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外れスキル【鑑定眼】持ちの俺、美人な女探索者と組んで世界最強の弾丸に!?  作者: 山下愁
第3章:迷宮区【フォレストヴァンシー】

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第8話【妖精の国】

 妖精たちに案内され、深い霧が支配する森の中を彷徨さまよい歩くこと一〇分ほど、ようやくユーリとフェイ、ドラゴの三人は妖精たちの国に辿り着いた。


 国と言っても、おとぎ話に出てくるような綺麗な国ではない。

 見上げるほど高い木の上に小屋がいくつも建てられ、その間を吊り橋が繋いでいる。明らかにユーリやフェイ、ドラゴなどの人間を想定して作られておらず、周囲を飛び交う妖精たちの身長に合わせて作られている。


 フェイたちを案内していた妖精は、数え切れないほど存在する小屋の中で一際大きな小屋に向かって飛んでいく。



「くにおさ」


「くにおさ」


「しーかーがきたわ」


「くにおさ、おきゃくさまよ」


「おはなしをきいてあげて」



 妖精たちが口々に国長とやらを呼ぶ。


 その様子を下から眺めながら、フェイはコソコソとご主人様に向けて耳打ちをした。

 さすがに妖精たちが住まう国とやらに慣れていないのだ。礼儀作法などは数多の迷宮区ダンジョンを単独で踏破してきたご主人様の方が詳しいだろう。



「マスター、妖精たちの国に奴隷がいてもいいのかな……」


「妖精たちに奴隷が云々と説明しても分からないよ。アンタは堂々としてればいいのさ」


「……マスターは国長に会ったことある?」


「ないねェ。いるってのは聞いたことあるけどねェ」



 ユーリがそう答える隣で、ドラゴも「国長って会えないよね!!」と言う。



「あたしも何度か【フォレストヴァンシー】には潜ってるけど、一回も国長とやらに会ったことはないよ!! 今回が初めて!!」


「ドラゴ、うるさいよ。静かにしてな」


「すんませんッ!!」



 ユーリに注意されて、ドラゴは口を閉ざす。


 妖精たちはドラゴの口喧しさに警戒心を抱いている様子だったが、静かになったことで小屋から様子を窺っているようだった。

 あまりうるさいのは好まないのだろう。こちらをじっと見下ろす妖精たちは「しずかになったわ」「しずかになった」と口々に言い始める。


 やがて、フェイたちをこの国に案内した妖精たちが、国長のいるらしい小屋からパッと散る。遅れて、周囲の要請よりもかなり着飾った妖精が小屋から姿を見せた。



「ようこそ、探索者シーカー様。遠いところ、よく我が国へお越しくださいました」



 美しい妖精である。国長と呼ばれることも納得できそうなほど、とても綺麗な妖精だ。

 緑と青を混ぜた不思議な色合いの長い髪を靡かせ、穏やかな光を湛える双眸は色鮮やかな黄色をしている。たおやかな笑みを浮かべる妖精は上等な布を織って作られたドレスを纏い、頭上には水晶などを使用した王冠が飾られている。


 彼女が国長なのだろう。威厳のある話し方や態度は、他の妖精と違う雰囲気がある。



「アンタが国長かい?」


「はい。妖精国ドナーが国長、フィオネーレと言います」



 ドレスの裾を摘んでお辞儀をする国長――フィオネーレに、ユーリは「早速だけどねェ」と本題に入る。



「新しい迷宮主が出来るかもしれないって話を聞いて、虫の卵を退治に来たのさ。そこまで案内してくれる妖精を探しているんだけどねェ、アンタのところで居場所を知ってるのはいないのかい?」


「私の娘のハーレ・ルゥが知っております」



 フィオネーレは自分の小屋へ振り返り、



「ハーレ・ルゥ、こちらへ」


「はぁい、お母様」



 何やら気怠げな少女の声が、フェイの耳朶に触れる。


 国長の為に用意された小屋から、一人の妖精が面倒臭そうに飛び出してきた。

 青と緑を綺麗に混ぜた髪色を持つ母親とは対照的に、こちらは情熱的な赤い髪を高く結い上げた勝気な印象のある妖精である。猫のようなつり目は紅玉の如き気品のある赤で、顔立ちも意思の強そうな雰囲気がある。美人ではあるものの、我儘で周囲を困らせるお嬢様のような妖精だ。


