第3話【不本意な合流】
「全く……私の下着姿を見るとは、本当に破廉恥な小僧だな」
「不本意なんですけど……」
「うるさいうるさい!! 見たことには変わりないだろう!!」
湿った金髪を指先でくるくると弄るロリッ娘ことメイヴ・カーチスは、小声で「こんなことならもう少し可愛いものをつけてきたのに」と言っていた。フェイを責める気満々なのに、何故見せようとしてくるのか。
恥ずかしがる様子のメイヴをじっと睨みつけるご主人様のユーリは、密かに銀色の散弾銃を握りしめていた。これはいつメイヴに銃口を突きつけ、理不尽な願いを叶えるか分からない。
フェイはユーリの握りしめる銀色の散弾銃を無理やり下ろし、
「マスター、人殺しはダメだよ」
「フェイ、あれは人じゃないよ」
純粋無垢で何の疑いもない赤い瞳をフェイに向けるユーリは、
「あれは害虫さね。アンタの成長を邪魔するのさ」
「いやいやいや、さすがにメイヴさんを害虫って。せめて害獣にしてよ、マスター」
「おい貴様、私のことを害獣だと思っていたのか」
ジト目で睨みつけてくるメイヴから視線を逸らし、フェイは「何のことですかね」とすっとぼけた。
害虫では人間の扱いではなくなってしまう。少なくともフェイはメイヴを人間の類であると理解しているので、人間の扱いを保ったまま害あるものと判断するなら『害獣』であると判断したまでだ。そもそも人間は猿から進化した霊長類だし。
ユーリもフェイの「害獣」呼びを気に入ったのか、満足げに頷いていた。
「それはいいねェ、今度から害獣と呼ぼうかい」
「貴様ァ!! 私を馬鹿にするのもいい加減にしろ、この強欲女!! そこの奴隷を置いて貴様だけ死ね!!」
「うるさいよ傲慢な害獣め。フェイはアタシのものさね、勝手に手を出すのは承知しないよ!!」
再びユーリとメイヴによる取っ組み合いが始まったので、フェイはそっとため息を吐いた。どうしてメイヴはフェイのことを諦めないのだろう。
彼らの喧嘩は捨て置き、とりあえず丸太で組まれた小屋に置かれた暖炉に薪を焚べるフェイ。パキパキと音を立てて薪が弾け、部屋が暖かくなるのを感じ取った。
冷えた身体が癒されるようだ。氷のように冷たくなってしまった身体をさすりながら、フェイは暖炉の前を陣取る。
「あったかぁい」
ドラゴはフェイの隣を陣取り、同じく暖炉に当たっている。これはまだよかった。
「暖かいですね……」
何故かアルアはフェイの膝の上に乗ってきて、ポカポカと暖まっている始末である。そこを許した記憶は、フェイにない。
なので、フェイはアルアを強制的に膝の上から下ろすと、メイヴと未だに言い争っているユーリの元まで行く。フェイの存在に気づいたユーリとメイヴは言い争いを少しだけ止め、その隙を見計らってフェイはユーリを抱き上げた。
ヒョイと持ち上げられるユーリ。まるで飼い主に抱きかかえられた猫のようだ。
「な、何するんだいフェイ!! とっとと下ろしな!!」
「マスター、こんなに冷え切ってんじゃん。メイヴさんと喧嘩してないで、あったまりなよ」
暖炉の前に再び戻ってきたフェイは、冷たい床にご主人様を下ろさないように自分の膝の上に乗せる。状況が上手く読み込めていないらしいユーリを背中から抱きしめて、これで一安心である。
膝の上にご主人様を乗せれば確実にアルアが乗ってくるし、これならご主人様も大人しいし文句はないだろう。アルアも膝の上に乗ってこないので一石二鳥だ。
ご主人様の肩に顎を乗せ、華奢な身体をギュッと強めに抱きしめる。外套を着込んでいるとはいえ、この下はほぼ水着の状態だ。風邪を引かれてしまっては困るのだ。
「マスター、寒くない?」
「暑いくらいさね。もう少し離れな」
「やだ。まだ冷たいじゃん、暑いぐらいがちょうどいいんだよ」
ふぃー、と息を吐くフェイ。今は絶対に離れない、離れたらご主人様が風邪を引いてしまう。
ユーリは仕方なさそうに笑うと、フェイの少し湿った金色の髪を撫でて「甘えたな奴隷だねェ」などと言う。その表情は満更でもなさそうだった。
というか、恨みがましそうに見てくるアルアとメイヴに勝ち誇ったような表情をしていた。アルアとメイヴは悔しそうな顔をしていたが、残念ながらフェイには見えていなかった。
「そうだ、メイヴさんも一緒に行こうよ!!」
「何だと?」
唐突にドラゴからお誘いを受け、メイヴは眉根を寄せる。
「それはこの私に貴様らの珍道中へ同行しろと言っているのか?」
「嫌ならいいよ!! ここに置いて行くから!!」
「見捨てる判断が早すぎる!!」
メイヴは傲慢というか天邪鬼な傾向があるので、素直に頷くことが出来ないのはフェイも何となく察知していた。
ただ、相手はドラゴである。主人であるアルアの顔面を容赦なく握り潰す彼女に、天邪鬼とかツンデレとか通用する訳がなかった。拒否すれば置いて行くだろう。
ぐぬぬ、とメイヴはやりにくそうに顔を顰めると、
「ま、まあ? 貴様らがどうしても私の力が必要だと言うなら同行してやらんでもないが?」
「フェイ、よかったじゃないかい。肉壁が二枚も手に入ったよ」
「そうだね、マスター」
「ゥオイ!! 私を肉壁扱いするとは何事だ!!」
顔を真っ赤にして肉壁扱いに怒りを露わにするメイヴとは対照的に、アルアは「ふむ」と頷いた。
「なるほど……肉壁ということはフェイ殿にベッタリ張り付いてもいいってことですね……了解です……肉壁になりましょう……」
「マスター、俺はまだ肉壁は必要ないからドラゴさんに譲ってもいい?」
「いいよ」
「ありがとうワンコ君!! 大事にするね!!」
「イダダダダダダダダダダダダダダ」
アルアの顔面を鷲掴みにするドラゴは、容赦なく五本の指に力を込めて握り潰そうとする。痛みのあまりアルアは暴れ、ドレスの裾が凄まじいことになっていた。
メイヴもドラゴに顔面を握り潰された時のことを思い出したのか、顔を青褪めさせていた。フェイにちょっかいをかけるとこうなるのだ。
フェイはダメ元でメイヴに微笑み、
「じゃ、メイヴさん。よろしくお願いします」
「よ、よろしく頼む。うん、仕方がない。手駒は多い方がいいからな」
こうして【傲慢の罪】という非常に希少価値の高いスキルを持つメイヴを仲間にすることが出来た。手駒は多い方がいい、というのも同感である。




