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外れスキル【鑑定眼】持ちの俺、美人な女探索者と組んで世界最強の弾丸に!?  作者: 山下愁
第4章:迷宮区【ディープブルー】

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第2話【水着】

 今回の迷宮区ダンジョン【ディープブルー】で必要なことが出てきた。



「マスター」


「何だい」


「ここの迷宮区ダンジョン、水着が必須って書いてあるよ」



 迷宮区ダンジョン案内所からの情報を確認すると、確かに水着が必須であることが書かれていた。


 水着が必須ということは、おそらく全身が濡れることを前提としているのだろう。以前潜った【フォレストヴァンシー】が虫除け必須なように、今回の迷宮区も何かしら必要になってくるのだ。

 残念ながらフェイは水着を持っていないので、購入する必要がある。ご主人様のユーリが「購入は金の無駄だから止めな」と言えば、仕方がないので着替えを何枚か用意するだけにしようと考える。


 ユーリは紅玉ルビーにも似た赤い双眸を瞬かせると、



「ふぅん」


「どうする?」


「買うしかないねェ」



 即答だった、しかも購入を認めている様子だった。



「アタシはともかく、フェイは水着を持っていないだろう? 今後もそんな内容の迷宮区ダンジョンが出てきてもおかしくないからねェ、買っといて損はないよ」


「分かった、マスターが言うならそうするよ」


「ついでにアタシも何か買うかい」


「マスターの水着も?」



 そう言って、フェイは思わずユーリの水着姿を想像してしまう。


 ぶっちゃけた話、ご主人様のユーリは常日頃から水着姿みたいなものなのであまり変わらないような気がする。

 いやでもご主人様は飛び抜けて美人なので、何を着ても似合うのかもしれない。ただしあまり露出の多い水着は控えてほしいところだ。紐みたいな水着だったら目のやり場に困ってしまうし、戦闘で怪我をする可能性が一気に高まってしまう。


 そんな脳内のやり取りが僅か一〇秒足らずでなされ、フェイは水着購入に乗り気なご主人様に懇願する。



「マスター、頼むから紐みたいな奴とか止めろよ……」


「何言ってんだい、そんなの着たら怪我をしちまうだろう」


「普段から露出多めな人が何言ってんだ」



 平常時でも水着みたいな格好をしているご主人様である。本日も同じような格好で、豊かな胸元や括れた腰、縦長のへそなど布面積よりも肌の面積の方がやたら広い。

 フェイもこれで慣れてしまったが、最初の頃は目のやり場に困ったものだ。慣れって怖い。


 ユーリは不思議そうに首を傾げると、



「動きやすさを重視した結果さ。胴衣ビスチェだと苦しくてねェ」


「……まあ、確かにそうだな。腰とかお腹とか締め付けるしな」


「現役で探索者シーカーを続ける以上、服装は動きやすさを重視した方がいいのさ」


襯衣シャツとかでいいんじゃないの?」


「それだと暑苦しいだろう? アタシはこれでいいのさ」



 水着のような格好が探索者シーカーとしていいのならば、フェイも露出を増やすべきなのだろうか。どこぞの探索者を真似て、上半身裸でベルトでも巻いた方が効率がいいのか。

 深緑色のつなぎの襟首を指先で摘んだり引っ張ったりしながら、フェイは自分の服装について思考を巡らせる。ご主人様の言う通りにするのが一番だろうか。


 水着の他に必要なものを指を折りながら数えるユーリに、フェイは問いかける。



「マスター」


「何だい?」


「俺も脱いだ方がいいかな?」


「はあ?」



 ユーリが弾かれたようにフェイへ振り返り、



「どういう意味だい」


「いや、マスターが露出の多い服を動きやすいって言うなら、俺も上半身ぐらいは脱いだ方がいいのかなって」


「馬鹿なことは止めな」



 意外と厳しい口調で意見を一蹴される。



「アンタはそれが一番動きやすいんだろう? だったら脱ぐ必要なんてないさね」


「でも」


「アタシの言うことが聞けないのかい?」


「分かった、マスターに従うよ」



 ギロリとご主人様に睨みつけられ、フェイは完全服従を示すように両手をそっと挙げたのだった。降参である。ご主人様と揉めたくない。



「……アンタは意外と鍛えられてるんだから、上半身だけでも脱いだら他のアバズレに目をつけられるだろうに……知ってるのはアタシだけでいいんだよ……」


「?」



 何やらご主人様が拗ねた様子でブツブツと呟いていたが、フェイには何も聞こえなかった。



 ☆



 そんな訳で水着購入である。


 服屋ではあまり種類がないので、やはりここは専門店を訪れようということになった。

 店先に椰子やしの木の模型が飾られて、早くも南国の雰囲気が漂う。夏でもないのに何故か熱気を感じる店だ。ここは一種の迷宮区ダンジョンだろうか?



