第7話【階層主との戦い】
「三万ディール装填」
銀色の散弾銃をクリスタルベアーに突きつけたユーリは、対価を散弾銃に捧げて引き金を引く。
「《爆発しろ》!!」
ガチン、と撃鉄が落ちると同時にクリスタルベアーの顔面が爆発した。
正確にはクリスタルベアーの目の前で、小規模な爆発が起こった。顔の半分近くが巨大な魔石に占められているので、爆発程度で死ぬことはないだろう。
だが、上手く目眩しとして機能したらしい。呻き声を上げながら、クリスタルベアーは身を仰け反らせた。
その隙を見計らって、フェイは駆け出す。ゴツゴツとした地面で無様にすっ転ばないよう気をつけながら、それでも自分の出せる速度を最大限まで用いてひた走る。
「三万、二万五〇〇〇、五万、二万三五〇〇!!」
爆発の影響で身を仰け反らせたクリスタルベアーの背後に回り、背中から突き出た大振りな魔石に狙いを定めて【鑑定眼】を発動。
やはり魔物の身体から突き出る魔石は希少価値が高いのか、どれもいいお値段が算定された。これほどの値段が出るのだから、純度も高くて使い所もたくさんあるはずだ。
だけど全部ご主人様のスキル貯蓄に捧げてしまうのである。金銭に関してはあればあるだけご主人様のユーリの願いが叶えられるのだから。
「シルヴァーナ、頼む!!」
銀色の拳銃をクリスタルベアーの身体から飛び出た魔石に突きつけ、引き金を引く。
フェイの持つ銀色の拳銃が縦に割れ、まるで獣が餌を食う時のように銃口が広がっていく。拡張された銃口から風が吹き、クリスタルベアーの背中に埋め込まれた魔石を熊の皮膚ごと引き剥がして吸い込んだ。
皮膚を引き剥がされた部分から赤い血が滲む。あまりの痛さにクリスタルベアーが「ぎゃああああああ!!」と絶叫を響かせた。
鋭い眼光で睨みつけてくるクリスタルベアーから、フェイは慌てて距離を取る。魔石を取ったら即離脱である。
「ぎゃあああああああああああああ!!」
「うわわわわわわわわわあ!?」
クリスタルベアーが、逃げるフェイを追いかけてきた。
やはり毛皮ごと引き剥がして魔石を吸い込むのは痛い模様である。あれだけ血が流れれば標的がフェイに移動することも予想できた。まあ、魔物に追いかけられるのはいつものことなので慣れているのだが。
すると、フェイを追いかけていたクリスタルベアーが真横に吹っ飛んだ。横から飛んできた誰かが思い切り蹴飛ばしたのだ。
「大丈夫!?」
「ドラゴさん!!」
吹っ飛ばされてゴツゴツとした地面に横たわるクリスタルベアーの上に仁王立ちをするドラゴは、フェイに対してニカッと快活な笑みを見せた。
「ワンコ君はお願いを叶える為の金銭を集めなよ!!」
「はい!!」
ドラゴから蹴飛ばされてさらに怒りを噴き出すクリスタルベアーは、自分の上で仁王立ちをするドラゴを払い落とす。
クリスタルベアーから転げ落ちたドラゴはすぐに体勢を立て直し、赤い拳銃をクリスタルベアーに突きつけた。
それよりも先にクリスタルベアーの猛攻が彼女へ襲いかかる。鋭い爪を振り上げて、赤い拳銃を構えるドラゴを狙った。
「三万ディール装填!!」
銀色の散弾銃を突きつけたユーリが、今まさにドラゴへ振り下ろされようとするクリスタルベアーの腕を狙う。
「《腕よ千切れろ》!!」
「ぎゃあああああああああああああッ」
ドラゴへ振り下ろされようとしたクリスタルベアーの腕が、肩から千切れて地面に転がる。雑な切り口から大量の鮮血が流れ出し、クリスタルベアーは痛みのあまり耳障りな絶叫を口から迸らせる。
地面に転がった腕を算定すると、一五〇万ディールというお値段が算出された。腕一歩で一五〇万ディールが算出されるなら、先程の熊よりもお値段はちょっと高めである。やはり身体が大きいからか。
フェイは銀色の拳銃に落ちた腕を食わせる。これで一五〇万ディールの貯蓄が完了だ、スキル貯蓄もなかなか捗っている。
「助かったよ、ユーリさん!!」
「とっととそこから逃げな」
ユーリは戦場の片隅を一瞥すると、
「アンタの言うお嬢が狙ってるよ」
戦場の片隅では、車椅子から降りた深窓の御令嬢が緑色の狙撃銃を構えていた。
チャチな玩具のように見えるそれだが、立派な彼女自身のスキルである。撃った相手を強制的に眠らせる、睡眠欲を対価に捧げた一発限りの眠りの弾丸。
冷たい銃把に頬を寄せたアルアが、射線上に立つクリスタルベアーの眉間を狙う。眉間だけはギリギリのところで魔石に守られておらず、そうでなくても心臓を狙えばクリスタルベアーは即座に眠ってしまう。
「それでは……眠ってください……」
霧の向こうから聞こえてくるような声でそう告げたアルアは、引き金を引いた。
タァン、という細く長い銃声が響く。
銃口から射出された眠りの弾丸は的確にクリスタルベアーの眉間を撃ち抜き、クリスタルベアーは唐突に沈黙する。しばらくぼんやりと立っていたクリスタルベアーだが、膝から崩れ落ちると盛大ないびきを掻き始めた。
確認すると、やはりクリスタルベアーは眠っていた。これで階層の主との戦いは終わりである。
「はーあ、疲れたぁ」
「お疲れ様!!」
ドラゴに手を差し出されて、フェイは「はい」と握手に応じる。さすがSSS級探索者と言うべきか、彼女の手の皮は非常に分厚かった。
さて、クリスタルベアーが起きる前に鑑定を済まさなければ。
銀色の拳銃を片手に【鑑定眼】のスキルを発動させたフェイは、視界に表示される金銭を合計していくのだった。




