表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

百合短編

吸血鬼のわたしと先輩(女)が永遠に共依存して幸せに暮らすためのハッピーロード

作者: 合歓耽

久しぶりに天啓が降りてきました。


もっといっぱい女の子いちゃいちゃさせるんだ!

「それでは生徒会での夏休み前の会議は以上になります。

 誰か連絡事項などは…無いようですね。

 夏休みまではまだ少し日があるので、生徒会として節度を持った行動をお願いします」


 その声を聞いて口元が緩む。

 別にもうすぐ夏休みだから浮かれているとかそういうことではない。

 単純にその声の主がわたしの好きな人だというだけだ。


 生徒会のみんなが次々に部屋を出る中、部屋に残ってわたしの好きな人――生徒会長をしている、(たちばな)(あおい)先輩に駆け寄る。


「後片付け、手伝います」


「いつもありがとう」


「いえ、わたし先輩のこと大好きなのでなんでも言ってくれていいですよ!」


「もう、あなたいつもそればっかりね」


「ちょっとー!もっと真剣に受け止めてくださいよ!」


「ふふっ、でもあなた毎日言ってるわよ?」


 そんなに言ってたかな…そうかも。

 でも、先輩も最近は反応が良くなってきてたからまんざらでもないのかと思ってたんだけどなぁ。

 ここは1度、わたしが本気だということを先輩に伝えないとっ!


「本気で好きなんです!付き合ってください!」


「私達、女の子同士だよ?」


「それでもいいんです!むしろそれがいい!」


「えぇ…?」


「絶対に幸せにしてみせます!」


「ちょっ…」


 取り乱している先輩、かわいい…


「こほん、とにかく。私と付き合うなら条件があります」


 来た…!そう、先輩は告白した人に条件を出すので有名なのだ。その内容は知られてないけど、今まで誰もクリアできてない以上ものすごく難しいのかも…


「なんですか?」


「じゃあ、夏休みの初日に生徒会室に来てくれる?」


「わかりました!」




 ついにやってきた運命の日、わたしは生徒会室まで来ていた。

 夏休みに入っているだけあり、普段の校内とは違った静かな空気に気が引き締まる。


 …絶対先輩をわたしの恋人にしてみせる!


「よく来たわね。入って頂戴」


「失礼します」


 生徒会室に入ったわたしの目に飛び込んできたのは…

 先輩の格好をした(・・・・・・・・)二人の人だった。


「えっと…これは…?」


「あなたにはこの中から橘 葵を選んでもらいます。本当に好きならこれくらい簡単よね」


「そう、ですね」


 くんくん…ここかな?

