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外れスキル【鑑定眼】持ちの俺、美人な女探索者と組んで世界最強の弾丸に!?  作者: 山下愁
第8章:大迷宮【アビス】Ⅱ

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第1話【防寒対策】

 しんしんと、曇天から雪が降り注ぐ。


 真っ白な綿雪は音もなく地表に降り積り、吐き出す息は白く染まる。

 足跡すら残っていない雪原はどこまでも広がり、突き刺すような寒さが肌を撫でる。指先が寒いというより、もはや痛くて仕方がない。


 目の前に広がる果てのない雪原を前に、フェイは叫んでいた。



「雪原!? 何で!?」


「ここは大迷宮ラビリンス【アビス】だよ。何が起きてもおかしくないさね」



 それまで地下空間を彷徨い歩いていたのに、何故か唐突に雪原が目の前に広がっているのは驚いた。さすが大迷宮ラビリンス【アビス】と呼べようか。


 さすがに水着同然の薄着では寒いのか、ご主人様のユーリは大人しく装飾品が腐るほど縫い付けられた外套コートに袖を通す。それから丁寧に前を閉じて防寒対策を終了した。

 だがフェイは防寒対策を怠っていた。深緑色のつなぎとご主人様のユーリから与えられた銀色の拳銃を収めた拳銃嚢ホルスターしか装備品はなく、上着らしきものはない。この寒さの中、薄着で移動すれば確実に死ぬ。


 奴隷に防寒具はもったいない限りだろう。うん、ここは率先して雪の世界を歩くしかないか。



「じ、じゃあ俺は索敵とかしてくるね……?」


「待ちな、フェイ」



 ユーリが雪原に足を踏み込もうとするフェイの腕を掴み、



「五〇〇〇ディール装填、《防寒具を出しな》」



 銀色の散弾銃をフェイに向けたユーリは、貯蓄した金銭を捧げて願いを告げる。

 引き金を引いた瞬間、フェイの全身がモコモコとした外套コートで覆われた。さらにマフラーと耳当てという完全防備である。一瞬で寒さがどこかに消えた。


 驚いたようにゴーグルで覆われた瞳を見開くフェイに、ユーリは「見てるだけで寒いのさ」と言う。



「アタシのスキルで出したんだから、ここを抜けたらアタシに返すんだよ」


「え、あ、うん」



 それはもちろん、そのつもりだ。


 外套コートの内側はモコモコとした毛のおかげで暖かく、耳当てもモコモコとしているので非常に暖かい。先程までの突き刺すような寒さはどこに行ったのか。

 この階層を越えれば、きっとこれらの防寒具は必要なくなってくる。荷物になるようなものは必要ないので、使い終わったらご主人様に返却してスキルの貯蓄に戻してもらおう。



「ほら、ドラゴもいるだろう? あとで返すんだよ」


「ありがとう、ユーリさん!!」



 ユーリはドラゴにもフェイと同じようにモコモコとした外套コートとマフラー、耳当てを【強欲の罪(マモン)】に願って出していた。フェイよりも薄着の状態だったドラゴは顔が真っ青だったが、ユーリが出した防寒具を身につけて生き返った心地の様子だった。

 正直な話、唇まで真っ青だったので心配だった。ユーリもさすがに元仕事仲間が凍死するのは見たくなかったのだろう、フェイもドラゴが死ぬのは見たくなかった。


 さて、これで雪の中でも問題なく進める。突き刺すような寒さの対策もしたところで、いざ雪原に足を踏み込もうとするが、



「ま、待ってください」



 アルアが雪原に足を踏み込んだユーリとフェイ、ドラゴを引き止めた。



「わ、私にはないんですか? さすがにドレスでは寒いのですが」



 アルアの現在の格好は、迷宮区ダンジョン探索に相応しくない新緑色のドレス姿である。彼女は緑色の狙撃銃を得物としているので動く必要がなく、ドレスのような動きにくい格好でも問題ないだろう。

 ただ、防寒対策としては完全ではない。確かに肌の露出はユーリよりも少ないが、布地は薄いしスカートの裾から伸びる足は白い靴下に覆われるのみで、雪を踏みしめる靴は磨き抜かれた革靴だ。さすがに雪の中を歩くには適していない。


 まあ歩行に関してはドラゴに抱えてもらえばいいが、彼女の格好はさすがに凍死してもおかしくない。実際、唇も青くなっている。



「アンタは自力で何とかしな」


「何故ですか、このままだと私はここで死んでしまいますが!?」


「死んだらフェイにちょっかいをかける余計な人物がいなくなるから、アタシとしては嬉しいんだけどねェ」



 しれっとそんなことを言うユーリは、最初からアルアにだけ防寒具を出すことは頭にないようだ。多分、フェイがお願いしてもアルアに金をかけることはしないだろう。

 元仕事仲間から手酷く見捨てられたアルアは、新緑色の瞳からポロポロと透明な雫を落としながら「酷いです……」と嘆く。さすがにここへ置いていくのも良心が痛む。


 すると、シクシクと涙を流すアルアをドラゴが抱き上げ、



「はい、お嬢。あたしの上着の中で我慢してね!!」


「ドラゴ……」



 アルアは自分の従者であるドラゴに心からの感謝を滲ませた瞳で見上げるが、



「お嬢はあたしの大事な弾丸製造機だからね!! ここで置いていくと、あたしは戦えなくなっちゃうよ!!」


「…………そんなことだろうと思いました。まあ、ここで置いていかれるよりマシです」



 ドラゴの着ている外套コートと内側に収納され、モコモコとした外套の生地を堪能するアルア。さらにドラゴから耳当てを譲り受けられ、防寒対策は大丈夫になった。


 ユーリは「チッ」とわざとらしい舌打ちをしていた。ここで邪魔者を置いていこうと考えていたらしい。気持ちは分からないでもないが、大迷宮ラビリンス【アビス】を踏破するには少しでも協力者がいた方がいい。

 マフラーと耳当てを外したフェイは、どこか不機嫌そうなご主人様のユーリに巻きつけた。耳当てを装着させ、ご主人様が寒くないように取り計らう。


 赤い瞳を瞬かせるユーリの手を取り、フェイは笑った。



「俺の心配よりも、マスターは自分の心配をしてよ。寒そうだよ」


「これはアンタに出した防寒具だよ」


「マスターが巻いてて。俺は外套コートを出してくれただけで十分だよ」



 ユーリは仕方がなさそうに肩を竦めて「しょうのない奴隷だねェ」と呟いた。どこか恥ずかしそうに口元をマフラーで隠したのは気のせいだろうか?



「羨ましいですね、ユーリ殿。そのマフラーと耳当てを私にください」


「アタシはアンタをここに置いていくことを全面的に推奨しているんだけどねェ、どうだいアルア? ここで凍死するかい?」


「シクシク……ユーリ殿が虐めます……フェイ殿、慰めてください……」


「マスター、行こうか。こんな寒いところ、さっさと抜けちゃおう」


「聞いてない」



 防寒対策をしっかりしたところで、フェイはご主人様の手を引きながら雪原を移動するのだった。

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