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外れスキル【鑑定眼】持ちの俺、美人な女探索者と組んで世界最強の弾丸に!?  作者: 山下愁
第5章:迷宮区【アンデッドマンション】

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第1話【怠惰からの依頼】

「ユーリさん……ちょうどいいところに……」


「帰りな」



 今日も今日とて迷宮区ダンジョン案内所にやってきた最強の探索者シーカーとそのお供であるフェイとユーリは、車椅子に腰掛けた貴族の御令嬢とご対面を果たしていた。

 艶やかな栗色の髪と眠たげな印象のある緑色の双眸に、探索者には相応しくない上等な布地のドレスを身につけている。紡がれる声はさながら霧の向こう側から聞こえてくるようにか細く、下手をすれば聞き逃してしまいそうだ。


 彼女はアルア・エジンバラ・ドーラ、ご主人様であるユーリの元仕事仲間である。最強の探索者組合『七つの大罪(セブンズ・シン)』に所属するSSS級探索者で、撃った相手を半永久的に眠らせる【怠惰の罪(ベルフェゴール)】という特殊スキルを持っている。



「何故ですか……私はまだ何も言っておりませんが……」


「アンタの言うことは大体分かってんのさ」



 ユーリは鼻の頭に皺を作り、



「どうせドラゴだけじゃ踏破できない迷宮区ダンジョンが出てきたんだろう? それで誰かを巻き込もうとしたけど、ちょうどよくアタシらがいたってだけの話さね」


「ご名答です……さすがですね……」


「当たりたくなかったよ」



 深々とため息を吐くユーリ。その隣では、フェイが「あはは……」と苦笑いするしかなかった。



「それで、今回の迷宮区ダンジョンは一体どんなものですか?」


「はい……ドラゴ……此方に……」


「はいっす!!」



 元気よく返事をした蛇を想起させる大女ことドラゴ・スリュートが、一枚の羊皮紙をフェイとユーリの前に突き出した。


 難易度はそこそこ高く、崖から落ちたり噴水に飛び込んだりするような方法で潜り込む迷宮区ダンジョンではないようだ。ただ廃屋に入って、外に出れば辿り着ける迷宮区らしい。

 最近、浮浪者が何人も行方不明になっているようだ。その屋敷に足を踏み入れた瞬間に迷宮区への侵入が成立するなら、雨宿り目的で利用も出来やしない。何の技術も持たない浮浪者なら死んでいてもおかしくないだろう。


 迷宮区の名称は【アンデッドマンション】――死者の屋敷か。



「アンデッドって言うと、幽霊とか死者の魔物が多いですかね?」


「というかそれしか出てきませんね……【アンデッドマンション】と銘打たれるぐらいですから……死者の屋敷と呼べますし……」



 ほわほわと笑うアルアは、



「報酬も悪くありませんし……是非一緒に挑戦しませんか……? もちろん報酬の手取りは一〇割が其方そちらで構いませんよ」


「お断りだよ」


「え?」



 ご主人様のユーリの回答に、フェイは驚きが隠せなかった。



「え、マスター? 報酬を全額貰える美味しい仕事だぞ? 難易度も高くないのに報酬もなかなかいいぞ?」


「お断りだよ」



 フェイが言っても意見を変えなかった。ここまで強情なご主人様は初めてかもしれない。


 さすがに困惑が隠せなかったフェイだが、ドラゴが「ああ!!」と思い出したようにポンと手を叩く。

 彼女の口から飛び出てきたのは、長い付き合いのフェイでも知らないご主人様に関する趣味嗜好の情報だった。



「そう言えば、ユーリさんってお化けとかゾンビ系の魔物って大嫌いでしたね!! 何か肌が腐ってんのかめちゃくちゃ怖いとか気持ち悪いとか言ってなかったでしたっけ!?」


「えッ」


「馬鹿ドラゴ!!」



 フェイが弾かれたようにご主人様を見やると、彼女は銀色の散弾銃をドラゴに突きつけて顔を赤く染めていた。



「そう言うんじゃないよ!! ただ少し見目の悪い魔物が気持ち悪くて嫌悪感があるだけさね!! 別に怖い訳じゃないんだよ!!」


「正直、暗いところもあんまり得意じゃないって言ってましたね!! だからワンコ君に抱きついて眠るんじゃないかって思ってたんですけど違いました!?」


「一〇万ディール装填、《その口を今すぐ閉じろ》!!」



 銀色の散弾銃に容赦なく対価を支払って願いを叶え、ドラゴの口が針と糸で縫い付けられたかのように閉じられる。「むー、むー」と彼女は一生懸命に喋りかけていた。


 一方でとんでもない情報を暴露されたご主人様のユーリは、この情報を使って面白そうなことを企むことが危惧されるアルアを睨みつける。

 手にした銀色の散弾銃を貴族の少女に突きつけ、彼女の赤い双眸は剣呑な光が宿っている。ドラゴにはまだ悪い印象はないが、アルアには色々と恨みがあるようで、ご主人様はとうとう殺人に手を染めるかもしれない。


