第17話 迫りくる
マジでどうなってんの……?
私は心の内で呟いた。
初めて受けた討伐依頼……それは、出没するホーンラビット6体を退治してほしいというものだったはずだ。
それなのに森に現れたホーンラビットは聞いていた情報とは違った。6体どころではない。何十体ものホーンラビットが生息していた。
なんとかそれを倒しきって、これでようやく帰れると思った矢先、新たな魔物が現れた。
それも“ジャイアントラビット”。
体格は私よりも大きく、ホーンラビットよりもはるかに強い魔物だ。
ジャイアントラビットを倒す為の推奨レベルって、どのくらいだったっけ?
――解析鑑定。
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ジャイアントラビット
レベル:21
種族:獣族
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解析鑑定でジャイアントラビットのステータスを確認しようとしたが、ジャイアントラビットが突進攻撃を仕掛けて来たために最後まで見る事が叶わず、私は慌てて横に飛んでそれを避けた。
ジャイアントラビットはその先にあった木に激突し、ジャイアントラビットの突進攻撃を受けた木が折れて倒れた。それを見た私は、血の気が引いた。
あんなの喰らったら、全身の骨が粉砕されるんじゃないか!?
ステータスを確認してなんて、敵を目の前にして悠長にやっている場合ではなかった。
とりあえず確認できたジャイアントラビットのレベルは、私よりも数レベル上だった。
今の私で倒せるかわからない。ここは何とかして逃げた方が良い。それでカガチ村長と冒険者ギルドに報告して、上のランクの冒険者に対処してもらうようお願いするべきだ。
のそのそと動いて態勢を直したジャイアントラビットは、私を視界にとらえると、姿勢を低くして威嚇して来た。
これは先ほどの突進攻撃がまた来るかもしれない。
私はジャイアントラビットから視線を逸らさず、いつ攻撃が来ても躱せるように構える。
次の瞬間、予想通りジャイアントラビットが私に向かって再び突進攻撃を繰り出してきた。
私はその攻撃をなんとか躱すと、ジャイアントラビットに向かって火属性魔法“ファイアショット”を放った。これは複数の小さな火球を相手に飛ばす魔法だ。
「ギャンッ!!」
数個の火球はジャイアントラビットの頭部付近に命中した。
ジャイアントラビットが体勢を崩した隙を突いて、私はこの場から逃げ出す為に駆け出した。
あの巨体なら木々が生い茂る中での身動きは取りづらいだろう。それに木が私の姿を隠す目くらましにもなる。
絶対に逃げ切れる!
そう確信して走ったその先の木の影から、信じられないものが現れた。
「なっ――!?」
それは2体目のジャイアントラビット。
私は急ブレーキをかけて止まった。
進行方向にもジャイアントラビット、背後にもジャイアントラビット。
2体目のジャイアントラビットと視線が合ってしまった。
ガサガサと茂みを掻き分けて、そいつは私の方へと近づいてくる。
背後でも動く気配がして、そちらも見てみれば、ファイアショットのダメージから回復したジャイアントラビットが四足歩行でこちらに向かって来ていた。
これは――詰んだか?
……いや、まだだ!
私は両腕を広げて意識を集中させる。
両方の手の平の先に火の球が出来た。
まだ。まだだ。
もっと、もっと魔力を込めて……特大のヤツをお見舞いしてやれ!
「ファイアー……ボール!!」
先ほどまで放っていた火の球よりもかなり大きなサイズの火の球を2体のジャイアントラビットに向かって飛ばした。
ジャイアントラビットはホーンラビットよりも体格が大きいから、的が大きく当てやすい。それにその体格故に動きがあまり早くないから、攻撃をかわされる心配はない。
私が放った火の球は見事にジャイアントラビットたちに命中した。
怯んだ! 今のうちに!
