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外れスキル【鑑定眼】持ちの俺、美人な女探索者と組んで世界最強の弾丸に!?  作者: 山下愁
第3章:迷宮区【フォレストヴァンシー】

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第6話【邪魔するモノ】

「おはようございます!! 今日も絶好の迷宮区ダンジョン攻略日和ッスね!!」



 朝の迷宮区ダンジョン案内所の前で、大声で挨拶をするドラゴにユーリは「おはようさん」と適当に返していた。


 今日は申請を出していた通りに迷宮区【フォレストヴァンシー】に作られた巨大な虫の卵を処理する仕事である。

 迷宮区踏破ではないのでそれほど報酬の内容に期待は出来ないが、迷宮区【フォレストヴァンシー】には今もなお財産になる草花が群生しているのだ。虫の卵の半分も貰えるということなので、やる気はボチボチというところだろうか。


 フェイもドラゴに「おはようございます」と挨拶をし、



「ドラゴさんは虫除けの香水を買いましたか?」


「お嬢が作ったよ!!」


「ああ……作れそうですよね、あの人なら……」



 ドラゴがお世話になっている貴族の御令嬢――アルア・エジンバラ・ドーラなら専門的な知識を必要とする虫除けの香水など簡単に作れそうだ。

 少なくとも、あのイザベラ・ラインツイッヒとかいう女性の元で売られている媚薬入り虫除け香水に頼らないで済むだろう。フェイも二度とあの女性に頼るのは御免だ。


 すると、ドラゴが思い出したように手を叩き、



「そうだ、ユーリさんはイザベラさんが虫除けの香水の店を出したの」


「その名前を出すんじゃないよ」



 ユーリは『イザベラ』という名前を聞いた瞬間に、機嫌を急降下させて言う。


 明らかにユーリの機嫌が下がったことを察知したドラゴは、少し口元を引き攣らせてからフェイに「なあ」と耳打ちしてくる。

 イザベラ・ラインツイッヒもまた探索者シーカー組合『七つの大罪(セブンズ・シン)』に所属する探索者でありユーリの元仕事仲間だが、アルアと接した時よりも機嫌が悪くなったので理由が知りたいのだろう。彼女が他人を敵視する理由など一つしかないが。



「ユーリさん、どうしちゃったの? イザベラさんの名前を出した瞬間にご機嫌が斜めになっちゃったんだけど」


「あー……先日ですね、行ったんですよ。そのイザベラさんのお店に」


「行ったの?」


「たまたま前を通りかかったら引き摺り込まれたってのが正しい表現ですけど。で、虫除けの香水も買ったんですけど、ちょっと俺に合わなかったって言いますか……」


「虫除けの香水に合う合わないの話ってあるんだ?」


「まあ、その……買った香水が媚薬入りだったみたいで……」


「まだあの人やってんだね!!」



 ドラゴは「懲りないね!!」と言うと、



「イザベラさんって事情が特殊だからね!! ユーリさんも最初こそ事情が事情だからって気にかけていたんだけどね!! 粘着されてからめちゃくちゃ嫌ってんだよね!!」


「ドラゴ、今度そのアバズレの名前を出したら置いて行くよ」


「あ、ごめん!!」



 無神経に忌み嫌う女の名前をデカデカと叫んでしまい、ユーリのご機嫌はさらに急降下する。このままだと本当にドラゴを置いて行きそうな雰囲気があった。



「行くよ、フェイ。ドラゴもついてきな。【フォレストヴァンシー】は近距離のくせに結構な距離があるんだから、乗合馬車を使うよ」



 形のいい鼻を鳴らしたユーリは、乗合馬車の停留所まで早足で突き進んでいく。


 やはりあのイザベラ・ラインツイッヒが気がかりなのだろう。

 何度も名前を連呼したら害虫よろしく出てくるとでも思っているのだろうか。相手も店の経営があるから、まあ多分来れないと思うのだが。


 フェイは「了解」と応じてご主人様の背中を追いかけ、ドラゴは「心配だな!!」などと意味の分からないことを言っていた。

 その意味が分かるのは、目当ての迷宮区ダンジョンの近くまで来た時である。



 ☆



 乗合馬車に揺られて二時間ほどが経過した。


 迷宮区ダンジョン【フォレストヴァンシー】はアルゲード王国から出てすぐ近くの森にある迷宮区で、乗合馬車の停留所が近くにある。この辺りで降りる乗客はほぼ探索者だけであり、たまに物好きな金持ちが迷宮区付近まで様子見しにくることもある。