 真っ赤なドレスのスカートを揺らしながら、薄い紅色の翅を震わせながら飛ぶ彼女は母親たるフィオネーレの隣に並ぶ。



「初めまして、ハーレ・ルゥよ。よろしく」


「礼儀のなっていなさそうなガキ妖精じゃないかい」



 ユーリはフンと形のいい鼻を鳴らすと、



「こんなお転婆がまともに案内なんて出来るのかい?」


「何よそれえ!? 王女のわたしを舐めてるの!?」



 全身真っ赤な妖精――ハーレ・ルゥは金切声で訴えてくる。



「わたしは本当に次の迷宮主の居場所を知っているわ。あんたたちはわたしの案内なしじゃ絶対に行けないんだから!!」


「そうかい、そうかい」



 やけに自信満々な様子のハーレ・ルゥを見上げるユーリは、



「フェイ、ドラゴ。別の国に行くよ。もう少しマシな案内役が見つかるかもしれないからねェ」


「はあッ!? わたしを捨てるって言うのぉ!?」


「アンタが本当に虫の卵の居場所を知ってる保証がどこにあるんだい。国長の娘って部分だけだろう」



 厳しい意見を述べるユーリだが、フェイも概ね同意である。


 何故だろう、偏見ではないのだがハーレ・ルゥとやらは色々と大変な予感がある。

 国長の娘なのだから時期国長ということになるだろうが、その際の英才教育に嫌気が差して「ちょっと冒険してやろうかしら」などと言いそうな雰囲気のあるお転婆娘の感じがするのだ。手っ取り早く国を脱出できる方法は、最近できたと噂される虫の卵を利用して「虫の卵の在処を知っているわ」と言って探索者を案内させる素振りを見せつつ、実は知りませんでしたというオチになる。


 いやまあ、全て独断と偏見である。実際はそうならないかもしれない。



「我々の国では彼女以外に虫の卵へ案内することが出来ません。探索者シーカー様、ここは我が娘に任せてはいかがでしょうか?」


「……まあ、国長が言うから仕方ないねェ」



 さすがに一国の主に言われてしまっては強く出られないらしいユーリは、



「じゃあ、しばらくアンタの娘を借りるよ」


「やったあ!! よろしく、探索者シーカー様」



 ハーレ・ルゥは嬉しそうに言うと、何故かフェイの頭の上に乗っかってきた。多分この中で一番身長が高いから見晴らしを良くする為だろうが、ご主人様の刺すような視線が痛い。


 娘のはしゃぎっぷりにため息を吐いた国長は、



「それでは探索者シーカー様、ご武運をお祈りしております」



 ☆



「さあ歩きなさい、わたしの下僕!!」


「何か勘違いしているようだねェ」



 フェイの頭をゲシゲシと蹴飛ばして歩くように命じてくるハーレ・ルゥを鷲掴みにしたユーリは、華奢な彼女の身体を握り潰さん勢いで手に力を込めて言う。



「アンタを連れて行くのは案内の為さ。とっとと案内しな」


「な、何よぉ!! わたしは王女よ!? わたしより身分の低いあんたたちは全員下僕なんだから!!」



 きゃんきゃんと喧しい声で騒ぎ立てるハーレ・ルゥに、ユーリは「死にたいのかい?」と手に力をさらに込めながら言う。


 すでに妖精の国を出発して、国の姿は影も形も見えなくなったあとである。

 この自称女王陛下様が好き勝手にやらかすのであれば、ご主人様のユーリも手加減しない所存なのだろう。目が本気である、本気で妖精を握り潰そうとしている。


 ご主人様のユーリがハーレ・ルゥと口論になっている側で、フェイはドラゴに相談する。



「ああいう性格の悪い妖精ってどうしてます?」


「普通はあんな妖精なんていないんだけどね!! まあ鳥籠にでも入れて上下に振ればいいんじゃない!?」


「意外と乱暴ですね」


「妖精なんて多少乱暴にした方が言うことを聞くんだよ!!」



 あははははは、と笑うドラゴにフェイは「なるほど」と納得した。暴力で相手を従わせるのも必要なのか。


 その話を聞いていたらしいユーリが、外套の下から銀色の散弾銃を引き抜いてハーレ・ルゥに突きつけた。

 さすがに命の危機でも察知したのか、ハーレ・ルゥは「ちょ、何よ……やめなさいよ……」と引き攣った表情で止めるように訴えてくる。そうやって命乞いをして助かろうなど甘すぎる。



「七五〇〇ディール装填」



 しっかりと鳥籠の値段分を対価に捧げ、ユーリはスキルを発動。



「《鳥籠に閉じ込めろ》」



 すると、ユーリが握りしめるハーレ・ルゥの周囲に金属めいた柵のようなものが出現する。


 柵はいくつも出現すると、その形をぐねぐねと変えて鳥籠となった。

 ハーレ・ルゥは徐々に完成されて行く鳥籠から逃げ出そうとするが、それよりも先に鳥籠はハーレ・ルゥを逃さないとばかりに鳥籠の扉を閉じてしまう。


 これで妖精入りの鳥籠が完成だ。白い華奢な鉄柵にしがみつき、ハーレ・ルゥが下品に騒ぐ。



「出しなさいよ、ここから!! 出せ!!」


「あははははは、いい気味だねェ!!」


「きーッ!!」



 金切声を上げて悔しがるハーレ・ルゥを眺め、ユーリは高らかに笑う。


 妖精との珍道中は始まったばかりだ。

 我儘で傲慢な妖精でも、国長の娘である。果たしてどうなることやら。



「……大丈夫かなぁ」



 先に不安を覚えるフェイは、ポツリとそう呟いていた。

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