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外れスキル【鑑定眼】持ちの俺、美人な女探索者と組んで世界最強の弾丸に!?  作者: 山下愁
第6章:迷宮区【サンドグレイヴ】

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第6話【壁画】

「無事に迷宮区ダンジョンへ入れたようだねェ」



 砂の感触が残る硬い壁に手を添えながら、ユーリが「よしよし」と笑う。


 先が見えないほど伸びた廊下は薄暗く、壁沿いに設置された松明がぼんやりと廊下を照らすだけだ。十分な光量とは言い難いが、まあこの程度ならば歩行に問題はないだろう。

 ルーシーも「暗いねー」などと言いながら、壁に手を添えていた。積み上げられた石を押したり引いたりしているので、どこかに隠し部屋がないか調べているのだ。


 探索者シーカーにとって、壁に囲まれた廊下とは隠し部屋がある可能性を読めという鉄則がある。隠し部屋は簡単に迷宮主への部屋に繋がっていたり、目が飛び出るほどの財宝が眠っていたりするのだ。



「ダメさね、外れだよ」


「こっちもダメだよー」



 あちこちの壁に触れてみたSSS級探索者(シーカー)二名は、やれやれとばかりに肩を竦めた。どうやら期待外れな結果に終わったらしい。


 フェイもまた自分のスキルである【鑑定眼】を使ってみたが、別に宝の在処を示す為のスキルではないので隠し部屋を探すことが出来なかった。残念である、ご主人様に貢献できるかと思ったのだが。

 胸元で揺れる簡素な十字架の存在を確かめながら、フェイは首から下げた頑丈なゴーグルを装着する。フェイにとっては目が命だ、大切な瞬間に使えませんでしたとなってはお話にならない。


 ユーリは外套コートの裾を翻して、



「じゃあ奥に行くよ」


「はぁい」


「分かったー」



 ご主人様のユーリが先頭となって、フェイが後ろに続く。最後にはルーシーが続いた。大の男が美女二人に守られるというお姫様待遇である。


 フェイはさすがに居た堪れなくなった。

 いくら奴隷とはいえ、フェイも男性である。異性に守られるだけの存在はちょっと恥ずかしいのだ。



「マスター、やっぱり俺が先頭に」


「何か言ったかい、フェイ?」



 肩からかけた外套の下から銀色の散弾銃を僅かに見せながら、ユーリが爽やかな笑顔と共に振り返る。


 これは何も言ってはいけない証拠だ。文句を受け付けない、という彼女なりの主張である。

 フェイは口元を引き攣らせて「な、何でもないでーす……」と言った。言わざるを得なかった。



「奴隷君、諦めなよー。ゆりたんはこういう性格なんだからー」


「身を持って分かってます……」


「こういう性格ってどういう意味だい、ルーシー?」


「頑固って意味だよー」



 赤い三つ編みを揺らすルーシーは声を押し殺して笑い、ユーリは不満げにルーシーを睨みつけるのだった。

 流れでルーシーが先頭に立ち、彼女は間伸びした声で「早く行くよー」と言う。フェイは真ん中固定だとして、最後尾は必然的にご主人様のユーリとなる。


 自然な形でご主人様のユーリを先に行かせようとしたが、ユーリに軽い膝蹴りをされてフェイはやはり真ん中に固定された。



 ☆



 狭い廊下を真っ直ぐ突き進んでいき、やがて広々とした聖堂のような場所に到達する。

 高い天井は手を伸ばしても届くことはなく、壁には一面に複雑怪奇な絵がこれでもかと刻み込まれていた。人がたくさんいる絵や雲の上に立つ人間の絵、さらに深い穴のような絵まで多岐に渡る。


 このうち、深い穴のような絵は見覚えがあった。迷宮区ダンジョン【ディープブルー】でも見かけた絵だ。



「マスター、この絵って」


「アビスだよー」



 フェイがご主人様のユーリに聞くより先に、ルーシーが絵の正体を明かした。



「奴隷君は分からないだろうけど、世の中には大迷宮ラビリンスっていう超巨大な迷宮区ダンジョンがあるんだよー」


大迷宮ラビリンス……」


「現状では一個だけだねー、アビスっていう大迷宮ラビリンスだよー」



 ルーシーは深い穴の絵を指差して、



「この大迷宮ラビリンスは一〇〇年に一度だけ、一週間だけしか開かないんだよー」


「一週間だけ?」


「そうなんだー。一週間だけならどんな探索者シーカーでも受け入れる大迷宮ラビリンスなんだけどー、一週間以内に踏破しないと迷宮区ダンジョンにいる探索者は全部外に放り出されてー、また一〇〇年待たなきゃいけないんだよー」



 フェイは深い穴の絵をもう一度見やる。


 大迷宮ラビリンスと呼ばれる迷宮区ダンジョンなら、ご主人様のユーリも挑戦するはずだり

 ただ、気掛かりなのはこの一〇〇年に一度だけ、しかも一週間以内に踏破しなければ全員して迷宮区から放り出されるという仕組みだ。どんね迷宮区でも必ず踏破すると言われる最強の探索者たるユーリでも、単独でしかも一週間以内の踏破は難しいのではないか?