 まあ乗合馬車の停留所以外は何もなく、迷宮区の入り口も鬱蒼とした森の中を入らなければならないので探索者シーカー以外にこの辺りを訪れる人間はほとんどいない。


 乗合馬車を降りて遠ざかっていく馬車を静かに見送り、ご主人様のユーリが「行くよ」と言う。



「足元に気をつけな。厄介な虫の卵を処理する前に転んで怪我でもすれば、面倒なことになるからねェ」


「うん」


「はーい!!」


「分かりましたぁ♪」



 ――何か、余計な声が聞こえた気がする。


 ピシリと顔の筋肉を強張らせたユーリは、フェイを背後に庇って銀色の散弾銃を引き抜く。

 その銃口を鬱蒼とした森に突きつけ、赤い双眸で森の奥を睨みつけた最強の探索者シーカー様は「出てきな」とやや強めに言い放つ。この場にいる第三者の正体がすぐに分かったのか、ドラゴも呆れ顔だった。


 ユーリの言葉に従って、森の奥から誰かが姿を見せる。


 緩やかに波打つ綺麗な金髪と海の如き穏やかさを湛える青い双眸、男性なら放っておかなさそうな色気と整った顔立ち。白を基調としたワンピースを身につけ、明らかに迷宮区ダンジョンを冒険する探索者のする格好ではない。

 フェイとユーリに媚薬入り虫除け香水を売りつけた張本人、イザベラ・ラインツイッヒが何故かそこにいた。


 コテンと首を傾げるイザベラは、



「あらぁ? どうしたの、ユーリちゃん?」


「どうしてアンタがここにいるんだい!! まさかあとをつけてきたって言うのかい!?」


「だあってぇ」



 イザベラはモジモジとしながら、



「ユーリちゃん、迷宮区ダンジョンに行くって言うじゃなぁい? それで虫除けの香水も買っていったしぃ……ワタシもお手伝いしたいなってぇ」


迷宮区ダンジョンには申請した人数以上に潜ることを禁止されてるってのを知らないのかい? アンタ、何年探索者(シーカー)をしているのさ!!」


「えーん、ユーリちゃんの意地悪ぅ」



 わざとらしい泣き真似を披露するイザベラに、最悪のご機嫌状態なユーリが吐き捨てるように言う。



「このままアルアに行って、アンタの探索者シーカーとしての資格を剥奪してもらった方が良さそうだねェ?」


「どうしてワタシにそこまで意地悪をするのぉ?」


「アンタが気に食わないからさ。適度な距離を持って付き合うならまだしも、行く先行く先でアンタに粘着されたら溜まったモンじゃないよ」


「えーん」



 イザベラは綺麗な顔を手のひらで覆うと、



「そこの子も同じ意見なのぉ?」


「そこの……?」


「ほらぁ、金髪で青い目の子よぉ。ユーリちゃんに気に入られてるじゃない?」


「俺ですか?」



 まさかのイザベラはフェイに助けを求めてきた。


 フェイのことを大切にするユーリだから、フェイを懐柔すれば言いくるめられるとでも思ったのだろう。

 他の男性であれば淫魔サキュバスの血を引くイザベラの言う通りにしたことだろう。彼女が上目遣いでお願いでもすれば何でも聞いて、世界は彼女の思うがままだ。


 だが、残念ながら彼女の魅了はフェイに通用しない。この部分はユーリと同じだ。



「俺に言われても困りますので、マスターの判断に任せます」


「ええー」


「アンタの魅了体質はフェイにも通用しないのさ。それより、アンタには多少の恨みもあるんだよ」


「恨まれた覚えはないのにぃ……」


「アタシにはあるのさ」



 赤い双眸で泣き真似をするイザベラを睨みつけ、ユーリは言う。



「アンタ、よくもまあ媚薬入りの虫除け香水を売り付けたね。おかげでウチの奴隷が被害を受けたよ、金の無駄になったじゃないかい」


「あれはほんのちょっとした出来心でぇ」


「商売人として失格なやり方をするんじゃないよ。三万ディール装填」



 ユーリは金銭を対価に捧げて、願いを告げる。



「《有り金を全部置いて、消え失せろ》」



 引き金を引く。


 ユーリのスキルは遺憾なく発動され、その場には彼女の財布らしきものがポンと残されると同時にイザベラの姿が消える。

 有り金を全て奪われた彼女は、果たしてどこへ消えたのだろうか。迷宮区ダンジョン内でまた出会わなければいいのだが。


 財布を拾ったユーリは「ッたく、あのアバズレは……」と文句を言いながら財布から金を強奪していく。



「ユーリさん、いいの? そんなことして!!」


「いいんだよ。どうせあのアバズレなら、金を貢いでもらう男ぐらいいるだろう?」


「それもそうだね!!」



 ユーリはイザベラの財布から強奪した金をドラゴとフェイにも平等に分けて共犯者とし、森の奥に作られた迷宮区ダンジョンへ向かう。


 ご主人様から手ずから渡された金の使い道に困るが、どうしたものだろうか。この迷宮区の探索が終わったら、ご主人様に渡すことにしよう。

 それまではつなぎの衣嚢に金を捻じ込み、フェイは森の奥に足を踏み入れるユーリとドラゴの背中を追いかけた。

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