 わたしはまっすぐ、先輩の机の下(・・・・・・)を覗きこむ。


「見つけましたよ。先輩」


「な、な…」


「なんでわかったのか…ですか?」


 こくこくとうなずく先輩にわたしは笑いかける。


「匂い、ですかね」


「え!?私、そんなに匂うかしら」


「そういうことではないんですけど、わかるものはわかるんですよね」


「そんな無茶苦茶な…」


 …あんまりこの話題を続けるのも都合が悪いので、話をそらす。


「それで、このお二人は?」


 先輩のふりをしていた二人はわたしたちのやりとりを面白そうに見ていた。

 彼女たちは誰なんだろう。


「うぅ…この子たちは私の妹なのよ。これで上っ面だけ見てるやつらを撃退してたの」


「「こんにちはー」」


「いやー、一発で見抜かれるとは思ってなかったですよ」

「なにか違いとかありました?」


「うーん、ほとんど一緒だと思うけど」


「「けど?」」


「身長と髪の長さがちょっと違うかな」


「…もしかして」

「へんたいさんですか?」


「まったく人聞きの悪い…わたしは先輩にぞっこんラブなだけですよ」


 わたしがそう言うと二人は顔を見合わせ、クスクスと笑ってから生徒会室を出ていく。


「「あとは若いお二人でどうぞー」」


 二人が生徒会室を出た後、そこには沈黙だけが残った。

 普段は生徒会のメンバーで賑やかな生徒会室だが、今は少し甘酸っぱい緊張感のようなものに支配されており、お互いに一言も話さない。


「「あの…」」


 あ、かぶった。


「えっと、どうぞ?」


「わたし、先輩を見つけました」


「そう…だったわね」


「付き合って、もらえますよね?」


「う…あ…」


 真っ赤になった先輩の顔を覗きこむ。

 かわいい…


「えっと、ちょっと考えさせてもらえないかしら?ほら、女の子同士とか…今まで考えたこともなかったから」


 クスッと笑いが漏れる。


「お、おかしいかしら!?」


「いえ、そういうところも素敵だと思いますよ」


 かばんを手に取り、生徒会室を後にする。


「ここからはわたしのアピールタイムですからね、先輩」




 その夜、先輩に電話をした。


「もしもし、先輩?」


「ええ、何か用かしら」


「用というか…お互いのことをよく知るためにも二人で遊びに行きませんか?わたし、先輩とデートしたいです」


「で、でで、でーとっ!?」


「はい、デートです。…ダメ、ですか?」


「それは、いいわよ?」


「じゃあ決まりですっ。今週の日曜に駅前に待ち合わせで!」


「分かったわ…それと今日はごめんなさい。夏休み中には答えを出すから、待っててね」


「はいっ!わたし、待ってます」



 そして次の日曜日。朝4時(・・・)


「一睡もできなかった…」


 まぁわたしは元々夜行性みたいなとこあるし、普通の人より体も丈夫なはずだから影響は少ないだろうけど…


 朝ごはんを食べながら考える。

 身だしなみはちゃんとできているだろうか。

 服はあれでよかったかな。化粧は、靴は?

 いや、自信をもとう!

 リサーチした先輩の好みに合わせたのだから間違いない。


「当たって砕けろだよ!わたし!」



 家を出る。いつもの駅への道のりも、少し特別に見えて仕方がない。

 自然と笑みがこぼれてくる。


「ふふ、えへへ」


「なに笑ってるの?」


 振り向くと、制服を着た先輩が立っていた。


「先輩とのデートが楽しみで楽しみで…」


「ふーん、そんなに私とのデートが楽しみだったのね」


「ええ、だから…先輩と代わってくれますか?妹ちゃん」


 そういうと彼女はため息をついて…


「お姉ちゃん?いい加減諦めなよ。この人の愛は本物だよ」


「あ、愛って――そんな大げさな」


 その時わたしの時間は止まった。

 なにせ電柱の陰から出てきた先輩の姿は…とても素敵だったのだ!

