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外れスキル【鑑定眼】持ちの俺、美人な女探索者と組んで世界最強の弾丸に!?  作者: 山下愁
第4章:迷宮区【ディープブルー】

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第6話【海の世界】

「フェイ、海だよ」


「海だなぁ」



 目の前に広がる壮大な光景を前に、フェイとユーリは立ち尽くしていた。


 水平線が見えるほど広大な青い海と晴れ渡った青空、白い雲がポコポコと浮かんで味気のない青空を飾る。

 耳に触れるザザ、ザザという波の音が心地いい。白い砂浜も裸足に張り付かない程度にサラサラで、小さな蟹が砂浜を我が物顔で闊歩していた。


 ルーヴェル海という場所である。迷宮区ダンジョンが作られる前は人気の観光スポットだったが、迷宮区が作られてからはめっきり人が減ってしまったらしい。

 確かにこれだけ穏やかな波なら、子供が浅瀬で遊んでいても問題はないだろう。この青い海をご主人様と二人だけ、というのも浪漫はあるが。



「さて、着替えるよ」


「あ、じゃあ俺は向こうの茂みで」


「馬鹿だねェ、アンタは。何の為のスキルがあるのさ」



 水着を入れた鞄を抱えるフェイに、ユーリが呆れたように言う。


 フェイのスキルは【鑑定眼】であり、指定された物品の価値を算定する程度の能力しか持たない。物の性質を鑑定するまではまだ至っておらず、それはあと数年もすればスキルが成長して支えるようになるが。

 当然ながら、この【鑑定眼】に早着替えできるような能力はない。ご主人様が指定した物品の価値を算定するだけの外れスキルに早着替えを期待されても困る。


 ユーリは「何を考えてるんだい」とジト目でフェイを睨みつけ、



「アタシのスキルに決まってるだろう?」


「え、でも金がかかるんじゃ」


「こういう時に使わないでいつ使うんさね。いいから水着を広げで持ちな」



 銀色の散弾銃を肩からかけた外套コートの下から引っ張り出したユーリは、水着を広げて持つフェイに銃口を向ける。



「七〇〇〇ディール装填。《水着に着替えさせろ》」



 カチンと引き金を引けば、金銭を消費してユーリの願いが聞き届けられる。


 フェイの着ていた深緑色のつなぎや下着が一瞬にして脱げ、また一瞬で水着に早変わりした。脱げた本来の服は、丁寧に畳まれた状態でフェイの腕の中に収まる。

 本当に一瞬だった。脱がされた感覚すらもない早着替えだった。さすがにフェイも慌てざるを得なかった。



「ええ!? 脱げて着替えた!?」


「万能だねェ、このスキルは」



 ユーリも自分の水着を広げると、同じように金銭を消費して水着に着替えた。


 通常でも水着のような格好であることは変わらないが、青い布地に包まれた豊かな双丘や腰布から覗く魅惑の生足が心臓に悪い。この場に誰もいなくてよかった、と心底思った。

 豊満な胸元を見せつけるように背筋を反らして伸びをするユーリは、水着の状態から装飾品がこれでもかとつけられた外套コートを肩から羽織る。



「フェイ、服は自分の鞄の中に入れな」


「あいよ」



 フェイは自分の鞄の中に着ていた服を詰め込んだ。


 この鞄は防水仕様となっており、迷宮区ダンジョンに行く際には必ずと言っていいほど持っていくものだ。頑丈で容量もかなりあり、探索者は重宝している鞄である。

 服を詰め込んで蓋をしっかり閉じれば、中身は絶対に濡れることはない。何かを取り出す時は安全地帯で取り出すことを教え込まれているので、きっとこの迷宮区【ディープブルー】にも安全地帯はあるだろう。


 ついでにユーリの服も鞄の中に詰め込んでから、フェイはすでに海へ片足を突っ込んでいるご主人様の背中を追いかけた。



「じゃあ行くよ。覚悟しな」


「うん」



 鞄から取り出した小瓶の中を転がる淡い白色の真珠――『人魚の涙』を二人揃って口に放り込み、ルーヴェル海へ飛び込んだ。


 それまで心地いい波だったのだが、飛び込んできた二人の探索者シーカーの気配を察知した海側が大きな波を寄越してくる。

 海から飲み放り出されるのかと思えば、まさかの逆だった。海の中に引っ張り込まれようとされている。



「お、溺れッ!?」


「馬鹿だねェ、フェイ。ちゃんと『人魚の涙』を舐めているんだから、吐き出さない限りは溺れるなんてあり得ないよ」


「あ、そっか」



 波に引き摺り込まれても冷静なユーリに注意され、フェイもいくらか落ち着きを取り戻す。


 よく考えれば海の中にいながら呼吸が出来るのだから、溺れる心配は何もないのだ。何の為の高い買い物をしたのだろう。

 波によって海の中に引っ張り込まれたフェイは、改めてぐるりと周囲を見渡す。肌を包み込むのは水特有の冷たさと驚くほどの静けさ、そしてすぐ側を極彩色の魚が何食わぬ顔で通り過ぎていく。


