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外れスキル【鑑定眼】持ちの俺、美人な女探索者と組んで世界最強の弾丸に!?  作者: 山下愁
第5章:迷宮区【アンデッドマンション】

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第5話【大罪珍道中】

「おはようございます……」


「おはようございます!!」



 迷宮区ダンジョン案内所では、アルア・エジンバラ・ドーラとドラゴ・スリュートが待ち構えていた。

 彼女たちの側には大きめの馬車が待機させられてあり、おそらく今回の迷宮区【アンデッドマンション】がある場所にはあの馬車で向かうのだろう。今日は五人という大所帯なので、馬車が大きくなるのも必然的である。


 ユーリは心底嫌そうに、フェイも至って普通に挨拶を返した。



「…………はよ」


「おはようございます」


「今日も素敵な迷宮区ダンジョン探索日和ですね……」



 車椅子に腰掛けて微笑む真相の御令嬢気味なアルアは、



「あとはメイヴ殿だけですか……」


「まだ時間はありますし、待ってみましょう」



 出発時刻までまだ余裕はあるので、最後の一人であるメイヴ・カーチスの到着を待つことにする。


 すると、やたら迷宮区ダンジョン案内所の前が騒がしくなった。

 最強の探索者組合『七つの大罪(セブンズ・シン)』が一堂に会しているからではなく、白と銀を基調にした軍服の集団が迷宮区案内所を目指して行進しているからだ。ザッザッザッザッと一糸乱れぬ足音を響かせて、さながら軍隊の行進のようにこちらへ向かってくる。


 彼らを率いているのは、もちろん金髪で縦ロールな髪型をした貴族然とした少女である。



「おお、私が最後か。待たせてすまなかったな」



 金髪縦ロールの少女――メイヴ・カーチスが現れた途端、ユーリがそっと音もなくフェイの背後に隠れた。おそらく朝から顔を合わせたくないのだろう。

 相手も同じことを思っているのか、フェイには爽やかな笑みで「おはよう」と言ってくれてが、フェイの後ろに隠れるユーリには何もなかった。この二人、相当仲が悪そうなのに大丈夫なのだろうか。


 メイヴは自分が引き連れてきた軍服の集団に振り返り、



「私は迷宮区ダンジョンに行ってくる、留守を頼むぞ」


「「「「「いってらっしゃいませ、隊長」」」」」



 口を揃えて軍服の集団は隊長たる少女を見送り、それから踵を返して再び一糸乱れぬ動きで戻っていった。どこに行ったんだろうか、あれ。


 メイヴは彼らの動きに満足している様子だった。

 足の動きどころか軍服の裾が靡く位置まで完璧に計算され尽くした、まるで操り人形のような集団である。メイヴが調教したのだとしてら、一体どれほどの時間と労力をかけたことだろうか。


 フェイは背後に隠れるユーリに、コソコソと声を潜めて問いかける。



「メイヴさんって一体何者?」


「あそこは軍人家系さね、あんな一糸乱れぬ気持ち悪い行進を仕込めるのも訳ないよ」



 ユーリは心底嫌そうな表情で、



「メイヴの【傲慢の罪(ルシファー)】は地位や名誉が関係してくるさね。地位が確立され、率いる連中が増えれば増えるほどアイツの能力は力を増す。他人に対する絶対的な命令権だからねェ、地位が必要なのさ」


「何だ、私の話か? それなら直接聞けばいいだろうに、何もその強欲女に聞く必要などあるまい」



 メイヴは自分自身の話題にしっかり割り込んでくると、



「そうだ、そこの奴隷。私が貴様を買ってやろうではないか、言い値で買うぞ? そうすれば貴様も私の部下の一員に」


「手が滑ったァ」


「痛い!? こ、この暴力女め、私を殴ったな!?」



 フェイを最も大切にしてくれるご主人様のユーリによる鉄拳制裁で、メイヴによる阿呆な話は強制的に終了した。よかった、このままだったら確実に売り渡されていた。

 さらにメイヴをぶん殴ろうとするご主人様を羽交い締めにして、フェイは「どうどう」と怒りを抑え込む。所有する奴隷を狙われたのが嫌なのか、それとも求めてきたのが一番嫌いな奴だからか、そこは不明だが。


