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外れスキル【鑑定眼】持ちの俺、美人な女探索者と組んで世界最強の弾丸に!?  作者: 山下愁
第7章:大迷宮【アビス】I

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第8話【次の階層へ】

 眠るクリスタルベアーの計算を終え、フェイはご主人様のユーリに体表から魔石が突き出た熊の魔物を価値あるお宝として捧げる。


 銀色の拳銃を突きつけて食わせれば、風が吹いてあっという間に眠るクリスタルベアーを引き摺り込んでしまった。

 今回ばかりは魔物の研究を仕事とするアルアも何も言わず、ただフェイが銀色の拳銃を使ってクリスタルベアーを吸い込む様を観察していた。舐めるように身体中を這う視線が気持ち悪くて、思わずフェイは身震いしてしまったぐらいだ。



「さて、次の階層に向かいましょうか」



 眠気を代償にクリスタルベアーを眠らせたことで、アルアの目はシャッキリと覚醒していた。声も弱々しいものではなく、どこか百合の花を思わせる凛とした雰囲気を纏っている。

 車椅子も必要ではなくなったようで、緑色の狙撃銃を抱えてスタスタと奥に伸びる道を目指して歩いていった。その後ろから車椅子を畳んだドラゴが追いかける。


 スキル使用後のアルアは、いつもあんな感じだ。眠たそうなアルアしか慣れていないので、フェイは未だにあの状態のアルアに慣れない。



「行くよ、フェイ」


「うん」



 次の階層へ向かうことをユーリから告げられ、フェイは先に進むご主人様の背中を追いかける。


 この階層では魔石が主体となった、まるで星空と洞窟を掛け合わせたかのような幻想的な迷宮区だった。次の階層は果たしてどんな世界が広がっているのだろうか。

 大迷宮ラビリンス【アビス】はやはり凄い。あちこちに価値あるお宝が埋め込まれているし存在しているので、フェイの【鑑定眼】が休まる暇を知らない。視線を向けるたびに【強欲の罪(マモン)】に食わせた方がいいのではないかと思えるようなお宝がゴロゴロと転がっている。


 一〇〇年に一度しか開かれない特別な迷宮区ダンジョンであり、誰も踏破したことのないどこまでも続く無限の迷宮区。神々が人間たちに突きつけた挑戦状の名前は伊達ではない。



「あ、坂道になってるんだ」


「そりゃあ下の階層に行くからねェ」



 奥に伸びていた狭い道は、緩やかな下り坂となっていた。

 下り坂の奥からひやりとした空気が流れてくる。次の階層は寒い世界なのだろうか、ご主人様の薄着が心配になってくる。


 さらに薄暗い道の奥から、人間の「ぎゃあああああああああ」とか「もう止めてくれえええええええええ」などという断末魔が聞こえてきた。何が起きているのか気になるところだ。



「襲われてるのかな!!」


「おそらく、クリスタルベアーよりも強力な魔物が出てくることでしょう。ユーリ殿、しっかり頼みますよ。フェイ殿を傷つけたら妻である私が許しませんので」


「今ふざけたことを言ったような気がしたけど気のせいかねェ?」



 ユーリが先頭を歩くアルアに銀色の散弾銃を抜きかけて、一触即発の空気が漂い始める。


 まだ言ってるのか、とフェイもさすがにうんざりした。諦めが悪いとはこのことか。

 フェイはユーリ以外の女性に興味はないし、好意を向けることもない。ユーリ以外の女性で眼中にあると言えばドラゴと、あとは【暴食の罪(ベルゼブブ)】という強力なスキルを持ったユーリの元仕事仲間であるルーシー・ヴァニシンカぐらいのものだろうか。


 フェイは腕を組んで回答に頭を悩ませ、



「俺、マスター以外の女性だとドラゴさんかルーシーさん以外に興味ないです」


「…………ドラゴ?」



 アルアの新緑色の双眸が、後ろに続く自分自身の従者に向けられる。

 折り畳んだ車椅子をヒョイと担ぐ長身で筋肉質な女性は、アルアから向けられたやや冷たい視線を「え? 何?」と何とも思っていない風に受け止めていた。精神的に強すぎる。


 ドラゴはアルアの小さな頭にポンと手を乗せて、



「お嬢、もう諦めなよ!!」


「いいえ、諦めませんとも。私は絶対に好感度を上げて、フェイ殿を旦那様として射止めるのです」


「ワンコ君は幼女よりも年上の女性に魅力を感じるようだしね!! 最初から眼中にないよね!!」


「はうあッ」



 的確に「お前はお呼びでない」ということを伝えたドラゴは、石化するアルアの首根っこを掴んでずるずると引き摺り始めた。やはり精神的に強すぎる。


 ドラゴがトドメを刺してくれたので、フェイが「そんなことを言うアルアさんは嫌いです」と言い損ねてしまった。その一言を伝えれば状況は変わったかどうか不明だが、とにかくご主人様以外の女性に興味がないことを告げなければならなかったのに。

 引き摺られて徐々に距離が開いて行くアルアをゲラゲラ指差して笑い飛ばしていたユーリは、



「フェイ、ドラゴがいれば安心だねェ」


「まあ、アルアさんの盾になってくれるから。あと純粋に強いですから頼りになるし」


「ドラゴやルーシーが二番手なら安心だよ」


「マスターが一番だよ」


「モテ男の一番に選ばれるなんて光栄だねェ」



 ややご主人様にも揶揄からかわれて、フェイは不満げに唇を尖らせた。奴隷がモテる訳ないのに。



「ユーリさーん、ワンコくーん。次の階層に着いたよー」


「今行くよ」


「はぁい」



 狭い道の奥からドラゴの声が響き渡り、フェイは念の為にユーリの外套コートをちゃんと着させてから次の階層に向かった。


 道を歩くにつれて、徐々に温度が下がっていく。ゴツゴツとした岩肌が特徴の狭い壁や床にも霜が降りて、吐く息が白くなっていった。

 首から下げた頑丈なゴーグルを装着して、フェイはスキル発動に重要な目を守ることにする。【強欲の罪(マモン)】を安定して発動する為のスキルなのだ、たとえ外れと呼ばれようが何だろうがユーリ・エストハイムという女探索者の役に立てるなら当たりである。


 ヒヤリと冷たい空気に身震いをするフェイは、次の瞬間、白銀の世界を見た。



「…………」


「…………」



 フェアとユーリは、目の前に広がる光景に黙り込む。


 曇天で覆われた空からふわふわと白い綿雪が降り注ぎ、大地は真っ白な雪化粧で覆われている。ポツポツと存在する針葉樹にも雪が積もって、見ているこちらが寒くなる。

 吐く息が白くなる理由が分かったし、身震いするほど寒い原因も分かった。次の世界は雪が主体なのだ。



「雪だ」


「雪だねェ」


「雪だよ!!」


「雪ですね」



 フェイ、ユーリ、ドラゴ、それから復帰したアルアは目の前にどこまでも広がる銀世界に唖然と立ち尽くすのだった。

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