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第11話 推しキャラとの遭遇、再び


 何故、ジークがここにいるのでしょうか?

 そして、何故彼は私の腕を掴んでいるのでしょうか?


 この腕を思い切り振り払って、今すぐこの場から逃げ出したい!

 周囲の人たちからの好奇の視線が痛い……!


「突然走り出してどうしたんだよ? ジーク!」


 ひょっこりとジークの方から顔を出した、オレンジ色の逆立った髪に赤褐色の瞳をした男。その人物を見て私は再び身体を固まらせた。



“ゴーシュ・トラスト”だ――!!



 彼はゲーム「オリヴィリア」に登場するキャラの一人で、主人公を女にした場合の恋愛攻略対象キャラでもある。


 どうしてゴーシュまでここにいるのか!?

 何なんだもう本当に! 私を殺す気か!?


「あれ? もしかして、そいつ……」


 ゴーシュが私に気づいて、顔を覗き込んできた。

 そんなイケメン面を近づけないでください。心臓に悪すぎます。

 じろじろと私の顔を見ていたゴーシュは、やがて閃いたとばかりに笑みを見せた。


「お前あれだろ! 昨日ジ――」

「ああああああああの!! ここじゃなんですので、場所を移しませんか!?」


 あっぶなー!

 ゴーシュのあの言葉、絶対後ろに付くのは「昨日ジークに告ったヤツだろ!!」だったでしょ!?

 今ここにはアルドくんとニコちゃんがいるし、何より周りにも人がたくさんいる。そんな中でそんな言葉を叫ばせたりはしない!


「あ、ああ……。それもそうだな」




◇   ◆   ◇




「それじゃあウチに行きましょう」


 というアルドくんの一言で、私たちはジークとゴーシュを連れてジョルナルドの安らぎ亭へと帰った。

 突然ランクAの有名人であるジーク・スティードを連れ帰った為、グレイグさんもセレナさんもそれはそれはひどく驚いていた。



 そして今、私は食堂でジークと向かい合っている。



 いやまあ、たくさんの人が歩いている外よりはマシなんだけどね。

 それでもやっぱりほかに人がいる状況には変わりないので、ものすごくこの場から逃げ出したい気持ちでいっぱいです。

 アルドくんとニコちゃんだけ先に帰して、人気の少ない場所に私とジークだけ移動すれば良かったと、今さらながらに思いつく。


 ……あの、皆さん。せめて食堂の入り口からばっちり顔を出すのは止めて頂けませんか?

 私の席からだと皆さんの顔が丸見えなんです。


「……昨日の事なんだけど」

「あっ、はい!?」


 いかんいかん。

 食堂の入り口からこちらの様子を窺っているグレイグさんたちが気になりすぎて、意識がそっちに行ってしまっていた。


「その……気持ちは嬉しいんだけど、俺はその、今は誰とも付き合う気は――」

「まっ! 待って下さい!」


 私は慌ててジークの言葉を止めた。


「あの、誤解を与えてしまったようで大変申し訳ないのですが、昨日のは、その……そういうイミの告白じゃないんです!」


 私の言葉に、ジークは首を傾げた。

 食堂の入り口から顔を出しているグレイグさんたちも、ジークと同じように首を傾げている。


「実は、その……本人に言うのは恥ずかしいんですが、私……ジークさんのファンでして……」

「え? 俺のファン?」

「はい! それでその……昨日は憧れのジークさんに会えたことが嬉しくて嬉しくて! それであなたに会えた喜びが溢れ出ちゃって……気づいたら告白紛いな事を言っちゃってて……。本当にすみませんでした!!」


 私は椅子から立ち上がり、思い切りジークに頭を下げた。


 結構良い演技出来たんじゃないかコレ!? うまいこと誤魔化せたんじゃないかコレ!?

 どうだ!?


 そっとジークの方を盗み見てみれば、彼の頬は赤く染まっていた。


 ……え? 何その表情。

 ちょ、それ写真に撮りたい! めっちゃ撮りたい! スマホが……スマホがあれば連写して永久保存出来たのにィイイイ!!


「……俺の、ファン……。そっか……憧れ……そっか……」


 そう言って片手で口元を覆ったジークは、顔を俯かせてしまった。

 何やらブツブツと呟いていたジークは、それから顔を上げて椅子から立ち上がった。その頬はまだほんのりと染まっている。


「ごめん!!」


 なぜだかジークに謝られてしまった。


 本当になぜ?


「え? えっと、どうしてジークさんが謝ってるんですか?」

「勘違いしたから……。俺、てっきり告白だと思って……。ごめん」

「いやいやいや! それは私が紛らわしい事を言っちゃったからであって、ジークさんが謝る事じゃないですよ!」


 あれは誰がどう聞いたって恋愛の意味としての告白だと捉えてしまうだろう。

 私がジークの立場だったとしてもそうだ。

 気に病ませてしまったようで本当に申し訳ない。


「ふーん。お前こいつの事好きじゃねぇんだ?」


 食堂の入り口から私たちの様子を見ていたゴーシュがやって来た。

 彼は私の目の前にやって来ると、ずいっと顔を近づけてきた。


「ん?」

「いや、好きですけど……。ただそれは恋愛的な意味ではなく、憧れ的なヤツでして……」

「本当に?」

「本当です」


 お願いします。

 あんまり追求しないでください。

「そっか! 恋愛じゃなくて憧れの好きなんだね! わかった!」って、すんなり行ってください。お願いします!


「おい、ゴーシュ。いい加減にしろよ」

「……ま! そういう事にしといてやるよ」


 ようやくゴーシュが顔を離してくれた。

 どんどん顔を近づけて詰め寄って来るから、これ以上背中を逸らしたら後ろに倒れるところだったので助かった。ありがとう、ジーク。


 ……でも、“そういう事”ってどういう事でしょうかね? ゴーシュさん。

 私が昨日ジークに告白した“大好き”の意味は、「憧れの人に出会えた喜びの感情」ですよ?


「ごめんな、ゴーシュが」

「いえいえ。大丈夫ですよ」


 ふう。今日はちゃんと「大丈夫です」って返せた。


「あ! そういえば自己紹介がまだだったな。……って言っても、君は俺の、その……ファン、だから改めて言う必要なないのかもしれないけど」

「何照れてんだよ?」

「うるさい。――俺はジーク・スティードだ」

「俺はゴーシュ・トラスト!」



 うん、知ってるよ。ジークも、ゴーシュも。

 だってゲームで何度も見たもの。攻略だってしたもの。

 あなたたちの事は何だって知ってるよ。


 でも、何でだろう……。

 ジークに、ゴーシュに自己紹介されたことがすごく……すごく嬉しい。



 ……あ。ジークの瞳に私が映っている。

 ジークが、ゴーシュが私の事を見ている。


 ああ、そうか――。




 二人に“私”という存在が認識されたから嬉しいんだ。

 



 前世ではそんなこと絶対にありえなかった。

 私はジークを知っていたけれど、ジークが私を知る事は一生なかった。

 だって、私がいる世界は三次元で、ジークたちがいる世界は二次元。絶対に交わる事はない世界だった。


 それが今、ジークもゴーシュも“私”を真っ直ぐに見て、“私”と言葉を交わしている。



 ……どうしよう。泣きそうだ。



 私はじんわりと目に涙が溜まって行くのを感じて、慌てて顔を下に向ける。


 泣いちゃダメだ。泣いちゃダメだ。

 二人を困らせてしまう。


 何とか涙を引っ込めて、顔を上げた私はとびきりの笑顔を二人に向けた。




「フィリア・メルクーリです! よろしくお願いします!」




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