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第19話 これには事情があるんです!


「君にも言いたいことがある」


 ディックさんの事を激しく怒っていたキールさんの標的が、突然私に変わった。


 え!? 私、何かしましたか!?

 身に覚えがないんですけど!?


 助けを求めてルディさんたちを見れば、いつの間にか二人とも私から距離を取って耳を塞いでいた。行動がお早い事で!

 ザッという足音が近くでして、ギギギと壊れた機械の様にそちらを見た私は、すぐに向いたことを後悔した。

 そこには鬼がいた。


「どうしてあんな無茶をした?」


 さっきのディックさんみたいにものすごく大きな声で怒鳴られなかったものの、その静かな声もものすごく怖い。

 というか、無茶と言うのは?


「えっと……?」


 思い当たる節がなく首を傾げれば、キールさんの視線がさらに鋭くなった。

 それはもう人間ができるとは思えないほどの恐ろしい形相だ。

 あまりの恐怖に涙が出て来た。

 すると、キールさんがため息をついた。


「どうして一人で2体のジャイアントラビットを相手にしようとしたんだ?」


 いや、相手にしようとしてませんけど!?


 これは勘違いされていると思った私は、ジャイアントラビットを相手にしようとはしていない事、元々はキブシ村からホーンラビット6体を討伐してほしいという依頼を受けて来た事、その道中で運悪くジャイアントラビットに出くわして追いかけられた事など事情を説明した。

 最初は怒りの形相だったキールさんも、私の話を聞いているうちに段々と表情が落ち着いていった。その様子に私は安堵の息を漏らす。


「依頼は本当にホーンラビットの討伐のみなのか?」

「はい。これを……」


 キールさんに聞かれて、私はマジックバックから今回の討伐依頼の依頼書を取り出して見せた。キールさんが受け取りそれを見ていると、周りにディックさんたちも集まってきて、みんなで依頼書を読み始めた。

 しばらくして依頼書を返してくれたキールさんは、厳しい顔つきをしていた。

 また何か怒られてしまうのだろうかと怯えていると、私の様子に気づいたルディさんが「大丈夫だよ~」と手を振ってくれた。


「フィリアちゃんにはもう怒ってないよ~。ただちょっと、別の問題が浮上したからさ~」

「別の問題?」

「そ! まあ、その話は寝る準備を整えてからのんびりとしようか」


 もうすぐ日が暮れるからね、とルディさんは笑った。

 言われるまで気づかなかったが、確かに空が茜色に染まり始めていた。

 ルディさんが言った「寝る準備」とは、つまりはこの森で野宿をするという事だろうか。野宿は別に構わないのだが、ただこの森でというのは――。


「大丈夫だよ~。俺たちが交代で見張りするから!」


 口にしていないのに、なぜかルディさんに私の考えが読まれてしまった。

 ルディさんは心を読む能力でも持っているのだろうか?


「そういえば自己紹介がまだだったな。俺はキール・レヴィン。事情を知らなかったとはいえ、さっきは怒って悪かった」

「いえ、そんな! フィリア・メルクーリです。助けてくれて、本当にありがとうございました」

「俺はガルア・ヴァルジーだ! このパーティーのリーダーを務めている。よろしくな、フィリア!」

「はい。よろしくお願いします」

「そんでこいつがディック・ベイリーだ!」


 ガルアさんがディックさんの肩に腕を回して言った。怪我に響いてしまったのか、ディックさんは「痛ぇ!」と叫んだ。


「何するんスか! ガルアさん!」

「何って、お前がすぐに自己紹介しないからだろうが」

「力加減考えてくださいよ! こっちは怪我してんスから!」


 ギャアギャアと二人が言い合いを始めてしまった。

 どうしようとオロオロしていれば、隣に立ったキールさんが大きく息を吸い込んだ。私はそれを慌ててサッと耳を塞いだ。


「二人ともいい加減にしろ!!」


 先ほどと違い耳を塞いだお陰で直撃は免れたが、それでもものすごく大きい声だ。塞いでいなかったら本当に鼓膜が破れてしまったかもしれない。

 ディックさんとガルアさんの二人は、キールさんのお説教を受ける事になってしまった。


 ……ん?

