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外れスキル【鑑定眼】持ちの俺、美人な女探索者と組んで世界最強の弾丸に!?  作者: 山下愁
第4章:迷宮区【ディープブルー】

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第11話【強欲の願い】

 ――迷宮区ダンジョン【ディープブルー】踏破です。



 聞き覚えのある女性の声が頭上から降ってきたと思えば、次の瞬間、迷宮区の自動転送機構が発動される。


 深海の風景から変化し、水平線の見える砂浜に放り出された。

 迷宮区に潜り込んだ時はまだお昼前だったはずなのに、時刻はすでに夕刻へ差し掛かろうとしている頃合いだった。水平線の向こう側に太陽が沈み始め、空は夕焼けに染まっている。


 紅蓮の大空と茜色に染まる海の色合いは絶景とも呼べ、フェイは思わず「うおおお……」と感嘆の声を上げてしまった。



「凄えな、マスター」


「本当だねェ」



 この景色を見て、さすがのご主人様もしっかり綺麗と思える感性をお持ちのようだ。



「でも金には変えられないねェ」



 前言撤回。



「マスター、情緒」


「情緒もクソもあるモンかい」


「でもそういうのも大切だよ、マスター。綺麗でしょ夕焼け、思い出に残るよ」


「そういうロマンチストじゃないのさ、アタシは」



 自身のスキルを活用して水着からいつもの服装に着替えたユーリは、銀色の散弾銃をフェイに突きつける。


 主人の怒りを買ったか、とフェイはヒヤヒヤしたが、スキルを使って着替えさせてやるという意味合いだろう。

 大人しく両腕を上げれば、やはりフェイの服が水着から深緑色のつなぎに変わった。首からは頑丈なゴーグルが下がり、それがフェイの奴隷としての証である。


 銀色の散弾銃を装飾品がこれでもかとつけられた外套と内側にしまい込んだユーリは、



「帰るよ、フェイ。報告は明日にして、今日は外で飯を食いに行くかい」


「いつもの酒場にする?」


「今日は飲みたい気分さね」


「俺も今日は腹減ったなぁ。帰ってから飯を作る気力がないかも」


「だから言ったろうに」



 そんなやり取りをしながら、すでに崩壊した迷宮区ダンジョンなどに興味はないとばかりにフェイとユーリはその場から立ち去った。


 やはりあの迷宮区は崩れ去る運命だったようだ、人魚はなかなかいいお値段がするのでご主人様のスキルの貯蓄をするのに最適だったのだが残念である。

 だが結構スキルの貯蓄も捗った。これでしばらくスキルの貯蓄は安泰だろう。――いつなくなるか不明だが。



「マスター」


「何だい?」


「スキルの貯蓄さ、大切に使おうな」


「…………」



 ユーリはツイと視線を明後日の方角に投げると、



「そうだねェ」



 歯切れが悪そうに、そう答えた。



 ☆



 それから行きつけの酒場で飲んで食べて、酔っ払ったご主人様をフェイが連れて帰って、いつも通りにご主人様の枕になることを強要されて、奴隷の青年は今日一日に終止符を打った。


 月明かりが窓から差し込む狭い寝室に、青年の規則正しい寝息が落ちる。

 鍛えられた胸板に額を押し付けて眠っていたユーリはパチリと目を覚まし、それからそっと抱きついていたフェイの腕から抜け出した。一度眠ったら青年は簡単に起きないようで、ユーリが抜け出しても起きる気配はなかった。


 月明かりを受けて綺麗に輝く金髪に指を滑らせて、ユーリはフェイの頭を撫でてやる。



「…………」



 スキルの貯蓄は十分に出来た。


 それはもう、しばらく迷宮区ダンジョンで金を稼がないでも十分なほどだ。

 それまではフェイの【鑑定眼】のスキルがあれば片っ端から値段を算定させてお宝を吸い込んでいたが、おそらく貯蓄を気にしないでもよくなる。


 大切に使おうな、とフェイは言ったのに。



「…………悪いね、フェイ」



 心の底から申し訳なさそうに告げたユーリは、寝台の隅に丸めて投げられた外套コートを引っ張り寄せる。


 煌びやかな装飾品の数々が縫い付けられた外套の内側から、銀色の散弾銃を引き抜いた。

 継ぎ目がなく、部品を分解できない玩具のような見た目の散弾銃だ。ユーリの【強欲の罪(マモン)】によって生み出された、願いを叶える為の引き金。


 散弾銃を引き抜き、その銃口を眠るフェイに突きつける。



 ――いいのかい、本当に?



