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外れスキル【鑑定眼】持ちの俺、美人な女探索者と組んで世界最強の弾丸に!?  作者: 山下愁
第6章:迷宮区【サンドグレイヴ】

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第9話【宝箱を守る番人】

「――――これ妙に長くないかい?」


「それは俺も思ったけど」


「確かに長いねー」



 迷宮区ダンジョンに設置されたトラップを発動させてしまい、滑り台でさらに下の階層へ運ばれていくフェイとユーリ、ルーシーの三人はそんな軽いノリで会話を交わす。


 確かにこの滑り台、長すぎるのだ。

 もう滑り続けて五分は経過している。普通の滑り台は五分間も滑っていられない。


 ユーリは滑りながら器用に両腕を組むと、



「これってどこまで続いているんだろうねェ」


「かなり続いてるよな。もしかして迷宮主のところまで続いていたりして」


「まあ、多分あり得るだろうねェ」


「否定してほしかった」



 フェイは頭を抱えた。


 まさか、早くも迷宮主の前に放り出されることになるとは思わなかった。いやもう覚悟していたことだが、展開が早すぎる。

 迷宮主は一体どんな魔物なのだろうか。価値になる魔物だろうか。それともこの先にはしょぼい魔物しかいないのだろうか?


 色々と考えていたフェイの耳に、ルーシーが「あー!!」と叫ぶ。



「出口見えてきたー」


「本当だねェ」


「この速さで出口から放り出されたらまずくない?」


「大丈夫だろうよ」



 ユーリは銀色の散弾銃を引き抜き、



「全員、構えな」



 ご主人様の命令で、フェイは衝撃に備える。


 やがて物凄い速度で出口から放り出され、フェイは軽く宙を舞った。衝撃には備えていたが着地の準備をしていなかったので、先に着地を果たしたユーリの上に倒れ込んでしまう。

 間近に迫るご主人様の髪のいい香りと、柔らかな手触り。ご主人様の身体を抱き止めたフェイの手のひらに、何やらとても柔らかいものが吸い付いている。手のひらから零れるほどの大きさで、触り心地はすべすべとしていた。



「…………」



 フェイは嫌な予感がした。


 まさか、この感触は。

 ご主人様の、あの豊かな胸では?



「フェイ」


「は、はいぃッ!!」



 フェイは慌ててユーリを立たせて、それから弾丸の速度で離れる。


 完全に不可抗力である、着地の準備をしていなかったフェイが悪いのだ。

 身体を直角に折り曲げて「すいませんでしたーッ!!」と謝罪するフェイ。いくらご主人様が優しくても、こんな変態的な行動を迷宮区ダンジョン探索中にやらかしてしまうのはまずかった。


 ユーリは自分の豊かな胸を外套コートで隠すと、



「盛るのは家に帰ってからにしな」


「すんませんでした……ごめんなさい……許してください……捨てないでください……」


「アタシの言葉が聞こえなかったのかい?」


「いえあの着地の用意をしていなかった自分が悪いので、どうかその穏便に……穏便に……」



 どうか捨てられないように懇願するフェイに、ユーリは奴隷の頰を抓りながら「フェイ」と呼びかける。



「アタシは怒ってないよ」


「本当?」


「盛るのは家に帰ってからにしなって言ったんだよ。迷宮区ダンジョンで盛るのは命取りさね」


「へ」


「家に帰ってから好きなだけ揉みな」



 このご主人様、何と言うことを言ってくれやがったのでしょう。フェイ以外の奴隷だったら間違いなくこの場で押し倒してぶっ飛ばされていたことだろう。


 呆然と立ち尽くすフェイの耳に、ルーシーが「ねえねえー」と呼ぶ声が触れる。

 正気に戻ったフェイが認識したのは、意外と広い部屋だ。石が積み重ねられ、壁に設置された松明がぼんやりとした明かりを落とす。部屋の中を歩き回っていたルーシーが、部屋の奥に設置された雛壇を見ていた。