 そういえば、“ガルア”ってどこかで聞き覚えが……。


「うるさくてごめんねぇ」


 思い出そうとしていたところ、ルディさんに声をかけられた。


「いえ……。キールさんの声にはびっくりしますけど、賑やかで楽しそうなパーティーだなって思います」

「そう?」

「はい!」


 先ほどまで命の危機にあったというのに、彼らのやり取りを見ていると何だかその恐怖が薄れていく。不思議だ。


 ……あ、そうだ。


 私はある事を思い出し、未だディックさんとガルアさんに説教をしているキールさんに恐る恐る声をかけた。


「あ、あのー……」

「なんだ?」


 ヒッ! また鬼の形相になってる!


「そ、その、ディックさんの怪我の治療をした方がいいんじゃないでしょうか……?」


 それでもめげずに言えば、キールさんはギロッとディックさんを睨んだ。その視線にディックさんはビクッと肩を大きく揺らし、キールさんは長い溜息を吐いた。


「そうだな。説教はこれくらいにするか」


 そう言ってキールさんはルディさんの方へ行ってしまった。

 キールさんの説教から解放されたガルアさんは、目に涙を浮かべながら「ありがとな! 助かった!」と言って何度も何度も私に頭を下げた。


「い、いえ! そんな……! ……あ! そうだディックさん、怪我を見せてください」

「は? なんで?」

「治療しますので」


 なんでこうもディックさんは喧嘩腰なのだろうか?

 ……いや、私が嫌われているのか?

 まあ、いい。とにかく、今は彼の怪我を治す事だけを考えよう。


 ディックさんの事をじっと見つめていれば、観念したのか、彼は腕の怪我を見せてくれた。ジャイアントラビットのあの爪で切られてしまったのだろう。深い傷ではないが、痛そうだ。


 私のせいで、負わせてしまった傷……。


 私はディックさんの腕の怪我の部分に手を翳し、「キュア」と唱えた。

 私の手から眩い光が発せられ、その光はディックさんの身体を包み込んだ。


「――よし」


 ディックさんの腕を見てみれば、先ほどまであった傷は綺麗さっぱり消えていた。他の怪我をした箇所も同じだ。


「大丈夫だとは思いますが、他に痛む場所はありますか?」

「ねぇ、けど……お前、回復魔法使えるのか」

「? はい。使えますけど……」


 ルディさんと同じような反応だ。回復魔法が……光属性の魔法が使える事に何かあるのだろうか?

 ディックさんの言いたいことがわからず首を傾げていると、隣で私がディックさんの怪我を治療する様子を見ていたガルアさんがどこか興奮した様子で口を開いた。


「すげーな、お前! 光属性の魔法が使えるなんて!」

「え? あ、ありがとうございます……?」

「どうだ? ウチのパーティーに入らないか?」


 え? え? なんで私は今パーティーへの勧誘をされているのだろうか?


「……珍しいんだよ。光属性の魔法を使えるヤツは」

「え?」 


 ガルアさんの突然の勧誘に困っていれば、ディックさんがそう言った。


 光属性の魔法を使えるヤツは珍しい?

 ……確かに、ゲームでも回復魔法が、光属性の魔法が使えていたのは主人公だけだったが、この世界ではそもそも光属性の魔法を使える人は少ないのか。


「光属性魔法が使えるヤツが一人いれば、回復アイテムの出費が抑えられるんだ! どうだ!?」


 ……ガルアさん、その勧誘理由はいかがなものか。

 まあ、確かに光属性魔法のスキルを上げれば、体力回復だけでなく状態異常を回復させる魔法を覚えられるから、わざわざ回復薬を用意する手間も費用も抑えられるだろうけれど。

 それを勧誘する際に馬鹿正直に言ってしまうのは、本当にいかがなものか。


「ガルアさん……。それはっきりと言っちゃダメっすよ……」


 あ、ディックさんも呆れ顔だ。


「おーい! そろそろ移動するよー!」


 なんて答えようか迷っていると、ルディさんから声がかけられた。


「はい! 今行きます!」




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