私は走り出し、今度こそ木々の中に逃げ込むことに成功した。
しばらく走り続けた私は、木の陰に隠れてその場に座り込んだ。
きっと撒けただろうから、少しだけここで休憩しよう。息が整ったら、出発だ。
それにしても何なんだ、この森は。
聞いていた話と全然違うじゃないか!
出没するのはホーンラビット6体だけだという話だったのに、実際はその何倍もの数のホーンラビットが現れたし、何よりジャイアントラビットが2体もいた。
ゲームではジャイアントラビットよりレベルが低くても回復薬を使ったりしていれば倒せていたジャイアントラビットだが、それはあくまでゲームの話。
だってジャイアントラビットに攻撃されても、プレイしている私は何のダメージも受けない。受けるのは私が操作しているゲームの中の主人公だ。
しかし、今は違う。ジャイアントラビットに攻撃されたら、それを受けるのは私自身だ。あんな木をもなぎ倒す突進攻撃をその身に受けた時には、一発でお陀仏だ。
……ゲームの主人公は、超人だったんだなぁ……。
しみじみとそんな事を思ってしまった。
さて。もう十分休憩できたことだし、そろそろ村へ戻ろうか。
そう思って立ち上がった私は、不穏な音を捉えた。
ドォーンとか、バキバキとか、何かが何かにぶつかって倒れるような音が聞こえてきたのだ。
似たような音を、私は先ほど聞いた。
「いや、でもまさか、そんな……」
だって、あの場所からここまでは結構距離が離れている。
それにあの時ジャイアントラビットは私の攻撃を直で受けて怯んでいたし、視界も煙で覆われていたから、私がどこに逃げたなんて正確な場所はわからないはずだ。
それなのにどうして、この音はどんどんと近づいてくるのだろうか?
まるで私の居場所がわかっているかのように思ってしまう。
私は腰を下ろし、木の陰に身を隠した。息を殺して、じっと音に耳を傾ける。
やはり音は着実に近づいてきていた。
理由はわからないが、私の居場所がバレているのかもしれない。
今のうちにこの場から移動しよう、そう思って動き出した私の視界に映った白い身体。
恐る恐る顔を上げて見れば、それは出会いたくなかった相手――ジャイアントラビットだった。
私は急いでその場から逃げ出そうとしたが、それよりも早くジャイアントラビットの腕が飛んできた。咄嗟に両腕を交差させてガードしようとしたが、防具の盾でも何でもないそれはないに等しい防御で、私の身体は簡単に吹っ飛んだ。
「がっ……!!」
吹っ飛んだ私は、その先にあった木の幹に思い切り身体をぶつけた。
痛い。もう本当に全身がめちゃくちゃ痛い。これは絶対に折れてる。本当にヤバイ!
私は自身に何度もヒールをかけたが、痛みはなかなか引いてくれなかった。それでも何とか動けるまでには回復出来たので、気合を入れて立ち上がる。
ジャイアントラビットの方を見てみれば、いつの間には数が2体に増えていた。痛みに呻いている間に、もう1体も合流してしまっていたようだ。2体とも鋭い視線で私の事を見ている。
どうしてここまで執拗に私を狙うのか? 理由がわからない。わからない……が、今はそんな事を考えている場合じゃない。
逃げなければ……。何とかして逃げなければ、私はこのままじゃ――。
「あっ……!」
足がもつれて転んでしまった。
転んだ衝撃で治りきっていない身体に痛みが走る。
「キ、キュア……」
早く、早く逃げなきゃ……!
ジャイアントラビットから逃げなきゃいけないのに、立ち上がれない。
私は這いずるようにしてその場から逃げ出す。
――怖い、怖い、怖い!!
冒険者の仕事は危険だって、わかってたはずなのに……わかった気でいて、私は全然わかっていなかったんだ……。
背後に迫るジャイアントラビット。
振り返った私が見たものは、ジャイアントラビットが腕を振り上げる姿。その先に光る、鋭い爪。
そして、次の瞬間、それは振り下ろされた――。




