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外れスキル【鑑定眼】持ちの俺、美人な女探索者と組んで世界最強の弾丸に!?  作者: 山下愁
第5章:迷宮区【アンデッドマンション】

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第12話【それは彼にとって幸せな時間】

「お疲れ様でした」


「お疲れ!!」



 迷宮区ダンジョンに備えられた自動転送機構により、フェイたちは洋館の外に放り出された。


 朝早くから迷宮区【アンデッドマンション】へ潜り込んだので、時刻は昼過ぎとなっていた。

 すぐ近くに見えるアルヴィンの町並みもそろそろお昼時の様子で、軒先で弁当を広げている農家の人がちらほらと見えた。その光景を見ているだけでもお腹が空いてきた。


 迷宮区【アンデッドマンション】で走り回った影響で、朝食で得た元気を使い切ってしまった気がする。我儘を言えば、どこかで食事をしてから帰りたいものだ。



「お嬢、お腹空いたよ!!」


「そうですね。時間も時間ですので、どこかで食事をしてから町を出発しましょうか」



 どうやらドラゴも同じ気持ちだったようで、誰も乗っていない車椅子を押しながら空腹を訴える。その隣にいる深窓の御令嬢は優雅に微笑みながら食事を提案した。


 これは幸運だ、ご主人様にわざわざ訴えなくてもみんな同じ気持ちだったか。

 ちょうどユーリも「確かにねェ」などと頷いていたので、食事をしてから町を出発するのは賛成の様子である。これで「アタシはお腹空いてないよ」などと言おうものなら、ちょっとしょんぼりするところだった。


 アルアはフェイへ振り返り、



「フェイ殿、アルヴィンに食事が出来る店はありますか?」


「食堂がありますよ。町のおばちゃんたちが集まって経営しているお店があったはずです」



 フェイも子供の頃はよく世話になったものである。


 町のおばちゃんたちが集まって、アルヴィンで作られる野菜などの食材を使って料理を作る食堂だ。家庭の味がしてとても美味しい店である。

 農家の人は大半が家族から弁当を渡されているはずなので、昼間の食堂は暇な老人たちの溜まり場になっている。五人ぐらいならすぐに案内できるだろう。


 アルアは「ほう」と緑色の双眸を輝かせると、



「ではそこに案内をお願いします」


「分かりました。マスターもそれでいい?」


「いいよ」



 ご主人様のユーリも、アルアの決定に異論はなかった。揉めるような真似もなくてよかった。



「ところで、メイヴさんはいつ復活するの?」


「知らないよ、あんなの」



 ユーリはスッパリと切り捨てる。


 迷宮区ダンジョン【アンデッドマンション】を踏破して自動転送機構によって外に放り出されてからも、メイヴは放心状態のままぼんやりと空を見上げていた。迷宮主と対峙をした際に、フェイに守ってもらおうと画策したようだが、それを断ったのが原因らしい。

 正直な話、フェイだってご主人様の肉壁になるならまだしも、他人の肉壁になるのは嫌だ。いくら人権を剥奪された最下層の人間でも、わざわざ金を出して買ってくれた主人とそれ以外の対応の差はつけてもいいだろう。


 ただ、ここに置いていくのもアレなので、フェイは手持ち無沙汰に車椅子を揺らすドラゴに提案する。



「ドラゴさん、メイヴさんを車椅子に乗せてあげることは可能ですか?」


「いいよ!!」



 勢いよく頷いたドラゴは、放心状態のメイヴの首根っこを掴んで車椅子に乗せた。車椅子に乗せられても暴れる素振りすら見せず、ドラゴの押す車椅子の背もたれに寄りかかって、メイヴはぼんやりと空を見続けていた。

 覇気のないメイヴには何故か調子が狂うのだが、フェイは特に気にしないことにした。だってフェイには関係がないからだ。


 苦手な魔物がひしめく迷宮区ダンジョンから解放されたし、うるさい元仕事仲間もいないことで、ユーリのご機嫌はすこぶるよかった。意気揚々とフェイの腕に絡みついてくると、



