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外れスキル【鑑定眼】持ちの俺、美人な女探索者と組んで世界最強の弾丸に!?  作者: 山下愁
第8章:大迷宮【アビス】Ⅱ

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第5話【雪原航海】

「何で雪原をさめが泳いでるんだよぉ!!」



 真っ白な雪の上を駆け回りながら、フェイは絶叫を曇天に轟かせる。


 雪原をさめが泳ぐ、という常識とは違った光景に頭がついていかなかった。そんなやり取りをしている間にも、背後から鮫が迫ってきているというのに。

 確かにここは大迷宮ラビリンス【アビス】――いくつもの迷宮区ダンジョンが集合した神々からの挑戦状たる最難関の迷宮区だ。普通の迷宮区も常識が通じない場所ばかりだと思っていたが、大迷宮はそれを遥かに上回る非常識さがある。


 走りにくい雪原の上で懸命に足を動かして迫りくる鮫から逃げるフェイは、



「マスター、何とか出来ないの!?」


「何とかってどうすりゃいいんだい、あんなの」



 足場の悪い雪原の上を涼しい顔で駆け回るユーリは、銀色の散弾銃をぷらぷらと揺らす。余裕綽々とした態度が今だけは羨ましい。



「アイツはかなりの大物さね。倒すのもそれなりの金銭が必要になってくるし、それに」


「まだあるの!?」


「まだ追いかけてくるさね。あと二匹」


「増えたぁ!!」



 フェイは泣きそうになった。

 見れば確かに鮫の背鰭せびれが増えていた。雪原を掻き分けて、逃げ回るフェイたちを確実に追ってきている。追いつくギリギリの速度を保っているのは、相手も獲物が疲弊する時を待っているのだろうか。


 どうしてこんな魔物が出てくるんだ、とフェイは頭を抱える。雪の中を泳ぐ鮫だからきっとお値段もそれなりになるだろうが、残念ながら今は【鑑定眼】のスキルを発動している余裕はない。



「フェイ、止まりな」


「何で!? 食われるよ!?」


「目の前を見てみな」



 ご主人様のユーリに言われて、フェイは前方の光景を認識する。


 広がっていたのは急斜面だ。やはり雪で覆われていて真っ白であり、これをそりで滑って行ったら楽しそうだなとは思う。

 ――そうか、そりか。この急斜面をそりで滑って行ったら、あの追いかけてくる鮫からも距離が取れるかもしれない。



「マスター、そり!!」


「そりなんて生温いモンじゃないよ」



 銀色の散弾銃を掲げて大胆不敵に笑うユーリは、



「こっから先は船さね」



 そう言って、彼女は「五〇万ディール装填」と金銭を【強欲の罪(マモン)】に捧げて願いを告げる。



「《船を出しな》」



 ガチン、と引き金を引くと同時に何もなかったはずの銀世界に木製の巨大な帆船が出現する。この雪の海を泳ぐ鮫に対抗する為の船だ。


 唖然と帆船を見上げるフェイを軽々と担いだユーリは、アルアを抱えるドラゴと鮫に対して恐怖心を露わにするメイヴへ振り返った。「早く船に乗りな!!」と言って、船の内側に駆け込んでいく。

 別に抱えなくてもいいんだけど、とフェイはユーリの手によって小脇に抱えられながら思う。多分、ご主人様がしたかったからしただけだろう。深くは考えないようにする。


 船に駆け込むと、開け放たれていた船の扉が思い切り閉まる。甲板へ駆け上がったユーリに乱暴な手つきで落とされて、フェイは「いでッ」と思わず呻いた。



「追加で三万ディール装填!!」



 甲板に設けられた舵の前に立ち、ユーリは閉ざされたままの帆に銀色の散弾銃を突きつける。



「《帆を張りな》!!」



 追加で三万ディールという金額を捧げたことにより、彼女の願いが叶えられる。

 ばさり、と帆がひとりでに張られた。【強欲の罪(マモン)】とは何と便利なものだろうか。三万ディールで面倒な帆を張る作業を一瞬で終わらせてくれた。


 ユーリは舵輪を回すと、



「しっかり掴まってな、動くよ!!」



 フェイは慌てて船の縁を掴んだ。ドラゴやアルア、メイヴも船から振り落とされないように帆を張った柱や船の縁を掴む。


 冷たい風を受けたことによって帆船が動き出し、ズズズと雪で覆われた急斜面へ乗り出す。ガクンと落ちるような感覚があったと思えば、すぐに帆船は急斜面を滑り落ちていった。

 容赦のない凍てつく空気が、フェイの頬や髪を撫でる。頑丈なゴーグルで目を守っているからまだ平気だが、ゴーグルがなければ目も危なかったかもしれない。



「わあああああああああああああああああああ!?」


「ひゃっほーう!!」


「あー……」


「あっはははははははははははははははははは!!」


「ぎゃああああああああああああああああああ!!」



 二つの悲鳴と二つの歓声、それからアルアによるやる気の見られない絶叫がそれぞれ曇天に響き渡った。


 真っ白な雪で覆われた急斜面を滑り落ちていった帆船だが、やがて急斜面が終わって緩やかに停止する。風を受けて走るはずの帆船が、何故かその場で止まっていた。

 ご主人様のユーリがあえて船を止めたのかと思えば、そうではない。船の縁を掴んでいたフェイはそっと目を開けて、今の状況を確認した。


 ――いいや、もうこの際だから目を開けない方がよかったのかもしれない。



「うっわ……」



 フェイは軽く絶望した。


 目の前に広がっている光景は、まさに悪夢と呼べた。

 先程まで追いかけていたはずの鮫が増えているのだ。背鰭せびれが数えて一〇ほどあり、それらがぐるぐるとフェイたちの乗る帆船の周囲を巡っている。獲物が落ちてくる時を今か今かと待ち構えている様子だ。


 銀色の散弾銃で肩を叩くユーリは、



「まあ、足場があるだけマシさね」



 船の縁を掴んだまま呆然とするフェイの後頭部を軽く小突きながら、ユーリは「シャンとしな、フェイ」と喝を入れてくる。



「しっかりアイツらを鑑定するんだよ」


「え、本気?」


「本気さね。ほら来るよ」



 え、とフェイは顔を上げる。


 ざぱり、と雪原から顔を出してきた巨大な鮫が大きな口を開いて飛び掛かってきた。

 頑丈なゴーグルで守られた青い瞳を見開き、フェイは思わず叫んでいた。



「そんなのありかよ!!」



 まるで雪の中を海か何かだと思う鮫たちに、フェイは翻弄されるのだった。

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