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外れスキル【鑑定眼】持ちの俺、美人な女探索者と組んで世界最強の弾丸に!?  作者: 山下愁
第3章:迷宮区【フォレストヴァンシー】

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第10話【蟲の王】

 ギョロリとした複眼、繭玉から突き出る太い脚。

 口元から覗く牙から粘性の高い液体が垂れ落ちて、足元の土を容赦なく溶かす。


 巨大な繭から孵化したのは、巨大な蜘蛛だった。


 蟷螂かまきりや蝶々が可愛く思えてくる。

 いや、台所周りに出てくる害虫よりも遥かにマシかもしれない。この大きさの蟷螂や蝶々でも悲鳴を上げずにはいられないが、おそらく害虫だったら悲鳴どころか気絶しているかもしれない。



「ぎゃああああああああああああああッ!?!!」



 フェイの口から悲鳴が迸ると同時に、ユーリが銀色の散弾銃を蜘蛛に突きつける。



「三万ディール装填」



 金銭を対価に捧げて、スキル【強欲の罪(マモン)】を発動。



「《脚よ、弾け飛べ》!!」



 ガチン、と引き金を引く。


 スキルは遺憾なく発動され、ユーリが告げた願い通りに巨大な蜘蛛の脚が弾け飛ぶ。

 ぶちんと音を立てて転がる太い脚。体勢を崩して倒れ込む巨大な蜘蛛。


 ――複眼が恨めしげにフェイを睨みつけ、また恐怖と嫌悪感がジワジワと這い上がってくる。



「逃げるよ、フェイ!!」


「はいぃ!!」



 ご主人様のユーリに命令され、フェイはハーレ・ルゥを閉じ込める鳥籠を抱えて霧の中を走り出す。


 さすがにいくつもの迷宮区ダンジョンを踏破してきたからか、フェイの足は風のように速い。それよりも迷宮区踏破を趣味とするご主人様のユーリの方が早いのだが、彼女についていけるフェイもなかなか凄いことである。

