第10話 三人でおでかけ
意識が浮上する。
まだ少し重たい瞼を開けて見れば、カーテンの隙間から朝日が漏れていた。
もう朝かぁ……と、欠伸を溢しながら身体を起こす。
昨日はグレイグさんたちに冒険者になった事と初依頼達成のお祝いという事でパーティーを開いてもらった。私がグレイグさんに「ご馳走が食べたい!」とお願いした事ではあったが、用意された料理はどれも美味しかったし、奥さんのセレナさんの体調が私の風邪薬で回復していたり、昨日は楽しくて嬉しい事ばかりだった。
――大好きです!!
突如、私の脳裏に冒険者ギルドでジークに告白した時の事が蘇る。
私は身体を後ろに倒して顔を覆った。
そうだ……。それも昨日の出来事だった……。
思い出したくなかったなぁ……。恥ずか死んじゃう……。
「――よし!」
何とか気を取り戻し、私はベッドから下りた。
すると、部屋の扉がノックされた。
「おねーちゃーん! おきてるー?」
「コラ! ニコ!」
ニコちゃんとアルドくんだ。
ニコちゃんの声がすごく弾んでいるのを聞くと、今日の散策というかおでかけが楽しみで仕方ないのだろう。
「起きてるよー。支度するからちょっと待っててねー」
扉の向こうにいる二人に届くように声をかけ、私は急いで支度をする。
ニコちゃんの「はやくきてねー」という声と、アルドくんの「フィリアさん、すみません!」という声が扉向こうから聞こえて来たかと思えば、次いでバタバタと走る音が聞こえた。
「ふふっ。元気いっぱいだなぁ」
◇ ◆ ◇
朝食を終えた私は、アルドくんの案内の元、ニコちゃんと一緒にサルビアの町を歩いていた。
えー、一言で言いましょう。
最っ高です!!!!!!
ゲームでもお馴染みの場所に現実に行ける、触れるだけじゃなく、ゲームじゃ見えない壁に阻まれて行けなかった場所、入れなかった建物の中に入れるなんて――最高すぎる!!
……というか、一昨日この町に来てジョルナルドの安らぎ亭を探して歩いていた時も、よくよく考えればゲーム上では行けなかった場所を私は歩いていたよね?
うわー! もったいない事をしてしまったー! 宿屋探しに集中してたせいで全然気づかなかった……。
「……って、あ!」
もったいない事をしたと嘆いていると、ふとあるお店が目に入った。
水着の専門店だ。
サルビアのような大きな町では水着専用のお店があるようだ。
お店を見つけた私は、まだ水着を購入していなかった事を思い出し、アルドくんとニコちゃんの二人を誘って水着屋へと向かった。
「いらっしゃいませ」
二人と共に店内に足を踏み入れる。
店内には男性用の物と女性用の物の水着、子供用の水着がずらりと並んでいた。たくさんあってどれにしようか迷ってしまう。
「試着をする場合はお声がけください」
「わかりました」
さてさて。どれにしようかな……ん?
店内に並べられている水着を一枚一枚見ていた時、とある水着を見つけて私は固まってしまった。
震える手でそれを手に取って見る。
……こ、これは!!
ゲームでヒロインが着ていた水着ではないですか!!
ああっ! しかもこっちはマリアの水着! これはクロエ・の! そっちにあるのはレナの! えっ、シェリアの水着まである!!
何だこのお店は!? 恋愛攻略対象キャラの水着が全部揃っているではありませんか!!
……という事は、男子の方の水着も……。
ジークたちの水着も売られているかもしれないと探そうとした私だったが、今はアルドくんとニコちゃんを連れて自分の水着を買いに来ていることを思い出して思いとどまる。
というか、例え二人がいない状況だとしても、女が一人男物水着を見て興奮している姿なんて不審者というか変態以外の何ものでもない。
……いや待て! もしかしたら、今のこの状態も変態に見られているのでは!?
私はバッとニコちゃんとアルドくんの方を見た。
「どうしたの? おねえちゃん?」
「フィリアさん?」
二人共不思議そうな表情をしているだけで、特に私に引いてるとか、気持ち悪がっているなんていう様子は見られない。
とりあえずは一安心だ。
「何でもないよ!」
「ふーん? ねえ! それにするの?」
「ううん。別のヤツにするよ」
さすがにヒロインや攻略キャラと同じものは避けたい。
お風呂で着る物だから、身体が洗いやすいように布面積は少ない方がいいからワンピース系じゃなくて、やっぱりビキニになるよねぇ。
うーん……あ、これにしよう! これならそこまで胸元が露わにはならなそうだ。
私は縁に黒いラインの入っている水色の水着を手に取り、会計に向かった。
「え? 試着しないんですか?」
「え?」
アルドくんに呼び止められて、振り返る。
私と視線が合ったアルドくんは、次の瞬間顔を真っ赤にさせた。
「あっ!? ちがっ、変な意味じゃなくてですね……!!」
わたわたと両手を動かしているアルドくん。
どうしたのだろうかと見つめていれば、何やらいろいろと言っていたアルドくんは、やがて両手で顔を覆うと「……何でもないです……」と蚊の泣くような声で言った。
「? そう?」
先ほどのアルドくんの様子は気になるが、たぶん本人的にはこれ以上追及されたくはないと思い、私は再び会計に向かった。
◇ ◆ ◇
水着を買え終えて、アルドくんとニコちゃんと共に店をあとにする。
先ほど様子が少しおかしかったアルドくんだったが、今はいつも通りに戻っていた。
「それじゃあ、次は――」
グゥウウウウウウウウ……
アルドくんの言葉を遮るように、盛大な腹の虫が鳴った。
「おなかすいた……」
ニコちゃんがお腹を押さえて呟いた。
そういえばもうすぐお昼の時間だ。歩き回っていたし、ニコちゃんがお腹を空かせるのも仕方のない事だ。
「そうだねぇ。私もお腹空いちゃったし、どこかお店で食べよっか!」
「やったー!!」
「アルドくん、どこかおすすめのお店ってあるかな?」
「そうですね……。それなら、“たらふく屋”がいいと思います」
アルドくんの話では、その“たらふく屋”という料理屋はグレイグさんの知り合いが経営しているところで、お手軽な価格のおいしい料理屋だそうだ。
ゲームでは登場しなかった料理屋……これは行くっきゃないでしょう!
「じゃあ、そのたらふく屋に行こっか!」
「うん!」
ニコちゃんと手を繋いで、アルドくんの案内でたらふく屋に向かおうとしたその時だった。
「あの!」
突然、腕を引っ張られた。
私と手を繋いでいたニコちゃんもよろけてしまい、転びそうになったニコちゃんを慌てて身体で支える。
急に腕を引っ張るとか、なんて危ないんだ! 一体どこのどいつだ! と思い振り返った私は、そこにいた人物を見て息を呑んだ。
「やっぱり、あの時の……」
私の腕を掴んだのは――ジーク・スティードだった。
お読みいただきありがとうございました。
「面白い!」「続きが読みたい!」と思われましたら、ブックマークや下の評価をお願い致します。
感想やレビューもお待ちしております。
誤字脱字等ありましたら、ご報告をお願い致します。
これからもどうぞ、「モブに転生しました。」を宜しくお願い致します。