 ルーヴェル海の中はこうなっているのか、と錯覚するほど幻想的な海の世界が広がっていた。



「おおお……」


「これは凄いねェ」



 同じく海の中に引っ張り込まれたユーリは、青い世界に銀色の長い髪をなびかせながら周辺を興味深そうに見回している。


 魚が群れとなって泳ぎ、足元には珊瑚礁がどこまでも広がっている。大きなくじららしき生物が頭上を悠々と泳いだ時は、フェイもあまりの雄大さに息を呑んだ。

 様々な迷宮区ダンジョンを巡ってきたが、これほど雄大で美しい迷宮区は初めてだった。それはご主人様も同じのようで、色とりどりの魚の群れを眺めては「綺麗だねェ」と感慨深げに呟く。


 ――銀色の散弾銃を取り出すまでは、ご主人様にも物を綺麗だと思う心があったのかと感心したけど。



「フェイ」


「あい」


「魚を片っ端から鑑定しな」


「ウィッス」



 それでこそご主人様である。


 雄大な海の世界を泳ぐ魚を眺めながら、フェイは首からかけたゴーグルを装着する。

 泳ぐ魚の価値を片っ端から鑑定していき、ご主人様のスキルの貯蓄をしていくのだった。魚には残念だが、願いの礎になってもらおう。


 ちなみにこれらの魚は、意外といいお値段がした。やはり珍しくて綺麗だから、相場の値段も高いのだろうか。



 ☆



「いい値段がしたねェ」



 ユーリはホクホク顔で銀色の散弾銃を揺らす。


 あれから大量の魚を貯蓄し、スキル発動も安全に出来るようになった。これならこの壮大な海の世界でも戦えそうだ。

 まあ極彩色の魚なので食用に出来そうもなく、価値があるのであればスキル発動の貯蓄に回した方がいいだろう。気分的に紫色の魚とか食べたくない。


 フェイは「よかったね」と言いながら、



「これで人魚とかいたらよかったのにね」


「人魚は高い値段がつきそうだねェ、いそうな予感はあるけれど」



 海を舞台にした迷宮区ダンジョンなのだ、人魚ぐらいならいそうな予感はある。


 人魚は迷宮区でたびたび目撃される魔物であり、美しい歌声で異性を魅了すると言われている種族だ。下半身は魚、上半身は美しい人間の姿をしており、彼らの肉や髪の毛や涙などは高値で取引される。

 フェイとユーリが舐めている『人魚の涙』も、常設された迷宮区から取れたものだ。この迷宮区は果たして迷宮主を倒した瞬間に崩れ去る迷宮区なのか、それとも常設されるのか。


 その時だ。



「クスクス」



 ふわり、とフェイのすぐ横を何か大きな魚が通り過ぎた。



「素敵な男性ね、気に入ったわ」



 悠々と水の中を泳ぐのは魚ではなく、下半身が魚の鰭となった女性だった。人魚である。

 見事な金色の髪をなびかせて、真珠の首輪をつけている。豊満な胸元は巨大な貝殻で守られて、キュッと括れた腰つきや白い腹などを大胆に晒している。


 フェイを見つめる緑色の双眸は引き込まれそうな魅力を感じるが、何故かフェイには気味の悪いものに見えた。本当に何故だろう。



「ねえ、そこの男の人」



 華奢な腕を伸ばしてくる人魚の女性は、優艶ゆうえんに微笑みながら誘ってくる。



「わたしと一緒に来てくれるかしら?」


「え、あの」


「ウチの奴隷を魅了してんじゃないよ、この雑魚がァ!!」



 奴隷に甘いご主人様による鉄拳制裁がなされ、人魚は鼻血を流しながら気絶した。どれほど強い力で殴ったのだろう。


 鼻血を海の中に漂わせながらぷかぷかと浮かぶ人魚の尾鰭をむんずと掴んだユーリは、気絶する女性のこめかみにグリグリと銀色の散弾銃を突きつける。

 もう目がマジだ、色々と。このままでは純粋に「死ね」と命じられるだろう。



「マスター、待って」


「何だいフェイ、コイツを庇おうってのかい?」


「人魚の町とかあるかもよ?」



 ピタリと止まるユーリ。それから少し考えてから、銀色の散弾銃をしまった。


 人魚がいるのだから、きっと人魚の町もあるはずだ。

 そこにいけば、おそらく大量にスキルの貯蓄が出来るかもしれない。


 そんな淡い期待を抱くフェイは、人魚の女性が気絶から回復するのを待つことにした。

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