「フェイ、これはどうだい?」


「何でマスターが奴隷の水着を選んでるんですかね?」


「アタシが選びたいからさ」


「さいですか」



 何着か吊るしてある男性用の水着を手に取り、ユーリがやたら楽しそうに見せてくる。もちろん、それを着るのはフェイだ。


 水着なら最初に自分のものを選べばいいのに、とフェイは思う。

 このご主人様、やたらと奴隷のフェイを優先するのだ。何かもうフェイに甘いというか、可愛がっているというか、そんな感じで。


 青色の水着と緑色に草っぽい模様の水着を手に取って、ユーリは「どっちがいい?」と聞いてくる。



「マスターが好きな方を決めればいいよ」


「つまらないねェ。アンタは何色が好きかい?」


「何色……」



 チラ、とフェイは水着が売られている商品棚を見やる。


 目についたのは赤い水着だ。

 沈む夕焼けを描いたものらしく、赤や橙色などを使ったものとなっている。この赤色は、ご主人様であるユーリの瞳に似ていた。



「赤色かな」


「赤色? 珍しいねェ、フェイ。何でだい」


「何となく」



 ユーリは「ふうん」と言うと、



「じゃあ、そこの水着を試着してきな。大きさとかの話もあるしねェ」


「うん、分かった」



 商品棚から先程見ていた赤色の水着を手に取ると、フェイは試着室に足を踏み入れる。


 布の仕切りがあるだけの、狭い個室だ。壁には鏡が一枚だけかけられ、それがフェイの全身を映している。

 試着なのでまあ気軽にやればいいだろう。試着室の壁には『水着は下着の上から試着をお願いします』とあったので、その通りにするべきか。


 深緑色のつなぎを脱ぎ、下着姿になったフェイは、持ってきていた赤色の水着を穿く。なかなかいい感じである。自分的にも気に入った。



「マスター、どうよこれ」



 布の仕切りを取っ払い、水着を試着した状態でフェイは試着室の前で待機していたご主人様のユーリに見せる。


 試着室から姿を見せたフェイに瞳を零れ落ちんばかりに見開くユーリは、何故か布の仕切りを閉じてきた。

 一瞬で見えなくなるご主人様の姿。布の仕切りを取り払おうとするが、向こう側から押さえつけられている。



「何すんだよ、マスター!!」


「さっさと着替えな」


「似合ってなかった!?」


「いいからさっさと着替えな。それを買うから」


「?」



 何か知らんがご主人様の地雷に触れたらしい。本当に心当たりがない。


 仕方がないのでフェイは深緑色のつなぎに着替えて、試着室を出る。

 入れ替わるようにしてユーリが一着の水着を抱えて試着室に飛び込んだ。本当に一瞬のことだったので、思わず見逃してしまった。


 シャッと背後で閉ざされる布の仕切り。その向こうにいるご主人様に「マスター?」と呼びかけると、



「アタシも試着するのさ。大人しく待ってな」


「うん」



 ご主人様もいい水着を見つけたようだ。購入は順調に進みそうである。


 布越しに衣擦れの音を聞きながら、フェイはユーリの着替え終わる時を待っていた。

 しばらくして、シャッと布の仕切りが取り払われる。透き通るような銀髪をなびかせ、試着状態の水着を見せつけるユーリは「どうだい?」と聞く。



「なかなかいいんじゃないかい?」


「…………」



 ユーリの身につける水着は、海を思わせる青色だった。

 普段と変わらない形の水着なのに、布地を押し上げる豊かな双丘はいつもより強調されているような気がするし、お洒落な腰布パレオを巻いてスラリと長い足が垣間見える。店内の男性客の視線を独り占めだ。


 ふふん、と惜しげもなく抜群のプロポーションを披露するご主人様を試着室に押し込め、フェイはシャッと布の仕切りを閉じた。



「何するんだい、フェイ!!」


「早く着替えて」


「何でだい、理由を言いな!!」


「他の奴らに見せたら、何か色々と減るような気がする」


「はあ!?」



 しばらくご主人様は布の向こう側でぷりぷりと怒っていたが、意地でもフェイは布の仕切りを開けなかった。


 だって似合いすぎていたのだ。

 鼻の下を伸ばした男性客どもに、綺麗なご主人様を見せる訳にはいかないのである。


 フェイはユーリが着替え終わるまで布の仕切りを絶対に開けなかった。何が何でも絶対に。

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