 強欲と傲慢による取っ組み合いを、アルアが手を叩いて収束させる。



「はい……それでは行きますよ……出発が遅れてしまいます……」



 アルアはニヤァと笑うと、



「これからフェイ殿のご両親にご挨拶に向かうのですから……ああ何とご挨拶をしましょうか……『御子息の嫁です』と言えばいいですかね……」


「殺す、全員殺す、ドラゴ以外はまとめてぶっ殺す」


「アルアさん、マスターの怒りを煽るような真似はしないでください!!」



 怒りに我を忘れて銀色の散弾銃まで引っ張り出してしまったご主人様を止めるフェイは、密かに深々とため息を吐いた。どうしてこうなった。



 ☆



 一悶着あったが、何とか馬車に乗ることが出来た。


 広い馬車は快適で、椅子がいくつかあるので選び放題である。乗合馬車を丸ごと貸し切ったような感覚だ。

 馬車の後ろには旅用の荷物が積まれているので、準備も万端な様子である。荷物の量から推測して、かなり大掛かりな旅になりそうだ。


 フェイはいつも通りご主人様のユーリの隣に座るのだが、



「ふん、貴様には私の隣に座る権限を与えてやろう。光栄に思えよ」



 フェイの反対隣にメイヴが腰掛け、



「では私はフェイ殿の膝の上に……」



 アルアが何とフェイの膝に座ってきたのだ。


 参った、全く意図していないのにどうしてこうなった。

 フェイはご主人様であるユーリ一筋なのだ、いくら貴族の御令嬢だとしても二人には全く興味はないのである。どれほど色仕掛けをかけられようとも微塵も心が揺り動かないのだ。


 フェイが奴隷でなくただの一般人だったら「えーと、あの」となぬていただろうが、奴隷としてご主人様のユーリと過ごして長いのだ。優しいご主人様一筋である。



「はい、アルアさん」



 フェイは膝の上に乗ってご満悦の様子であるアルアを前の座席に強制的に移動させ、



「マスター、こっちに行こう」



 不機嫌な様子で両腕と両足を組んでいたご主人様に席の移動を促し、フェイとユーリは馬車の端っこを陣取った。もちろんフェイは誰も隣に来れないように壁際である。


 唐突な座席の移動にユーリは驚いている様子だったが、アルアとメイヴから離れられてご満悦のようだ。機嫌は直ったらしい。

 ついでとばかりに二人の女狐へ見せつけるかのようにユーリはフェイによりかかってきた。まあこれぐらいならいつものことである。


 アルアとメイヴはそんなユーリが気に食わないようで、



「何故ですか……ユーリ殿がよければ私でもいいでしょう……」


「私が隣に座ってやると言っているのだぞ、何が不満なのだ!!」


「お嬢、あとメイヴ嬢も」



 フェイの行動に憤りを露わにするアルアとメイヴに、車椅子を積んできたドラゴが静かに諭す。



「あのワンコ君は最初から最後までご主人様のユーリさん一筋なんだよ、お二人は眼中にないの。だからいくらユーリさんから買おうとしたってまずユーリさんが許さないよ」


「それはスキルを使ってどうにかしますよ……」


「命令権を使って既成事実でも作れば問題ないだろう」



 あり得ねえ答えがアルアとメイヴの口から出てきた。


 ドラゴは、堂々とした答えを叩き出した二人に可哀想なものでも見るような視線を送る。

 それから「……これだけは言いたくなかったなぁ」と呟くと、



「お嬢、メイヴ嬢」


「まだ何かあるんですか……」


「しつこいぞ」


「現実を見なよ、お嬢たちの幼児体型ではワンコ君を魅了できないんだよ」



 アルアとメイヴの視線が、そっと自分の身体に注がれる。


 そう、彼女たちは寸胴体型――いわゆる幼児体型である。起伏が少なく、華奢で細身な体格なのだ。

 対するユーリは豊かな胸部と括れた腰、程よく筋肉もつけられた抜群の体格を誇っている。探索者としてこれ以上ないほどバランスの良い体つきだ。


 ドラゴの一言で撃沈するアルアとメイヴを差し置き、ドラゴが「ごめんね、ワンコ君とユーリさん」と謝る。



「お嬢は一回現実を見た方がいいんだよ」


「爽快なやり取りだったねェ。助かったよ、ドラゴ」



 ドラゴは「どういたしまして」と笑うと、



「ところでワンコ君さ」


「はい」


「あたしのことは好き?」


「マスターの次ぐらいには」



 奴隷であるフェイを差別せずに面倒を見てくれるドラゴに、悪い印象は抱いていない。素直すぎるきらいはあるけれど、強くて逞しい女性だ。

 フェイの回答を受けてもユーリの機嫌は悪くならず、むしろ当然だとばかりに「まあ、ドラゴはフェイの面倒をよく見てくれるからねェ」と納得している様子だった。ユーリもドラゴには悪い印象を抱いていないのだろう。


 ドラゴは少し照れ臭そうにはにかみ、



「ご主人様の次に好きって、意外と好感度高いね」


「ドラゴさんは強くて尊敬できますので」


「鍛えておいてよかったぁ。お嬢が迷惑をかけたらあたしに言ってね、止めるからね」


「はい、お願いします」



 馬車内は半分お通夜、半分平和な空気になった状態でアルゲード王国を出発することになった。

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