 雛壇には一抱えほどもある宝箱が設置されていた。海賊が見つけそうな宝箱であり、ピッタリと閉ざされている様子である。



「宝箱かい? 金目のものが入っているかもしれないねェ」


「どうかなー? 宝箱に入ってるかなー?」



 二人のSSS級探索者(シーカー)は、思考回路を切り替えて宝箱を調べる。


 フェイも自分のスキルである【鑑定眼】を用いて宝箱の価値を調べた。

 確かに宝箱のようで、中身には大量の金貨が詰まっている様子だった。これらをディールに換算すればおよそ五〇〇〇万ディールはくだらないだろう。


 ただ、こんな大金を迷宮区ダンジョンが放置しておく訳がない。何か仕掛けがあるはずだ。



「ッ!!」



 フェイは弾かれたように天井を見上げた。


 天井には、手のようなものが張り付いていた。

 全体的に包帯で覆われており、カサカサと蜘蛛のように天井を這い回る。宝箱に夢中な様子のユーリとルーシーを狙っているようだった。



「マスター!! 天井にいる!!」


「ん?」



 天井を見上げるユーリの視界にも、あの包帯に巻かれた手の魔物の姿が映ったことだろう。赤い目を見開き、あんぐりと開けた口から「うわあ……」という声が漏れる。

 確かにあの魔物は手だけで這い回っているので、手のみが存在する魔物なのだろうか。もしかして魔物の一部分だったりしないか?


 すると天井を這い回っていた手の魔物が、掴んでいた天井を離す。


 重力に従って落下してくる包帯に覆われた手は、スタンと綺麗に着地を決めた。フェイよりもカッコいい着地の決め方だった。

 そのまま包帯に覆われた手はガサガサガサガサーッ!! と床を這い回り、それから宝箱に群がるユーリとルーシーに強襲を仕掛ける。



「一〇万ディール装填」



 銀色の散弾銃を突きつけたユーリは、願いを叶える為の対価を捧げる。



「《吹き飛べ》」



 撃鉄が落ちると同時に、彼女の願いが叶えられる。


 本物の弾丸を受けたかのように、包帯で覆われた手の魔物は部屋の隅まで吹き飛んでいった。ビッタンと床に叩きつけられて、ビクビクと痙攣する。

 それでもやはり宝箱を狙う賊が許せないのか、すぐさま起き上がると威嚇するように指を広げてきた。手の魔物にとって指を広げることが威嚇行為に繋がるのか。


 すると、どこからか声が降ってきた。



「誰だ、我が秘密の部屋に侵入する阿呆は」



 ガコ、ガコガコガコガコと。


 何かが外れて、何かが繋がるような音が立て続けに聞こえてくる。

 見れば、壁の一部分が埋没して何かを生み出そうとしていた。壁の表面が盛り上がり、巨大な人間の形をした魔物が壁を突き破ってくる。


 包帯男だった。全身を包帯で覆い隠し、見上げれば首が痛くなるほど高い身長を持っている。ユーリとルーシーに威嚇をしていた手が巨大な包帯男の足を伝い、存在していなかった男の手首に嵌め込まれる。

 なるほど、あの手の魔物は包帯男の手だったのか。分離できるのか。



「我の宝を奪う賊は許さん。我が部屋を荒らした罪、その身で贖ってもらおう」



 低く嗄れた声で怒りを露わにする巨大な包帯男に銀色の散弾銃を突きつけ、ユーリは問う。



「アンタがこの迷宮区ダンジョンの主かい?」


「いいや違う」



 否定した。あれだけ偉そうなことを言っておきながら、迷宮主ではないようだ。



「そうかい、そうかい」



 ユーリは頷くと、



「じゃあとっととここで死んでもらうよ。邪魔だからねェ」



 豪勢に「一〇〇万ディール装填」と対価を捧げたところで、ルーシーがユーリの行動を制する。



「待ってよー、ゆりたん」


「何だい、ルーシー。食べられるのかい?」


「うんー」



 紫色に塗られた散弾銃を拳銃嚢から引っ張り出したルーシーは、モタモタとした手つきで巨大な包帯男に散弾銃を突きつける。


 怪訝そうに首を傾げる巨大な包帯男。

 相手からすれば玩具同然の散弾銃を突きつけられ、訳の分からない会話を交わす二人としか映らない。ただし彼女たちは紛れもなくSSS級探索者(シーカー)だ。スキルの威力を見れば分かる。


 紫色の散弾銃の引き金に指をかけるルーシーは、



「頭だけなら食べられるからー、身体はゆりたんにあげるねー」


「いいねェ。フェイ、今のうちにアイツの鑑定をしな」


「はいよ」



 ご主人様に鑑定の命令をされ、フェイは密かに胸中で合掌しながら【鑑定眼】のスキルを発動させるのだった。

 登場に時間がかかった割には、討伐されるのはあっさりとしているものである。ちょっと可哀想に思えた。

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