 同じくSSS級探索者(シーカー)であるドラゴも「待ってー、ユーリさーん」と追いつくのに必死だ。置いていったら二度と合流できないような気がする。


 いいや、それよりもあの巨大蜘蛛だ。



「あれが次の迷宮主!?」


「そうだねェ。多分だけどねェ」



 巨大な蜘蛛と対峙した恐怖と嫌悪感で泣くフェイとは対照的に、ユーリはケロッとしたものだった。相手が虫だろうと、ここが迷宮区ダンジョンなら怖いものはないのだろうか。


 遥か彼方に新たな迷宮主となった巨大蜘蛛を置いてきたフェイとユーリ、ドラゴの三人だが、唐突に足を止めることになる。

 理由は簡単だ。巨大な虫の群れが、いつのまにか三人を取り囲んでいたのだ。昆虫特有の足を蠢かせ、複眼で高みからフェイとユーリ、ドラゴを見下ろしている。


 色々とまずい、本当に。悲鳴というか、このままもう気絶してしまいたい衝動に駆られる。



「ま、ままま、マスター……?」


「厄介だねェ」



 銀色の散弾銃を握りしめて、ユーリは虫の群れを睨みつける。



「一匹ずつ丁寧に相手をしていたら金銭がいくらあっても足りないよ。フェイ、鑑定しな」


「ええ……」



 鑑定しろと言われればもちろんするのだが、今はそんな余裕がちょっとない。さすがに数え切れないほど虫に囲まれていればいつもの余裕なんてなくなる。


 すると、同じように虫を眺めていたドラゴが「仕方ないね!!」と言った。

 彼女は何を思ったのか、ユーリを押し退けて前に進み出る。虫たちがドラゴの出方に警戒して、キリキリシャーシャーと威嚇するように鳴き声を上げる。



「ここはあたしが何とかするよ!! 今まで一個も活躍がないからね!!」


「ど、ドラゴさんのスキルは一体?」


「ああ、なるほど」



 この場でドラゴのスキルを知っているのは、元仕事仲間であるユーリだけだ。

 彼女は納得したようにポンと手を叩き、それが最善だとばかりにドラゴへ前線を譲る。虫を金にしようとしていたご主人様が珍しい行動をするものだ。


 フェイはコソコソとユーリに耳打ちし、



「マスター、ドラゴさんのスキルは?」


「【憤怒の罪(サタン)】って名前のスキルさ。こういう状況に一番最適なのさ」



 ユーリは顎でドラゴを示す。


 視線をやれば、彼女の手には特殊な形の赤い銃火器が握られていた。

 拳は丸ごと入りそうなほど大きな銃口、継ぎ目のない玩具のような銃身。ずっしりとした銃火器を手にしたドラゴは、そのやたら大きな銃口を虫たちに突きつける。


 金色の双眸で虫たちを睨みつけた彼女は、吐き捨てるように言った。



「――この雑魚がァ。あたしの前に立ち塞がってんじゃねえぞォ!!」



 それから彼女は、赤い銃火器の引き金を引く。


 ドゴン、という腹の底に響くような銃声が鼓膜を震わせた。

 弾丸が射出されたような銃声だったが、虫たちが傷つく気配はない。フェイたちを取り囲む虫どもはケロッとした様子だ。


 しかし次の瞬間、変化があった。



「きしゅああああああああああ!!」


「しゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃ!!」


「ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」



 巨大な蟷螂かまきりが隣にいた巨大な蜂に食らいつき、巨大な蝶々が巨大な蛾に喧嘩を売る。フェイたちを睨みつけていた虫たちが、あの銃声を合図に仲間割れを始めたのだ。


 一匹、また一匹と虫たちは自滅していく。

 この不思議な現象は何だろうか? 洗脳されたとしか思えない虫たちの行動に、フェイは混乱した。


 唯一、ご主人様のユーリだけがこの惨憺たる状況を眺めて笑っていた。



「相変わらずだねェ、ドラゴのスキルは」


「ま、マスター……? 俺、あんまりこの状況についてけないんだけど」


「ああ、アンタは知らないね。ドラゴのスキルは【憤怒の罪(サタン)】――撃った相手の怒りを煽って仲間割れを引き起こさせるのさ」



 簡単なご主人様の説明で、フェイは納得できた。


 つまりこの虫たちは、ドラゴのスキルである【憤怒の罪(サタン)】によって仲間割れを引き起こさせられたのだ。確かに、大多数の敵に囲まれた時は最適な切り抜け方である。

 ぶちぶち、ぶちぶちと一心不乱に仲間同士を傷つけ合う虫たちにいい印象はないが、まあ何の罪もないけど互いに潰し合ってくれて助かる。


 と、ここで疑問だ。


 ユーリのスキル【強欲の罪(マモン)】やアルア・エジンバラ・ドーラのスキル【怠惰の罪(ベルフェゴール)】には何かを代償に捧げて目的を達成するという意味合いがある。

 ご主人様は金銭や価値のある物、アルアは眠たいという睡眠欲を捧げる必要があるのだ。ドラゴも【憤怒の罪(サタン)】という特殊なスキルを持っているのならば、一体何を対価に捧げたのだろうか。



「アンタ、ドラゴは何を犠牲にしてスキルを発動させたんだろうって思ってるね?」


「やっぱり分かる?」


「分かるに決まってるさね。アンタは分かりやすいんだよ」



 ユーリは声を押し殺して笑うと、



「ドラゴはねェ、苛立ちや自分自身の怒りを犠牲にするのさ」


「え?」


「滅多に怒らないだろう、あのナリで。苛立ちや自分の怒りを溜めて【憤怒の罪(サタン)】は発動するのさ。だから滅多なことでは怒らないよ」



 なるほど、と密かにフェイは納得する。


 柄の悪い格好をしているから何が地雷で怒るのかとビクビクしていたが、ドラゴにとっては怒りや苛立ちを溜め込む必要があるので怒るに怒れないのか。

 ――それはそれで難儀である。定期的にスキルを発動させないと頭がおかしくなりそう。


 虫たちが互いに傷つけ合って自滅した頃合いを見計らってか、巨大な蜘蛛がのそのそと霧の向こうから姿を見せる。



「き、キ、キィ」



 口元の牙をワサワサと動かして、巨大な蜘蛛は何かを言おうとする。



「アンタの話を聞いてやる義理はないよ」



 銀色の散弾銃を引き抜き、その銃口を巨大な蜘蛛に突きつけてユーリは言う。



「とっととこの迷宮区ダンジョンから退場してもらおうかねェ。アンタの死体は随分と高値で取引されることだしねェ?」



 誰が死ぬものか、とばかりに巨大な蜘蛛が「ききいいいいいいいいいいい!!」と金切声を響かせる。


 ちなみに余談だが、ハーレ・ルゥがやけに大人しいと思っていたら鳥籠の中で気絶を果たしていた。

 しかも王女様らしからぬ白目を剥いた状態である。この状態で気絶をしたと話せば、おそらく恥ずかしくて死んでしまうのではないだろうかとフェイは悪いことを考えるのだった。

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