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外れスキル【鑑定眼】持ちの俺、美人な女探索者と組んで世界最強の弾丸に!?  作者: 山下愁
第4章:迷宮区【ディープブルー】

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第12話【知らぬ奴隷、悟る少女】

 あれから何故か身体の調子がいい。



「昨日ぐっすり寝たからかな」


「何を言っているんだい、フェイ」


「いや何にも」



 不思議なことに、迷宮区ダンジョン【ディープブルー】を踏破してからフェイの身体がすこぶる快調だった。まるでこうなることを求めていたかのような、清々しい気分である。

 ただ記憶に全くないのだ。夜中にご主人様のユーリが起きていて、何かをしていたようだが、それ以外の記憶はない。朝起きたらユーリがしがみついて寝ているのもいつも通りだった。


 何故か分からないが、まあ身体が快調であるなら文句はない。今日も今日とて迷宮区探索である。



「さて、今日はどこにするかねェ」


「そうだな」



 迷宮区ダンジョン案内所の掲示板を見上げ、フェイとユーリは潜り込む為の迷宮区を見繕う。


 やはりどれも中堅の探索者シーカーに任せた方がいいものばかりで、報酬金額も難易度も高くないものばかりだ。手付かずのまま残っているということは、中堅の探索者たちは報酬が安いから受けたくないという心理の表れなのだろう。

 難易度の高い迷宮区に挑んで死ぬぐらいなら、少し難易度を下げてたんまりとお宝を持ち帰ればいいのに。最近の探索者は頭の悪い連中ばかりみたいだ。


 フェイは適当に迷宮区の掲示板から張り紙を引き剥がし、



「マスター」


「何だい」


「耐久戦ってのはどうかな」


「アンタは何を企んでいるんだい」



 両手に複数の迷宮区ダンジョンの張り紙を持ちながら、フェイは言う。



「一日で何箇所の迷宮区ダンジョンを踏破できるかなって」


「なるほどねェ、場所が近ければ巡れるじゃないかい」



 少し考えてから、ユーリは「いいんじゃないかい」と応じる。



「それはそれで楽しそうさね。全部の迷宮区ダンジョンを手続きするのは面倒そうだけど、手付かずならアタシらが片付けてやるのも一興じゃないかい」


「そうそう。いつまでも迷宮区ダンジョンが残ったままだと、そこの土地の人にも迷惑がかかるしね」


「アンタは優しいねェ」



 フェイの手からまとめて迷宮区ダンジョンの紙を引ったくったユーリは、



「ちょいと手続きをしてくるよ。アンタは待機所にいな」


「うん」



 奴隷が迷宮区ダンジョン案内所を彷徨うろついてはいけない、という規則みたいなものはある。まあそれで他の探索者シーカーの怒りを買ってはいけないので、フェイも主人の言うことをきちんと聞いて、奴隷待機所で待つことにした、

 世の中の探索者は随分と理不尽になってきた。奴隷と見れば誰が所有してても「虐めていいものだ」と判断する始末である、そんな傲慢な輩は滅べばいいのに。


 珍しく無人の奴隷待機所でご主人様の迷宮区の手続きが終わるのを待つフェイは、ふと見覚えのある小さな少女が迷宮区案内所の入り口を潜った瞬間を見た。


 貴族の令嬢よろしく金髪をグリグリと巻いた髪型に、琥珀色の双眸は意思の強さを感じる。華奢で起伏の少ない身体を白と銀を基調とした軍服に身を包み、華麗に靴を鳴らしながら迷宮区案内所をズカズカと歩き回る。

 彼女の後ろにはいつものようにお供が何人か控えていたが、奴隷待機所で待つフェイに一瞥をくれたのは、お供を率いる小さな少女一人だけだった。



「……!?」



 驚いたように琥珀色の双眸を見開く少女は、ちょうど手続きが終わったご主人様のユーリに掴みかかった。が、身長が届かずにポカポカと空中をぶん殴るだけだった。


 肝心のご主人様は鬱陶しそうな顔をしているだけで、特に何とも思っている様子はなかった。

 少女の小さな頭を押さえつけてニヤニヤと笑いながら、ユーリは少女に何かを言う。負けじと少女がユーリに噛みつくが、彼女はどこ吹く風で受け流した。


 一体何を喧嘩しているのだろう、言葉が聞こえてこない。



「フェイ、待たせたねェ」


「いいや全然」



 小さな少女を振り切って、ユーリは悠々とした足取りで戻ってくる。


 迷宮区ダンジョンの手続きが済めば、あとは迷宮区に必要なものを買いに行くだけだ。

 明日から連続で迷宮区踏破という前代未聞のことをやるのだから、準備だけは万全にしておかなければ。いくら身体の調子がよくたって、怪我をすれば意味がない。


 迷宮区案内所を立ち去ろうとしたフェイとユーリに、あの小さな少女――メイヴ・カーチスが叫んだ。



「貴様!! いつかその奴隷から恨まれるぞ!!」



 言葉の意味が分からない。


 何故フェイが、ご主人様のユーリを恨まなければならないのだろう。

 彼女はフェイに何も嫌なことをしない。全力で甘やかしてくれるし、これ以上にない優しいご主人様だ。


 不思議そうに首を傾げたフェイは、



「何で?」


「さあねェ」



 ユーリは関係ないとばかりに鼻を鳴らすと、



「アンタの成長を止めちまったからかねェ」


「ああ、何だそんなこと。別にこれ以上の身長はいらないよ」



 これ以上に成長してしまうと、さすがにユーリと会話するのがキツくなってくる。今でも二〇センチ以上の差があるのだから、もう身長は必要ない。


 ユーリはその答えを受けて「そうだねェ」とクスクス笑った。

 彼女が満足できる答えが出せてよかった。どのみち、フェイがユーリを恨むことなんてあり得ないのだから。



「行くよ、フェイ」


「うん」



 先を歩くユーリの背中を追いかけるフェイは、気になってメイヴへ視線を一度だけやってみた。


 彼女は忌々しげにこちらを睨みつけていたが、やがて視線を逸らした。

 何だかんだと人間の身であるフェイを心配してくれる少女だったが、別にそんな心配は必要ないのだ。フェイは望んでここにいる。


 例えそれが、ご主人様が望むままにフェイを人間の道から踏み外すような真似でも。



「マスター」


「何だい、フェイ」



 紅玉にも似た赤い瞳を向けてくる美しい主人を見つめ、フェイは言う。



「俺のことを捨てない?」


「捨てないよ」


「飽きたとか」


「飽きないねェ」


「じゃあ嫌いになる予定とか」


「そんな予定があるもんかい」


「よかった」



 確信したようにフェイは笑った。



「じゃあ俺、これからもずっとマスターと一緒だ」



 この選択に、後悔はない。

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