 頭の中で声が響いた。



「うるさいよ、マモン。アンタがアタシに説教でもするのかい」


 ――いいや、宿主よ。強欲はそれでこそ、だ。



 頭の中に響く声はクツクツと声を押し殺して笑う。


 この頭の中に響く声は、ユーリのスキルである【強欲の罪(マモン)】に眠る悪魔である。

 ユーリ・エストハイムは普通ではない。通常であればあり得ない特殊スキルを与えられ、もう何百年という長い年月を生きている。七つの大罪を冠するスキルは悪魔が宿り、宿主が支払う対価を徴収して自らの力を与えるのだ。


 ユーリのスキルには強欲の悪魔、マモンがいる。金銭を対価に支払えば、あらゆる願いを叶えてくれる便利な悪魔だ。目に見える対価があるのは嬉しい。



 ――だが本人は望むかい? お前と長きに渡って共にいることを。


「…………」



 それはそうだ。


 これからユーリがやろうとしていることは、彼の自由意志を奪うことに過ぎない。奴隷を解放して、可愛らしい娘と結婚して、子供を成して、家族を作って、孫に囲まれて穏やかに死ねる人生ではなくなってしまう。

 波乱万丈という文字が相応しいユーリの隣に、この先ずっと縛りつけられてしまうのだ。もしかしたら本気で嫌がるかもしれない、命を絶たれることもあり得る。


 それでも、ユーリは彼がずっと側にいてくれたらいいと願う。そうであってほしいと願う。



「マモン」


 ――何だい?


「アタシはね、フェイが好きなのさ」



 愛しているんだよ。


 奴隷として売られていた彼を見た時、ユーリは彼を絶対に買うと決めたのだ。この世に【鑑定眼】持ちの奴隷など腐るほどいるだろうが、ユーリは絶対に彼以外にあり得ないと思ったのだ。

 薄汚れた金髪に、薄暗く汚い世界でも負けない色鮮やかな青い瞳。彼が【鑑定眼】のスキルを与えられて奴隷に身を落としたのは、まさにユーリと出会う為に誰かが仕組んだことだと考えたぐらいだ。


 彼が子供の頃から、出会った頃からユーリに必要なのはフェイ・ラングウェイという少年だけだ。それ以外に何もいらない。



 ――なるほど、なるほど。



 頭の中で、笑う声。



 ――恋は盲目とは良く言うが、愛は他人を強欲にさせるのか。勉強になる。


「おちょくるなら黙ってな」


 ――いいや、馬鹿にはしないさ。お前の願いを叶えよう。



 強欲の悪魔がニヤリと笑ったような気がした。



 ――さあ、願いの対価を寄越せ。それでお前の望みは全て叶う。あるのだろう? その中には、幾千幾万の財宝が。



 強欲の悪魔が示したのは、ユーリの持つ銀色の散弾銃だ。


 この中には迷宮区ダンジョンで稼いだ金銭が貯まっている。

 フェイに「大切に使おうな」と言われたものを、私欲に消費しようとしている。最愛の子との約束を破る罪悪感はあれど、彼を誰にも取られたくない。


 愛しているのだ、フェイを。

 一億という大金を支払って、悪魔に願うほどには。



「《幾千幾万の財宝を捧げ、強欲の悪魔に希う》」



 どうか、どうか。



「《私の願いを叶えて》」



 お願いします。



「一億ディール装填」



 対価は支払うから、どうか。



「《貴方と、私が死ぬまでずっと一緒に入れますように》」



 ガチン、という引き金を引く音が静かな寝室に落ちた。


 これで願いは叶えられた。

 この先ずっと、フェイはユーリの隣で生きるのだ。自分が死ぬ時が、彼の死ぬ時だ。



「マモン」


 ――お前の望みは『自分が死ぬまで奴隷の青年が側で生きること』だろう。そのように願いを整えよう。



 頭の中に響く強欲の悪魔の声は、



 ――ではな、宿主よ。最愛の奴隷とお幸せに。



 そう告げてから、悪魔の声は聞こえなくなった。


 ユーリは銀色の散弾銃を放り出して、寝台に身を横たえる。

 やってしまった、という後悔は少しある。それでも、ユーリは一億という大金を捧げて叶えてもらった願いを無駄にはしない。



「ん……ますた……?」



 すると、フェイがモゾモゾと身じろぎをした。ぼんやりと青い瞳を開いた彼は、



「どしたの……?」


「何でもないさね」



 フェイの頬を撫でたユーリは、



「夢見が悪かっただけだよ」


「そっか……」



 そう言うと、フェイは両腕を広げて「はい」と応じる。



「おいで、ますた……だっこしたげる……」


「……アンタはアタシを甘やかすのが好きだねェ」



 広げた両腕の間に収まり、ユーリはフェイに抱きついた。


 ああ、これだから彼のことは手放せそうにない。

 自分が死ぬまでずっと一緒にいると身勝手なことを願ったが、それで良かったのだ。彼が望んでいても、望まなくても。


 フェイに抱きついて、強欲の罪を背負うユーリは眠りにつく。



「おやすみ……ますた……」


「おやすみ、フェイ」



 明日もまた、彼と迷宮区ダンジョン探索だ。

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