 その予想は的中し、ユーリは静かに言った。



「アタシは踏破できなかったのさ」


「マスター……」


「あの時は一人だったしねェ、途中で弾丸が尽きて一週間が経過しちまったのさ」



 ユーリの視線は奈落の底まで繋がるような穴の絵を睨みつけ、



「でも、次はアンタがいる」



 そこら辺の石さえも価値を見出す、ご主人様のユーリにとって無限の弾丸を生み出すスキルを有した奴隷。



「言ったろう、アンタはアタシの大切な弾丸さね。今度こそ、あの大迷宮ラビリンスを踏破してやるのさ」


「マスターが言うなら、俺も頑張るよ」



 ご主人様であり、どんな迷宮区ダンジョンも踏破してきた最強の探索者シーカーであるユーリさえ踏破できなかった大迷宮にフェイも緊張感が募る。その時が来るのは果たしていつなのか――その前にフェイは生きているのか気になる。

 大迷宮ラビリンス【アビス】が開くのは一〇〇年に一度きりだ。フェイが生きていない可能性も十分に考えられる。


 ところが、その不安を否定してくる人物がいた。世界で一番空気の読めないほわほわ系探索者のルーシーだ。



「奴隷君なら大丈夫じゃないのー?」


「え、何でですか? だって大迷宮ラビリンスが開くのって一〇〇年に一度だって」


「前に開いたのがちょうど一〇〇年前だしー、もうすぐ開くと思うよー。再挑戦が果たせるのも近いねー、奴隷君は運がいいねー」



 ルーシーはほわほわと笑いながら、そんなことを言う。


 なるほど、大迷宮ラビリンス【アビス】が開いたのはちょうど一〇〇年前になるのか。

 ならば再挑戦が果たせる日も近い。その時が意外と近いということを知って、フェイの緊張感がより高まった。


 すると、ユーリが唐突にルーシーの耳を引っ張り、



「ちょっと来な」


「イタタタタタ、何よーゆりたーん。わたし悪いこと言ってないよー」



 何故かフェイから遠く離れた場所まで行って、何かを話し始めてしまった。女同士の秘密の会話だろうか。

 こういう会話は割り込まないこと、というのをフェイはユーリからきつく教えられている。なので聞かないことにして、壁画に集中することにした。


 人が逃げ惑うような絵や雲の上の人間が地上に雷を落とす絵は、まさか迷宮区ダンジョンが出来る瞬間を描いているのだろうか。だとすれば、この迷宮区を作った神様はよほど自己主張が激しいらしい。



大迷宮ラビリンスか……挑戦するのが楽しみだな」



 フェイはポツリと呟き、



「アンタ、気づいているのかい?」


「気づいてるよー、あれだけ匂いがついてるんだもんねー」


「フェイに言うんじゃないよ」


「言わないよー、言ったら面白くないもんねー。それよりもゆりたんはそこまで奴隷君を大切にしてるんだねー」


「そうさね」


「奴隷君のことは好きー?」


「好き以上の感情さ。誰にも渡すつもりはないし、手放すつもりも毛頭ない。死に別れなんてごめんさね」



 なんかポツポツと小声で話しているが、何の内容なのか分からないのでフェイは聞かなかったことにした。



「フェイ」


「はぁい、マスター」



 話が終わったようで、ルーシーを伴ってご主人様が戻ってくる。



「今日はここで野宿するよ」


「踏破を急がなくていいの?」


「見たところ、ここは迷路形式の迷宮区ダンジョンさね。かなりの規模があるよ」



 壁画がある聖堂には、あちこちにどこかへ繋がる道が伸びていた。あれらを全て巡っていたらキリがないのだろう、ここを拠点とした方が効率がいいのか。


 フェイもユーリの意見に賛成である。彼女の意見に間違いはない。

 なので「分かった」と反対意見を言わずに賛同を示した。



「じゃあ早速明かりを準備しておくれ」


「分かった、廊下にあった松明を取ってくる」


「ゆりたーん、今日のご飯はー?」


「携帯食料で我慢しな」


「うえー」


「好き嫌いするんじゃないよ」


「お腹に溜まらないからやだー」


「好き嫌いじゃないんかい」



 ルーシーとご主人様のユーリのやり取りを背後で聞きながら、フェイは廊下にあった松明を取りに行った。

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