 先輩が今日のためにしてきてくれたおしゃれは、わたしには眩しすぎて、気がついたら…


「なにか、言ったらどうなのよ」


「女神」


「ふぇっ」


「お姉ちゃん愛されてるねー」


「そ、そんなこと言ったって――え?女神?」


「混乱してるとこも超かわいい」


「ぴっ」


 しまった。ついつい本音が…


「もう!このままじゃ収拾がつかないでしょ。行った行った!」


こうしてわたしたちは休日の町へと繰り出したのだった。



「さて、どこに行きましょうか」


「あれ?決めてないの?」


「単に先輩とお出かけしたかっただけなので、あまり考えてなかったんですよね」


「…そんなに私とお出かけしたかったの?」


「当たり前じゃないですか」


 先輩と並んで歩く。

 それだけのことでわたしの心は弾んでいく。


「もう、照れるからやめてよ」


「とりあえずそこのゲーセンにでも入りますか?」


 ここは駅近くで人気もある。

 休日ということもあって、人がたくさんいて賑やかだ。


「ゲーセン…行ったことないのよね」


「何事も経験ですから!行きましょう!」


「あっ、ちょっと」


 先輩の手を引いてゲーセンに入る。



「なにかやってみたいものありますか?」


「初心者でも遊びやすいものがいいわ」


「うーん、あんまりゲーセン来ないからわかんないです」


「え!?そうなの?じゃあなんでゲーセンに?」


 先輩は不思議そうに首をかしげる。


「好きな人とゲーセンとか行くとデートって感じがするじゃないですか」


「…それだけ?」


「? そうですよ?」


「ふふっ」


 先輩が笑みをこぼす。


「なんだか緊張してたのが馬鹿らしくなってきちゃった。ねぇ、あれ行きましょう?私、あのぬいぐるみが欲しいわ。」


 そう言って先輩はUFOキャッチャーを指さした。


「じゃあ行ってみましょう」


 二人でUFOキャッチャーへ向かう。

 先輩の指さしたぬいぐるみは手乗りサイズの小さなもので、とてもかわいらしかった。

 二人で協力してぬいぐるみを取り出し口に寄せていく。


「もうちょっと右ですよ。先輩」


「あれ?どれくらいかしら…」


「ほら、こうですよ」


 ここだ!わたしは先輩に後ろから抱き着き、そっと手を添える。


「えっ?…もう、恥ずかしいわ?」


「まぁまぁ、いいじゃないですか」


 それから10分ほどして、無事ぬいぐるみを取ることに成功する。


「先輩こういうのも好きなんですね」


「こういうの、らしくないかしら」


「そうですね。意外でした」


「そうよね…」


「とっても嬉しいです!」


「…なんで?あなたの思ってた私と違ったのよ?残念じゃないの?」


「好きな人の新しいところを知れるのって、嬉しくないです?」


「…だと、いいのだけれど」


 そう言ってほほ笑む先輩はどこか遠くを見つめているようで、気が付いたらわたしは先輩に抱き着いていた。


「い、いきなりどうしたの?」


「わからないです」


「わからないって…」


「でも、放したくないです。何処にもいかないですよね…?」


 上目遣いで先輩を見る。


「私はここにいるわよ。だから、ちょっと離れないかしら?あの、周りの目が…」


「ふぇ?あっ」


 そこでわたしが辺りを見渡すと――なんかめっちゃ注目されてる…っ!

 結局わたし達は恥ずかしくなってそそくさとゲーセンを後にしたのだった。


「恥ずかしかった…」


「ごめんなさい、先輩!」


「いいのよ、別に」


「でも…」


「じゃあ、そうね。そこのコンビニでアイスでもおごってもらおうかしら」


「わかりました!」



 二人でアイスを食べながら、街を歩く。


「次はどこに行く?」


「先輩はどこか行きたいとこありますか?」


「そうね…ショッピングモールにでも行かないかしら?」


「いいですね!いろいろ見て回りましょう!」


 そんな風に二人で話しながら進んでいたのだが…



「おうお前、美人じゃねぇか。一緒に遊びに行かねぇか?」


 せっかく楽しかったのに、ナンパとかしょうもないことをしてくる人もいたものだ。

 わたしは先輩をナンパしている人を見る。

 なんだか…調子に乗ってる陽キャ?

 正直あんまり怖くない。


「あなたみたいな人とはあまり遊びたくないわね…」


「はぁ!?生意気言いやがって!いいから来るんだよ!」


 そういうと、そいつは先輩の腕を掴んで引っ張った。


「きゃっ!」


 二人で取ったぬいぐるみが地面に落ちる。

 そこまで見た時点で勝手に体が動いていた。

 間に入って男の腕をつかむ。


「先輩が嫌がってます。やめてくれますね?」


「なんだよお前。まさかお前も相手してほしいのか?」


「反吐が出ます。やめて、くれますよね?」


 力をこめる。


「―っ!」


 男は手を振りほどき、殴りかかってくる。

 それをわたしは受け止めて…言った。


「仕方ないですね。言ってわからないなら体に教え込むしかないですし」


 その手を掴んだまま、すぐそこの路地に連れ込む。


「こっ、こいつなんなんだよっ!全然っ、手がっ離れねぇっ!」


「あ、先輩はここで待っててくださいね。すぐ戻ってくるので!」




「…さて、わたしは今すごく機嫌が悪いです。先輩とのデートを邪魔されたからです」


「そっ、そんなこと知るかよ。なんなんだよお前!」


「そうですか、そうですか。反省はナシですか」



「お仕置きですね」



☆*:;;;:**:;;;:*☆*:;;☆*:;;;:**:;;;:*☆


「―はっ」


 展開が早すぎて呆然としてたら、置いて行かれた!

 そうだ!追いかけないと!

 ぬいぐるみを拾い、二人が入った路地に向かう。



 走りながら小さい頃のことを思い出す。

 私がまだ小学生のとき、一度だけテストで悪い点をとったことがあった。

 テストの日風邪気味で実力を発揮できなかったのだ。


 周囲の反応は酷いものだった。

 親は私が自分たちの期待を裏切ったと涙を流す。

 教師は過剰に心配するし、友達もしばらく会話がぎこちなかった。


 その時私は思った。私が頑張れば(・・・・・・)上手くいく(・・・・・)

