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外れスキル【鑑定眼】持ちの俺、美人な女探索者と組んで世界最強の弾丸に!?  作者: 山下愁
第4章:迷宮区【ディープブルー】

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第10話【幾千幾万の財宝を糧に】

「はあー、美味しかったわあ」



 青色の髪に真珠を散りばめ、深海色の瞳は星屑が撒かれたようにキラキラと輝く。愛らしい顔立ちには満足げな表情を浮かべ、彼女の頭頂部には貝殻で作られた王冠が乗せられている。

 おそらく、彼女が迷宮主なのだろう。人魚の世界の迷宮区ダンジョンは、やはり人魚で終わるのか。


 遠巻きに満足げな表情で腹を撫でる人魚を観察するフェイとユーリは、



「あれって迷宮主だよな?」


「多分だけどねェ」


「何で普通に自分の臣下を食っちゃってんの?」


「腹が減っていたんじゃないのかい?」



 ご主人様のユーリも適当なことを言う始末である。いいのか、そんなことで。



「それで、貴女たちは探索者シーカーの方かしらぁ?」



 深海色の双眸を遠巻きに眺めるフェイとユーリに向けて、人魚の女王は首を傾げた。戦うつもりのなさそうな、穏やかな印象のある人魚である。


 本当に迷宮主なのか、と疑問に思えてきてしまうほどだ。

 だがまあ、先程は自分自身の臣下であるはずのクラーケンを食べてしまったので、おそらく共食いも許容する系の迷宮主なのだろう。海の世界って怖い。


 フェイは密かに頑丈なゴーグルを装着し、人魚の女王につけられた値段を算定する。



「…………?」



 夢かな、と思えるような金額だった。


 クラーケンよりも何倍も、いや下手すれば何千倍も高い金額である。千倍で通じる値段だろうか、とにかく目玉が飛び出るほどの高額だったのだ。

 これはアレである。ご主人様の【強欲の罪(マモン)】も満足して今後一切の文句を言わなくなるほどである。やはり人魚は高いし、その女王陛下もとんでもない高額だった。


 値段を算定してぶっ倒れそうになったフェイは、何とか堪えてご主人様のユーリにその値段を告げる。



「マスター」


「何だい、フェイ」


「あの人魚、いくらだと思う?」


「さてねェ、とんでもなく高額だったのかい?」



 ユーリが期待するような視線を投げてくる。



「聞いて驚くなよ、一億二〇四八万ディール」


「…………」



 とうとう何も言わなくなってしまった。


 先程の人魚の二倍のお値段である。一匹で二度美味しい的な感じだろうか。

 とにかく一億という金額はもうフェイでも想像がつかない。どうやったらそんな金額が使い切れるのだろうかと思えるぐらいだ。


 ユーリは銀色の散弾銃を取り出すと、



「フェイ」


「何、マスター」


「あの人魚をいただくよ」


「言われなくても」



 もちろんそのつもりだ、フェイたちは金目のものがなければまともに戦えないのだから。


 すると、自分自身の身の危険を察知したらしい人魚の女王が「あらぁ?」と首を傾げる。

 彼女の動きに合わせて真珠が散らされた綺麗な青い髪が広がる。錆びた玉座に腰掛ける姿は女王様と呼べるだろうが、威厳がなさそうだ。あれではお飾りの女王様に見える。



「どうしたのかしらぁ?」


「アンタの身柄をいただくって言ったのさ」



 ユーリは銀色の散弾銃を人魚の女王に向け、



「さあ、アタシの願いの糧になりな」


「それは困るわぁ」



 人魚の女王は心底困ったような表情を浮かべ、



「じゃあ歌っちゃいましょうかねぇ」


「は?」



 突拍子のない発言に、フェイは呆気に取られた。


 ユーリの脅しがまるで通用せず、人魚の女王は「歌う」と言ったのだ。理由が全く分からん。

 何故そんなことをしなければならないのか。人魚とは意外と自由奔放なのかもしれない。こんな無法地帯の海の中にいれば余計に。


 緩やかな動作で錆びた玉座から立ち上がった人魚の女王は、優雅に広々とした薄暗い空間を泳ぐ。そう言えば、ここは貝殻の塔の最深部だ。逃げ場は螺旋階段ぐらいしかない。



「それでは聞いてくださいな」



 妖艶な微笑みを見せると、彼女はその歌声を響かせた。



 ――――――――♪



 その歌声はとても澄んでいて、美しい以外の褒め言葉が見つからなかった。


 この場に他の探索者シーカーがいれば、即座に彼女の歌声に魅了されていたことだろう。

 ただし、この場にいるのは最強の探索者とその奴隷である。何らかの対策はしっかりとしてあるし、何なら人魚の歌など通用しないのだ。淫魔の魅了体質が通用しない時点で色々とお察しである。