 フェイはご主人様が罪の道に突き進まないように、ユーリを押さえることにした。



「はい、マスター。どうどう」


「離しな、フェイ!! この下衆な性格のアバズレを今すぐ殺してやる!!」


「マスター、そうなったら俺は奴隷商人のところに逆戻りするんだけど。今のまま売られたらどこの誰に買われるか分からないぞ?」


「…………チッ」



 心の底から嫌そうに舌打ちをしたユーリが、大人しく銀色の散弾銃を下ろした。不承不承という感じなので、またいつアルアに飛びかかるか分からない。


 フェイはご主人様の行動が気になるので、自然とアルアから引き離すようにした。アルアはいい人だと思うのだが、どうしても頭の片隅で迷宮区ダンジョン【スターダスト】の時の帰り道で起きた事件を思い出してしまうのだ。

 そう、真夜中のあの日だ。眠気の覚めた令嬢に迫られて、ご主人様の絶対零度の視線が瞼に焼き付いて離れない。


 自然とフェイもアルアから距離を取りつつ、



「あのー、マスターが遠慮してるので俺たちは」


「残念ですが……」



 アルアは別の羊皮紙を引っ張り出しながら、



「すでに決定事項です……」



 そこに並んでいたのは、五人分の申請書だった。すでに許可は貰っているようで、羊皮紙の隅には迷宮区ダンジョン案内所の責任者の署名が並んでいる。


 誘っても無意味だった、という訳である。

 最初からフェイとユーリに拒否権などないのだ。



「ん? あれ、アルアさん」


「何でしょう……?」


「これおかしい、何で五人分で申請してるんだ?」



 アルアとドラゴ、それからフェイとユーリだけであれば申請は四人分で足りる。

 それなのに、申請書は五人分あった。一人多いのだ。


 まさか別に誰かがいるのかと警戒したフェイだが、



「ああ……それでしたらこの方をお呼びしたんです……」



 アルアがそう言うと同時に、迷宮区ダンジョン案内所全体に高らかな笑い声が響き渡った。



「はーはははは、この私の助けが必要だと言われたから仕方なく、本当に仕方なーく引き受けてやるぞ。はーはははははは!!」



 傲慢を体現する口調と共にやってきたのは、金髪で軍服姿の少女だった。

 悪役令嬢のような透き通る金髪をぐりぐりと縦に巻き、爛々と輝く琥珀色の双眸は気の強さを現しているようだ。全体的に身体の凹凸はなく、薄っぺらい胸の下で腕を組んでいる姿は、幼い子供が必死に威厳を保とうとしている虚しさと可愛らしさが同居していた。


 彼女を見た瞬間、ユーリがあからさまに嫌そうな表情をした。



「何でチビも呼ぶんだい」


「誰がチビだとぅ!?」



 金髪縦ロール少女ことメイヴ・カーチスは、チビと宣ったユーリに食ってかかった。



「貴様も一緒か、せいぜい足を引っ張るなよ強欲女め」


「今から申請を取り消しな、アルア。アタシはこんな奴と仕事なんて出来ないよ」


「無理ですね……諦めてください……」



 アルアは申請書を喋れないドラゴに渡して、



「メイヴ殿をお呼びしたのは他でもありません……彼女のスキルは【傲慢の罪(ルシファー)】……自分より立場の弱い存在に対する絶対的な命令権です……」



 メイヴを一瞥するアルアは、



「今回の迷宮区ダンジョンにはゾンビ系の魔物しか出てきません……メイヴ殿のスキルでゾンビを従えて……迷宮主の元まで案内してもらおうと思っております……」


「まあ、私の力がどうしても必要だと宣うのでな? こうして仕方なくだな?」



 頼られて嬉しいのか、メイヴは偉そうに胸を張る。


 ご主人様のユーリの機嫌が急降下していくのを隣で感じながら、フェイはヒヤヒヤとしていた。

 またいつ彼女がアルアとメイヴに襲い掛からないか心配である。襲い掛かれば今度こそフェイは奴隷商人の手元に逆戻りだ。


 だが、まあSSS級探索者(シーカー)がこれだけ集まっているのだから心配はないだろう。きっと早期解決に繋がるはずだ。



「それではこの迷宮区ダンジョンの場所ですが……」



 アルアが迷宮区ダンジョンの情報が記載された羊皮紙に視線を落とし、



「場所は少し遠いですね……田舎町のアルフェンとあります……」


「え」



 フェイは思わず反応していた。


 忘れる訳がない。

 そこはフェイの普通の人生が脆くも儚く崩れ去った、始まりの場所なのだから。



「どうしましたか……?」


「いや、あの……」



 不思議そうな眼差しを向けてくるアルアに、フェイは言いにくそうに告げる。



「……俺の故郷です、そこ」

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