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外れスキル【鑑定眼】持ちの俺、美人な女探索者と組んで世界最強の弾丸に!?  作者: 山下愁
第9章:大迷宮【アビス】Ⅲ

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第6話【仮面舞踏会】

「それで? この階層はどうやったら突破できるんだい」



 琥珀色の酒で満たされた酒盃をくるくると回しながら、ユーリが何気ない口調でその場に問いかける。


 問題はそこだ。

 どう考えても行き止まりしかならないこの階層を突破するには、どうすればいいのだろうか。もう床をぶち抜く他はないのか?


 銀のお皿に盛り付けられた腐った料理の数々を眺めて涎を垂らすルーシーが、



「会場の奥に扉があったよー」


「本当かい?」


「うんー。食べ物を探す時に見つけたんだけどー、よく分からない廊下が伸びてたよー」



 ほわほわと頷くルーシーに、ユーリは「そうかい」と応じた。


 この階層を早々に突破するには、もうそれしかないのだろう。ここは幽霊で犇めく舞踏会だ、幽霊が苦手なご主人様からすれば早めに切り抜けたいところである。

 まだ会場の入り口付近でモタモタしているので、会場の奥に出口がある可能性は排除していた。ここは迷宮区ダンジョン――それも数え切れないほどの迷宮区が重なって作られた大迷宮ラビリンス【アビス】だ。こんな場所で終わりな訳がない。


 あとどれほど潜れば踏破できるのか、それと今はどれぐらいの時間が経過しているのか、フェイにはもう分からないが。



「それじゃあ会場の奥に向かうかい」



 長椅子ソファに腰掛けていたユーリが腰を持ち上げると、



「紳士淑女の皆様、大変長らくお待たせしました!!」



 唐突に会場全体の照明が消え、強烈な明かりが一箇所に集中する。何かと思えば天井に飾られた垂れ幕を掴んでブラブラと揺れている背の高い男性が、気障な口調と派手な見た目で会場全体の視線を独り占めしていた。

 仕立ての良さそうな燕尾服に山高帽、それから顔全体を不気味な画面で覆い隠している。まるで怪盗のようだ、本物の怪盗があんな奇妙な存在だとは言い難いが。


 舞踏会という場所に潜り込んだ探索者は不思議そうに首を傾げるものの、この舞踏会に招かれた幽霊たちは「待ってました!!」「きゃー、カッコいい!!」などと声援を送る。あの気障な怪盗もどきを知っているらしい。



「これより仮面舞踏会を開始いたします。皆様、仮面を装着して踊り明かしましょう。この世界の夜は明けません。永遠に、心ゆくまで踊りましょう――永遠に」



 永遠に、を二度も言った。強調させたいのだろうが、ただウザいだけである。


 しかし、面倒なことになった。

 仮面舞踏会だったのか、この会場は。ドレスを着ていなければ人権はないとばかりに睨みつけてきたのに、今度は仮面がないことで睨みつけられている。幽霊たちによる冷ややかな視線に、フェイは居心地の悪さを感じ取った。


 ここは一度、会場を出た方がいいのか?



「マスター、どうする?」


「どうするもこうするもねェ」



 酒盃に残った琥珀色の液体を飲み干し、近くを通りかかった給仕に硝子杯グラスを返却するユーリはドレスの裾を捲り上げて銀色の散弾銃を取り出す。

 大振りな散弾銃をフェイに突きつけ、紅玉のような赤い瞳で見つめる。普段の露出の多い格好に見慣れているので、ドレスなどという特殊な格好には見慣れなかった。


 ユーリは「五〇〇〇ディール装填」と金銭を対価に捧げ、



「《仮面を出しな》」


「お」



 フェイの顔に何かが触れる。

 布のような何かで、紐が耳に引っかかっている。外してみれば目元だけを覆う簡易な仮面で、よく見れば給仕の幽霊と同じような形式の画面だった。


 仰々しい仮面だと少し怖かったので、この程度の仮面ならありがたい。フェイは「ありがとう、マスター」と告げて仮面を装着し直した。



「全員分の仮面を出してやるよ、ここを突破したら返しな」



 銀色の散弾銃を同行者全員に向けて、彼女たち用の仮面も出してやる心優しいご主人様。ただアルアとメイヴの仮面には白地に金色の刺繍があり、何故か額のところに『馬鹿』の二文字がデカデカと掲げられた嫌な画面だった。

 仮面が必要である以上、アルアとメイヴも簡単に仮面を外すことはない。普段から可愛がっている奴隷のフェイを付け狙う彼女たちに、ほんの少しでもいいから仕返しがしたかったのか。


 フェイは込み上げてくる笑いを必死に耐えた。これは噴き出してしまったら終わる。



「さて、フェイ」



 ユーリが手を差し出してくる。


 荘厳な音楽が流れ始め、ドレスを着た紳士淑女の招待客はくるくると踊り始めていた。明けない夜が支配する舞踏会で、彼らは永遠に踊り続ける運命にある。

 ダンスに興じる幽霊が会場内全体を占めているので、ここを突破するには踊りながら幽霊たちの間をすり抜けるのが一番だ。そうすれば幽霊たちによる冷ややかな視線を受けずに済むし、怪しまれることなく会場の奥にも行ける。


 ただ、一つだけ問題があった。



「マスター、俺は踊れないんだけど」


「大丈夫さね」



 引っ込みかけたフェイの手を掴んで微笑むユーリは、自分の腰にフェイの手を導く。



「音をちゃんと聞きな、アタシがリードしてやるさね。怪しまれないように演じな」


「出来るかな……」


「アンタの運動神経を信じな。いいから行くよ」



 弦楽器の音色に合わせて、ユーリは踵の高い靴で守られた足を大理石の床に滑らせる。優雅にドレスの裾を翻しながら踊り、上手にフェイを引っ張っていく。

 フェイも持てる運動神経を駆使して、優雅に踊るように心がけた。ジタバタと動かないように、自然に足を滑らせてあたかもユーリ・エストハイムという美しい主人を誘導するような動きで。


 踊る幽霊たちの間をすり抜けながら、フェイとユーリは会場の奥を目指した。

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