 フェイは両耳を塞ぐと、



「何これ、うるさい……!!」


「人魚の女王だからねェ、魅了の成分も桁違いって訳かい。全く面倒なことだよ」



 同じく耳を塞ぎながら呆れた口調で言うユーリは、



「こっちは満足するまで付き合うつもりはないよ」



 銀色の散弾銃に祈りを捧げるように、赤い瞳を閉じた。


 耳を塞がなければ頭が痛くて仕方がないフェイと違い、ユーリは耳を塞がずとも両足でしっかりと立っていた。

 自らのスキルから生み出された銀色の散弾銃に祈りを捧げる様は、教会で神様に誓いを立てる修道女のように神聖な雰囲気がある。何をするのかとフェイはご主人様を見上げていた。


 静かに息を吐き出したご主人様は、ゆっくりと言葉を紡ぐ。



「《幾千幾万の財宝を捧げ、強欲の悪魔に希う》」



 その言葉は聞き覚えのないものだった。


 古代語だろうか、一〇〇年前に滅んだとされる言語である。

 その言葉がご主人様であるユーリの口から滑らかに紡がれているのだ。



「《どうか私の願いを叶えて》」



 祈りを捧げた銀色の散弾銃を、歌い続ける人魚の女王に突きつけるユーリ。



「一億ディール装填」



 豪勢に飛び切りの値段を対価に捧げると、彼女は願いを告げながら引き金を引いた。



「《今ここで、あの人魚が綺麗に死にますように》」



 ガチン、と引き金を引く。


 一億という金額を捧げられたことで、ユーリのスキル【強欲の罪(マモン)】も文句はなかったのだろう。すぐにその願いは聞き届けられる。

 つまりは、あの人魚の死だ。



「ぁ、かッ……」



 苦しそうに胸元を押さえて、人魚の女王は呻く。



「な、やだッ……まだ死にたッ……」



 細々とした声で苦しみ、苦しみ、苦しみ抜いてから人魚の女王はようやく静かになった。


 仰向けでぷかーと水の中を漂う姿は、何らかの原因で死んだ魚のように見える。魚類は全員揃ってあんな死に方になるのだろうか。

 まあ、あれだけの高額の対価を支払ったのだ。その言葉通りに傷一つないに違いない。改めて価格の算定をすれば、先程よりも金額がグーンと上昇していた。


 一億から二億の大台に上ろうとしたところで、ユーリが銀色の散弾銃で死んだ人魚を回収する。



「おや、結構な値段じゃないかい」



 ユーリは回収された金額に満足したのか、ホクホク顔で言う。


 人魚の女王がいなくなったことで頭痛の原因がなくなったフェイは、ゴーグルを外して耳を塞いでいた手を下ろす。

 これで人魚は全部回収したか。それなりのお値段になったはずだ。


 フェイは「マスター」と呼ぶと、



「さっきの奴、一体何だ?」


「さっきのって何だい?」


「ほら、古代語を喋ってただろ」


「ああ」



 フェイの言葉に理解を示したユーリは、



「【強欲の罪(マモン)】は一億が限度なんさね。いくら金銭を捧げてもいいって訳じゃないのさ」


「そうなんだ」


「貯め込むのは平気なんだけどねェ。願いを叶える時は一億ディール以上は積めないのさ」



 銀色の散弾銃で肩を叩くユーリは、



「ただし、一億を積めばどんな願いでも叶えてくれるのさ」


「どんな願いでも?」


「そうさね。不老不死でも、何でもねェ」



 ユーリは「今回はかなり稼げたから、あと三回ぐらいは出せるかもねェ」と呟く。


 まさかの上限付きだとは思わなかった。

 金銭を対価に捧げればどんな願いでも叶えてくれる【強欲の罪(マモン)】だからこそ、高額になればなるほど願いの規模が大きく広がっていくのかと思っていたのだ。一億が最高限度なのか。


 初めて聞いたご主人様のスキルの仕組みに「ほへぇ」と間抜けな声を漏らしたフェイの耳に、聞き覚えのある女性の声がした。



 ――迷宮区ダンジョン【ディープブルー】踏破です。

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