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外れスキル【鑑定眼】持ちの俺、美人な女探索者と組んで世界最強の弾丸に!?  作者: 山下愁
第9章:大迷宮【アビス】Ⅲ

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第4話【舞踏会の片隅で】

 再び天鵞絨ビロード張りの扉を開ければ、今度は睨まれもしなかったし陰口も叩かれなかった。舞踏会に参加する資格を得た、と見てもいいだろう。



「よかった、ちゃんと認めてもらえたね」


「入り口でつまずいたら踏破が出来なくなっちまうさね。ここは郷に入っては郷に従うのさ」



 フェイの腕に自分の腕を絡ませるユーリは、絢爛豪華な音楽がぶつかり合う舞踏会の会場に足を踏み入れた。


 半透明の人間たちの視線が一気に集中する。

 今のユーリは普段から見慣れている水着のような格好ではなく、色鮮やかな赤いドレスでお洒落をしている。舞踏会で踊る貴婦人など目ではないぐらいに綺麗だ。背筋もピンと伸びており、その立ち振る舞いは堂々としたものである。


 さすがご主人様だ、貴族出身なだけあると言えよう。フェイもこんな綺麗なご主人様をエスコートできて鼻が高い。



「お嬢さん、もしよければ一緒にダンスをどうですか?」



 すると、ユーリの飛び抜けた美貌に魅了されて1人の男の幽霊が近づいてくる。


 栗色の髪を後頭部に流して整髪剤で固め、仕立ての良さそうな燕尾服を身につけた背の高い男だ。ただし半透明である。白い歯を輝かせながら笑っているものの、半透明の幽霊である。

 彼のすぐ側にいたパートナーらしき女性が「え?」と言わんばかりに男性を見上げていた。彼女からすれば寝耳に水の提案らしい。相手の女性が可哀想だ。


 幽霊が苦手なユーリは綺麗な笑顔を浮かべたまま固まり、そのままスススとフェイの背後に隠れた。今までの堂々とした姿は何だったのか。



「すみません、主人はダンスが苦手でして」


「そうですか、それは残念です」


「ええ。ですので諦めてください」



 フェイはユーリの腰に手を添えて、さりげなく舞踏会の片隅に移動させる。


 アルアやドラゴ、メイヴもまた幽霊を相手に攻略方法を探っているところだった。彼女たちも飛び抜けた美貌を余すところなく使用して男性や女性の幽霊を相手に、気軽な口調で話していた。

 何故かドラゴは女性の幽霊に囲まれて黄色い声援を浴び、ダンスに誘われていたが「ごめんね、踊るのは少し苦手なんだ」と丁寧に断っていた。馬鹿みたいな声量ではなかった。舞踏会とは人間を変えるのか。


 会場の片隅に置かれた古びた長椅子にご主人様を座らせたフェイは、



「飲み物はいる?」


「いい。ここの飲み物を飲んだら何が起きるか分かったもんじゃないよ」


「確かに」



 青い顔でフェイの申し出を辞退するユーリは、空いた長椅子ソファの隣をポンポンと叩く。



「フェイ、来な」


「はいよ」



 ご主人様の命令に従って隣に座ると、ユーリがフェイの肩に頭を預けてきた。ぽすんと軽いような、でもちょっと重たいような感覚がのしかかってくる。



「大丈夫?」


「平気さね。いつもの迷宮区ダンジョンに出てくる幽霊とは違って、ちゃんと人間の形を保った連中だからだろうねェ。いつもより嫌悪感はないよ」



 ふぅ、とため息を吐くユーリは、



「舞踏会の雰囲気は苦手なのさ」


「騒がしいの好きなのに」


「そりゃあね、下品に騒げないからねェ。誰も彼もお上品に笑って、腹の底は見えやしない。お貴族様ってのは往々にして腹の底を見せない連中なのさ」



 どこか遠い目をするユーリは、小さく吐き捨てた。



「だから嫌いなんだよ、貴族はね」


「そっかぁ」



 フェイはどうとも思わなかった。

 ご主人様がどうあれ、フェイの主人であることには変わらない。貴族であろうと平民であろうと、フェイはユーリ・エストハイムという女性に買われた奴隷なのだ。


 だからフェイは、ユーリがどんな立場だろうと関係ない。彼女に一生ついていくと決めたのだ。



「お飲み物はいかがですか?」



 すると燕尾服を着てお洒落をした給仕の幽霊が、お盆を片手にやってくる。銀色のお盆には硝子杯グラスが並べられ、その中には琥珀色の液体が並々と注がれていた。

 お酒だろうか、液体にはポツポツと泡が浮かんでいる。おそらく炭酸が含まれているのだろうが、こんなところで酒を飲む訳にはいかない。フェイだってまだ未成年だ。


 フェイが首を横に振って辞退しようとするが、



「あー、じゃあ貰おうかなー」


「どうぞ」


「ありがとー」



 横合いから伸びてきた手が、給仕の持つお盆から硝子杯グラスを1つだけ攫っていく。給仕の幽霊は笑顔でそれを渡し、フェイとユーリにも「どうですか?」と聞いてくる。

 フェイとユーリが揃って首を横に振れば、給仕の幽霊は何事もなかったかのように会釈だけして立ち去った。よかった、強制されなくて。


 フェイは銀のお盆から硝子杯を攫った持ち主を見上げる。



「ルーシーさん?」


「あー、奴隷君とゆりたんだー。奇遇だねー」



 間伸びした話し方をするのは、紫色のドレスに身を包んだ赤い髪の美女である。トロンと眠たげな赤い瞳に合わせた暖色系の化粧を施し、口紅は目を惹く色鮮やかな赤色を選んでいる。

 赤と紫色の配色が、舞踏会という場に妖艶な空気を添える。赤い口紅が落ちることも知ったことではないとばかりに硝子杯グラスから琥珀色の酒を飲み干し、赤い髪の美女はほにゃりと笑った。


 ユーリの元仕事仲間であり【暴食の罪(ベルゼブブ)】のスキルを持つルーシー・ヴァニシンカだ。思わぬところで強力な仲間を得たフェイは、どこか安堵の息を吐く。



「その飲み物は大丈夫なのかい?」


「別に飲んでも平気だよー、多分ねー、お料理は全滅してるけど飲み物は普通に美味しいものを提供してるみたいだねー」



 空っぽになった硝子杯グラスを通りがかった給仕の幽霊に返却するルーシーは、



「それでー? ゆりたんと奴隷君はどうしてここに来たのー?」

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