 「完璧」な自分を作るのだ。


 …みんなそれぞれの理想の橘 葵を押し付けてくる。

 だからそれに沿って「完璧」な自分を作るのに必死だった。

 でも、あの子は…私自身を好きだと言ってくれた。

 私が自分のイメージと違っても、受け入れてくれた。

 それこそ、私がずっと求めていたことなのだ。

 だからあの子に会って、それで…



 路地に入るとそこでは…彼女がナンパしてきた男に馬乗りになり、真顔で殴り倒していた。


「えぇ…」


「あ、先輩来ちゃったんですか?待っててもよかったのに」


 彼女はそう言って、寂しそうに微笑んだ。



☆*:;;;:**:;;;:*☆*:;;☆*:;;;:**:;;;:*☆


 わたしが暴力をふるってるところを、先輩に見られてしまった…


「行きましょう。その辺の公園で話でもしませんか?」


「えっと…この人は?」


 先輩が男に目をやる。


「見た目ほどケガは酷くないのでほっといても大丈夫ですよ」


「そんなものかしら」


「はい、そんなものです」



 まだ少しざわついている気がする街を二人で歩く。


 さっきまではあった会話もなくて、気まずい…


 近くの公園に着く。中はがらんとしていて、夏休みの時期だというのに子供の一人もいない。

 ちょうどいいとばかりにブランコに腰掛ける。先輩も隣に座った。


 二人そろって無言でブランコをこぐ。

 静けさが飽和して我慢できなくなり、何か言おうとした時、お腹がなる。


「あら、ふふっ」


「もう、先輩!笑わないでくださいよ」


「だって、すごく深刻そうな顔してたのに…ふふっ」


「…とりあえずごはんにしましょうか。お弁当、作ってきたんです」


「それはいいわね」



「どれもすごく美味しいわ!」


 当然だ。全部先輩の好みに合わせて作ってきたのだから。

 ポテトサラダはなめらかな口当たりになるまで潰したし、卵焼きはだしをいれてだし巻きみたいにする。おにぎりは明太子と昆布を半々だ。唐揚げには本当はにんにくを入れたかったのだけれど、待ちに待ったデートなのでナシで作った。


