さらには、前世でプレイしていたゲーム“オリヴィリア”には存在していなかった項目がある。
それが“耐性スキル”と“特殊スキル”だ。
ゲームのオリヴィリアの耐性面は、装備に「風抵抗〇%」とか「毒抵抗〇%」とかの効果が付与されていただけで、プレイヤー自身に“耐性スキル”というものは存在していなかった。
“特殊スキル”についてもゲームのステータス画面にそんな項目はなかった。
私が持っている特殊スキル“解析鑑定”はその名の通り、対象物の解析と鑑定をするスキルだ。対象物が素材であれば、その素材の品質やレア度、どういったものでどんな効果があるのかがわかり、人物であればなんとその人物のステータスがわかるという便利なスキルだ。
“魔力操作”は読んで字のごとく、魔力を自由自在に操れるものだ。
この世界がオリヴィリアの世界である事は間違いないと思うが、一部ゲームの設定とは異なる部分があるようだ。
全部の属性の魔法を覚えていて、レベルに反して魔力量が非常に多く、特殊なスキルを複数所持……これは俗に言う“転生チート”というヤツだろうか?
……うーん。それなら全属性のレベルがすでに上限に達しているとか、魔力量が99999とかバカみたいな数値になっているとかの方が「チート!!」って感じがするなぁ。
まあ、なんにしても全属性の魔法を覚えているのも、解析鑑定などの特殊なスキルを習得している事も有難いことに変わりない。
自分のステータスを確認していた私は、自作したHP小回復ポーションを飲んでHPを回復する。それから疲労回復用のポーションも飲む。
ゲームで行っていたアイテム作りを思い出し、村の周辺に生えていた初級用ポーションの薬草を採取して家にあった鍋を使ってポーションを作っていたら、両親に驚かれてしまった。
まあ、今までポーション作りなんてした事のない娘が突然ポーションを作れば誰だって驚くかと思っていれば、両親の驚きは別のところにあった。
なんでもポーションなどの薬を作る為には緻密な魔力コントロールが必要だそうで、誰もが作れるわけではないそうだ。ゲームでは薬を作る為には魔力を注ぐ必要があるという説明はあったが、緻密なコントロールが必要だなんて説明はなかった。だから誰でも作る事が出来ると思っていたから、両親にそう説明された時には驚いた。
その後、両親から「冒険者はやめて薬師になるべきだ」と詰め寄られてものすごく大変だった。
「――よしっ! 休憩終了!」
岩から下りてグーッと背伸びする。
ここからサルビアまではあと20キロほどはある。今日中に辿り着くのは難しいだろうから、どこかで身体を休める場所を見つけなければ。
前世では30キロ以上を徒歩で移動した事はない。
けれど、長距離の徒歩移動を苦に思わないのは疲労回復ポーションのおかげでもあるが、一番はきっとこの世界が前世でプレイしていた大好きなゲームの世界だからだろう。
「ふふっ。楽しみだなぁ」
自然と笑みが零れてくる。
私は目的地であるサルビアを目指して再び歩き出した。