「じゃあ行こうかい」


「マスター、疲れたの? おんぶする?」


「これでいいよ」


「そっかあ」



 腕に抱きついてご機嫌なユーリへ適当な答えを返し、フェイは故郷の食堂を目指すのだった。



 ☆



 丸太を組まれて建てられた小屋にて、本日も町のおばちゃんたちによる食堂が開いていた。屋根からもくもくと立ち上る煙から、何かを焼くいい匂いが漂ってくる。

 小屋の前には立て看板が設置され、本日のお勧めと銘打たれた食事の内容がずらずらと並んでいた。今回は魚料理が主となっている定食が多い。


 フェイが立て看板の前に座り込んで「どれがいいかな……」と悩んでいると、



「どれと悩んでいるんだい」


「ウッソのトマト煮込みか、ハナンの香草焼き」



 ウッソと呼ばれる川魚は今が旬の食材で、煮込み料理にするとおいしいと聞く。他にも出汁に使われたりするのだが、今回は豪勢にトマトで煮込んだようだ。

 一方でハナンとはウッソと並ぶ今が旬の食材であり、こちらは煮込み料理よりも焼いて食べた方が美味しい。使われている香草も今の時期に取れるものばかりを使用しているので、この味が楽しめるのは今だけだ。


 どちらの魚料理も美味しそうなので、フェイは大いに迷っていた。昔はジャガイモと卵の炒め物など子供の口に合いそうな料理ばかりを選んでいたが、年を重ねていくうちに嗜好も変わってきた。



「迷うなぁ」


「早く決めな、こっちは腹が減ってんのさ」


「えー、分かったよ」



 フェイは仕方なしに立て看板の前から立ち上がり、



「じゃあウッソのトマト煮込みにしよう」


「そうかい」



 ユーリは頷くと、食堂の扉を遠慮なしに開けた。


 カランカラーンという鐘の音が店内に響く。

 店内を利用しているのは、やはり昼間から暇な老人たちぐらいのものか。自分の家から安酒を持ち込み、町のおばちゃんたちからどやされながら作られたつまみを口に運びながら他愛のない会話に花を咲かせている。


 調理場から顔を覗かせたおばちゃんの一人が、弾んだ声でフェイたちを出迎えてくれた。



「いらっしゃい。――あら!! フェイ坊じゃないか、大きくなったねぇ」


「お久しぶりです」



 食堂のおばちゃんは「いい男になったじゃないか!!」と言いながら、フェイの腕を叩いてきた。意外と痛かった、手加減を知らないおばちゃんである。



「ほら、何を注文するんだい? オムライスかい?」


「いやウッソのトマト煮込みの方をお願い」


「あら、いいのかい? 昔は『ウッソなんて気持ち悪くて食べられない』とか言ってたのにねぇ、味覚も成長したじゃないか」


「昔の話でしょ、おばちゃん」



 自分の恥ずかしい話をバラされて顔を赤らめるフェイは、



「ほらマスターは何を頼むんだ?」


「ハナンの香草焼きさね」


「え」



 ご主人様の口から出てきた料理名は、フェイが散々迷った末に諦めたものだった。



「奇遇じゃないかい、フェイ。アタシが悩んでた定食を注文するなら、半分寄越しな」


「え、いいけど……マスター? いいの?」


「アタシが注文したんだからいいのさ」



 ユーリはゲシとフェイを軽く蹴飛ばすと、



「だからアンタは気にするんじゃないよ」


「…………うん」



 本当に、優しいご主人様である。

 食堂のおばちゃんも「あらー、優しい人ねぇ」と微笑ましそうに眺めている。食堂を利用中の老人たちも微笑ましげに見ていた。視線が痛い。


 すると、アルアが「おや?」と反応し、



「なるほど、では私もフェイ殿と同じウッソのトマト煮込みにしましょうか。フェイ殿に『あーん』をしてもらいましょうかね」


「じゃあ、あたしは山羊肉のニンニク炒めにしてお嬢の頭を握り潰しておくね!!」


「アダダダダダダダダ!! ドラゴ、止めなさい痛い痛い痛い!!」



 またしてもアルアが不埒な考えでフェイに寄ってきたので、ドラゴが頭を握り潰していた。少女の悲鳴が食堂全体に響き渡るが、フェイは同情しなかった。


 ああ、賑やかだ。

 故郷に来ることは頭になかったが、やはりいいものだ。奴隷商人に売られた苦い記憶はあれど、町の人は優しいしいつも通りだ。



(よかったな、マスターと一緒に故郷へ帰れて)



 フェイは、この賑やかな時間にこそ幸せを感じていた。


 隣にはドラゴに頭を握り潰されるアルアへ、冷たい視線をやるユーリがいる。

 彼女がいれば、フェイはどこだって幸せになれるのだ。

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