第18話 助けてくれたのは・・・
ジャイアントラビットの腕が振り下ろされた。
私は思わず目を固く瞑る。
……
…………
………………
……………………あれ?
一向に衝撃も痛みも来ない。
私は恐る恐る目を開いた。
目に入ったのは赤。
……いや、赤よりも暗い色をしている。
血ではないそれは、丈の短いジャケットだった。
少しずつ目の前の情報が整理出来てきた。
私とジャイアントラビットの間に、人が立っているのだ。臙脂色のウエストぐらいの丈のジャケットを羽織った、金髪の人物。一瞬ジークかと思ったが、彼の羽織っている上着はもう少し丈が長いし、何より色は紺色だ。それに髪色も彼に比べて濃い。
私は、彼に助けられた。
一体誰なのだろうかと見つめていれば、彼と目が合った。
「お前! 邪魔だからさっさとどっかいけ!!」
開口一番、そう言われた。
頭に来たが、負傷している私は足手まといだ。この場からいなくなった方が、彼も戦いやすいだろう。頭には来たが、彼の言う通りだ。
「こっちだよ」
移動しようとしたその時、隣から声がした。
驚いて顔を上げて見れば、灰色の髪に淡褐色の瞳をしたタレ目の青年がいた。いつの間にいたのか、まったく気配に気づかなかった。
青年の手を借りて立ち上がった私は、その場から移動した。よく見てみればもう1体のジャイアントラビットの方にも人がいた。それも二人。それぞれ両手剣と槍を使って、ジャイアントラビットと戦っている。
「ディック~。加勢した方がいい~?」
緊迫した状況とは似つかわしくない、何とものんびりとした声が私の隣の青年から発せられた。なんだか気が抜けてしまいそうになった。
「いらねえ!! 一人でやれる!!」
あの濃い金髪の彼は“ディック”という名前なのか。
……ゲームにそんな名前のキャラが出てきた覚えはない。
「そっかぁ。わかった」
ディックさんに返事を返したタレ目の青年は、もうちょっとこっちに来てようか、と私の手を引いた。その時、身体に痛みが走った。
「痛っ……」
「あ、ごめん! 強く引きすぎた?」
「いえ……大丈夫、です……」
私は自分の胸に手を当てて、キュアをかけた。そのおかげで少し痛みが和らいだ。
ふと視線を感じて顔を上げると、タレ目の青年が驚いたような表情で私の事を見ていた。
「……あの、なにか……?」
「君、光属性の魔法を扱えるんだね……」
「え? あ、はい……」
光属性の魔法が使えるからなんだというのだろうか?
私は首を傾げる。
「あ! 俺はルディ。ルディ・メルトス。よろしくね~」
「フィリア・メルクーリです。あの、助けてくれてありがとうございます」
「どういたしまして~。もうびっくりしたよ~。たまたま帰りにこの森を通ってたら、なんかすごい音が聞こえてきてさぁ。みんなで急いで走って来たら、君がジャイアントラビットにやられそうになってたんだもん」
ディックが一番に突っ込んでいったんだよ~、とルディさんは話してくれた。
ルディさんたちがこの森を通って帰っていなかったら、私は今頃……。
身体が震えた。私はギュッと自分の身体を抱きしめる。
そんな私の背を、ルディさんが優しく撫でてくれた。「もう大丈夫だからね」と言って背を撫でてくれるルディさん。
段々と視界がぼやけて来た。
そして、ひとつ、ふたつ、と地面に染みが作られていく。
――怖かった。
彼らが来ていなかったら、私はあの時、あの鋭い爪に引き裂かれて死んでいた。
それを想像するだけで身体の震えが止まらない。
本当に、彼らには感謝してもしきれない。
「終わったぞー」
その声にハッと顔を上げる。
両手剣を扱っていた壮年の茶髪の男性と、槍を扱っていた黒髪の青年がこちらにやって来た。彼らの後ろを見てみれば、ジャイアントラビットが地面に倒れ伏していた。
「ディックはどうした?」
「あっちで一人で頑張ってる~」
ルディさんが指さし、二人はそちらに目を向けた。ディックさんは今も一人でジャイアントラビットと戦っていた。
黒髪の青年が舌打ちした。
「あの馬鹿、また無茶を……!」
怒りの顔をした青年がディックさんの方に向かおうとすれば、ディックさんの強烈な一撃がジャイアントラビットに放たれた。
ディックさんの攻撃で左肩から右腰のあたりまでがざっくりと斬られたジャイアントラビットは、ドスンと音を立てて地面に倒れた。
これで2体のジャイアントラビットが倒された。
「おー。ジャイアントラビットを一人で倒したかー」
「まったく……。ボロボロじゃないか」
確かに黒髪の青年の言う通り、こちらに戻って来るディックさんの顔や腕などには切り傷があり、少し血が流れている。
あの怪我は、私のせいで……。
ヒールで治療をしなければとディックさんの方を見ていれば、先ほど彼が倒したはずのジャイアントラビットが雄叫びを上げながら勢いよく起き上がり、ディックさんに襲い掛かった。
「バッ……!!」
「ディック!!」
私は咄嗟に手の平をジャイアントラビットに向けた。
間に合え……!!
「ファイアボール!!」
私の放った火球がジャイアントラビットに命中する。
ジャイアントラビットは衝撃で後ろに倒れた。そのままピクリとも動かなくなり、やがて光の粒子となってジャイアントラビットの身体が消え去った。
私はホッと胸を撫で下ろす。
「ディック!!」
鋭い声が近くから飛んで、思わず肩が跳ねた。
黒髪の青年がものすごく怖い目をして、ディックさんの方にズンズンと向かっていった。
「キールの雷が落ちるねぇ」
ルディさんは呑気にそんな事を言うと、サッと両手で耳を塞いだ。壮年の男性も同じように耳を塞ぐ。
二人の行動の意味が分からずに首を傾げていれば、次の瞬間鼓膜が破れるんじゃないかと思うほどの怒号が飛んできた。
「何度言えばわかるんだ!!!!」
黒髪の青年――ルディさんが“キール”と呼んでいた彼は、喉を傷めてしまうんじゃないかと心配になるほどに大きな声でディックさんを怒っている。
なるほど。先ほどルディさんたちが耳を塞いだのはこうなる事がわかっていたからか。
……できれば教えてほしかったです。