「うっ、くっ…」


 涙が溢れてくる。

 せっかくの先輩とのお昼なのに…


「…どうしたの?あのナンパから様子がおかしいわよ?」


「どうしたのって…わたしのこと、怖くないんですか?」


「怖い?どうして?」


「明らかに鍛えてない、細身の小柄な女が男よりも力が強かったら普通は怖いものなんですよ!」

「それで今まで色んな人から避けられて…それに、わたしは…」


「あら、そんなことで泣いてたのね」


 先輩が近づいてきて、わたしの涙を拭ってくれる。


「私のこと助けてくれた人を、怖がれるわけないわ?」


 それが当然のことのように言う先輩。


「大体、あなたが言ったのよ?」


「え?」


「今日はとっても楽しかったわ。ゲーセンで言ってくれたこと、嬉しかった。一緒に歩いているときは、胸が高鳴った。だから、その…」

「好きな人の新しいところを知れるのは、とても幸せよ?」


 そう言って笑った先輩は惹きつけられるような魅力にあふれていて、我慢できなくなったわたしは…


「むぐっ」


 驚いた顔が近い。

 ふわりと感じる先輩の香り。

 さらさらの髪。

 永遠とも思える時間を経て、口を離す。


「いきなりびっくりするでしょう!?」


「いきなりじゃなかったら、いいんですか?」


「それは、これからは恋人なのだから…もうっ!照れるでしょ!」


「「ふふっ」」


 二人一緒に噴き出す。


 …先輩なら、受け入れてくれる。

 わたしはそう確信して、大きく伸びをする。


「さてと、午後からどこか行きたいところはありますか?」


「んー…特にないけど、このまま別れるのも悲しいわね」


「じゃあ…」




「この大きなお屋敷は、もしかして…」


「わたしの家です」


「い、いきなりご家族に紹介?大丈夫かしら」


「ほら、行きましょう」


「あ、ちょっと!」



 家に入り、二人で居間に向かう。

 先輩は緊張しているのか口数が少ない。


 居間にいたママが声をかけてくる。


「あら、帰ってきてたのね。そっちのお嬢さんは…?」


「わたしの恋人だよ!」


「こっ!?」


「ん?そうだよね?」


「そ、そうね。」


 そこで先輩は居住まいを正して…


「お宅の娘さんをください!」


「何言ってるの!?」


 先輩…緊張しすぎて自分でも何を言ってるかわかってなさそうだ。


「ふふふ、面白い子ね」

「それで家に連れてきたってことは…」


「うん、説明するよ」


「あとで何かお菓子と飲み物持っていくわね」


「いちゃいちゃするからいい」


「あらあら、今夜はお赤飯かしら」





「さ、わたしの部屋行こ?」


「え、ええそうね」


 部屋に入ってからも先輩は緊張しすぎていて、このまま話をしても右から左に通り過ぎていきそうだ。


 先輩の頬に両手を添えて、こちらを向かせる。そして、二度目のキスをする。

 最初は驚いた顔をしていたけど、すぐに蕩けた顔になる。

 わたしもこんな顔をしているのだろうか…



「ぷぁ…ちょっと、またいきなり…」


「落ち着いた?」


「おかげさまでね!」


 そう言って今度は先輩の方からキスしてくる。

 これは…確かにちょっと恥ずかしいかも…



 一通りいちゃついた後、話を切り出す。


「え?もういちどお願いできる?」


「うち、吸血鬼の家系なんです」


「吸血鬼…」


「ママ、若く見えませんでしたか?」


「そういえば…最初はお姉さんか何かだと思ったわ」


「吸血鬼なので一定以上年を取らないし、基本死なないんです」

「力も強いし、血だって飲めちゃいますよ」


「わたしは実は化け物でした。先輩、どうします?今なら帰ってもいいですよ」


「私、あなたがありのままの橘 葵を受け入れてくれたことがとっても嬉しかったの」


「…そうですか」


「あなたは私の恋人なのよ。それはあなたが吸血鬼だろうと変わらない」

「それより困ったわね…あなたがそんなに長生きしちゃったら、死ぬまで一緒にいれないわ?」


「わたしなら先輩を吸血鬼に変えられます。でも…」


「そんなことができるのね!これでずっと一緒!」


「怖くないんですか?」


「ちょっとだけね?でも、好きな人と同じになれるんだからいいの!」

「困ったことに私、あなたのことがいつの間にか大好きになっちゃったみたい」


 ここで先輩は立ち上がって、わたしのベッドに寝転ぶ。


「責任…とってほしいな」

 

 理性の切れる音がした。

 ベッドに近づいて、先輩を押し倒す。


「キス、しますね」


 唇を重ねる。

 どちらからともなく舌を絡め、唾液を交換していく。

 二人の境界が分からなくなるまで高め合う。


「あっ…」


 唇を離すと先輩が寂しそうな声をもらした。

 それが愛おしくて、また軽くキスをする。


 …えっと、吸血鬼にするには血液の交換が必要だったな。


「今から先輩の血を貰います」


 先輩の答えはなかった。

 代わりに目をつむって、首筋をさらけ出した。


 …首は怖いだろうし、指をちょっと噛んで終わらそうと思ってたんだけど、先輩の首筋がすごく魅力的に見えてきて…

 気づいたら噛みついていた。


 ぷつりとした感触。すぐに溢れ出してくるあたたかい液体。

 それは普段隠している牙を通してわたしの中を駆け巡っていく。

 わたしの全身に先輩が溶け出すような感覚。

 この感覚を先輩にも…そう思い始めると止まらず、わたしはすぐに今も刺さっている牙から血液を送り出した。



 …そろそろかな。

 そう感じたわたしはゆっくりと、先輩の白く健康的な肌から牙を抜く。


「これで終わり?なんともないようだけど…」


「多分大丈夫です。一晩も寝れば変わってるかな?」


「そうなの?じゃあこれでお揃いね。」


「そんなに嬉しいんですか?」


「もちろん!」





 一か月後、先輩とわたしは家を出て、実家の援助とバイトのお金で二人暮らしを始めることになる。

 最初はいちゃいちゃしすぎて不登校気味になり、二人そろって危うく連れ戻されそうになったりもしたけど、今ではそれなりに落ち着いてきて、節度をもっていちゃいちゃしている。

 生徒会の仲間や先輩の妹からは胸やけがするとか散々言われたけど、わたしは幸せだ。


「吸血鬼のわたしを受け入れてくれた先輩、絶対離しませんよ」


「あなたこそ、逃げられるとか思わないでよね。ずっと一緒なんだから」

よかったら評価と他の作品もよろしくね!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 先輩のガード、ガッチガチなのにたった一回のデートで堕ちるちょろさ…かわいいです… 久し振りの短編とても良かったですぅ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