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外れスキル【鑑定眼】持ちの俺、美人な女探索者と組んで世界最強の弾丸に!?  作者: 山下愁
第3章:迷宮区【フォレストヴァンシー】

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第2話【手続き】

 当然だが、迷宮区ダンジョンへ入るにはそれなりの手続きが必要になってくる。


 同行者や所属組合、踏破した際の報酬受取人など迷宮区へ入る前に話し合っておく必要がある。

 単独で迷宮区に潜り込む場合でもこのような手続きは必要で、ユーリも毎度文句を垂れながら手続きを済ませている。SSS級探索者(シーカー)でも他の探索者と変わらず手続きに四苦八苦する様は親近感が湧く。


 まあ、ご主人様のユーリの場合は別の意味で四苦八苦するのだが。



「またですか」



 受付嬢が深々とため息を吐きながら言う。


 相変わらず豊かな胸部を強調するような制服は、迷宮区ダンジョン案内所の所長の趣味かと疑ってしまう。動くたびにゆっさゆっさと弾むたわわな果実は男性探索者(シーカー)の視線を釘付けにするが、フェイには通用しない。

 受付嬢がため息を吐きたくなる気持ちも分かる。SSS級探索者なのだから、そろそろ後継に迷宮区踏破の仕事や迷宮区探索の仕事を任せてもいいのではないかと考えているのだろう。実際、高位の探索者は若手の育成に回ることが多いし、色々と規則を破りがちなユーリもさっさと引退してほしいのが本音だろう。


 しかし残念、ユーリ・エストハイムという探索者は生粋の探索者である。迷宮区踏破を趣味とし、生き甲斐とする彼女に「引退しろ」と真正面から言うことは喧嘩に値する。



「またって何だい。老いぼれはそろそろ引退しろって言いたいのかい?」


「後継の育成に回ってくださいと言っているんです。ユーリ様は探索者シーカーとしての経験も豊富ですし、貴女から学びたい人はたくさんいらっしゃると思いますよ」


「お断りだね」



 いつものように迷宮区ダンジョン探索申請書へ必要事項を書きながら、ユーリは受付嬢の提案を突っぱねる。



「アタシはまだ探索者シーカーとして迷宮区ダンジョンを冒険し足りないのさ。未練があるのに後継の育成なんて出来る訳ないだろう? そもそもやる気もないしねェ」


「そうやって高難度の迷宮区ダンジョン探索をしまくるから後継が育たないんですよ」


「いたずらに若手の探索者シーカーを殺すような真似を推奨するとは、迷宮区ダンジョン案内所も落ちたモンだねェ」



 申請書を受付嬢に突き出して、ユーリは「とっとと仕事しな」と言う。


 受付嬢はユーリの背後に控えるフェイへ助けを求めるような視線をくれてくるが、フェイは完全にユーリの味方である。奴隷に発言を求めるような真似をするな。

 その意味を込めて首を横に振れば、受付嬢はあからさまに機嫌の悪そうな表情を見せた。可愛い顔が台無しである。


 すると、受付嬢がフェイに色眼鏡でも使ったのかと思ったのか、今度はご主人様のユーリの機嫌が急降下した。



「このアバズレ、誰の奴隷に色眼鏡を使ってるんだい」


「はあ!? 使っていませんよ、勘違いは止めてください。誰がこんな奴隷に」


「ああ? ウチの奴隷はアンタに『こんな奴隷』呼ばわりされるような筋合いはないよ!! 見てごらん、こんなに可愛くて格好良くていい子な奴隷はいないだろ!!」


「奴隷はみんな同じですよ!!」


「フェイが鶏ガラのように痩せ細ったもやし野郎どもと一緒な訳があるかい!!」


「マスター、マスター。そろそろ本気で恥ずかしいので止めて、お願いだから」



 あんな大音声で「ウチの子いい子」呼ばわりされると本当に恥ずかしい。居た堪れなくなってくる。


 ユーリは「何を言っているんだい」とフェイに振り返り、



「アンタはアタシの自慢の弾丸なんだから堂々としてな!!」


「めちゃくちゃ褒められて嬉しいんだけど恥ずかしいよマスター!!」



 受付嬢はユーリに叱責されて渋々と仕事に取り掛かり、フェイは申請が終わるまでの間にご主人様から褒められながら撫でられるというご褒美のような苦行を強いられた。

 いや、本当に嬉しいのだ。ご主人様のユーリに褒められることも撫でられることも好きなので大歓迎なのだが、せめて他人の目線がないところでやってほしかった。迷宮区ダンジョン案内所のそこかしこから飛んでくる好奇心に満ちた目線が痛い。


 申請書を片手に戻ってきた受付嬢は、



「以前踏破した【フォレストヴァンシー】への探索でよろしかったですか? あの迷宮区ダンジョンは虫除けが必須となりますので、お気をつけくださいね」


「分かってるよ。何度か世話になってんだから」


「妖精を捕まえるのも止めてくださいね」


「分かってる」


「妖精を捕まえて売るのも止めてくださいね」


「分かってるよ。アタシを何だと思ってるんだい」


「規則を守らない迷惑探索者(シーカー)ですかね」


「はっ倒すよ、このアバズレ」



 暴言を吐く受付嬢を睨みつけ、ユーリはフェイを連れて迷宮区ダンジョン案内所を出る。

 一悶着あったが、手続きも無事に済んだようだ。これで迷宮区に入れませんでした、では話にならない。


 迷宮区案内所から出たユーリは、



「そろそろ引っ越しでもするかねェ」


「引っ越すの?」


迷宮区ダンジョン案内所の受付嬢の態度が悪いからねェ。全く、アタシがいなけりゃ誰が高難度の迷宮区を踏破するんだい。どうせそうやってSSS級探索者(シーカー)に泣きつくんだから、さっさと片付けた方が早いんだよ」



 ユーリは不機嫌そうに言うが、



「……でもあそこの迷宮区ダンジョン案内所は大陸最大規模って言われてるけど。他の迷宮区案内所だとそれほど仕事はないんじゃないのかな?」


「……………………」



 フェイに言われて、ユーリも押し黙った。


 あの迷宮区ダンジョン案内所は大陸でも最大規模を誇り、数多くの迷宮区の情報が集まるのだ。ユーリのお眼鏡に叶う迷宮区も集まるので、SSS級探索者(シーカー)であるユーリも仕事が出来るのだ。

 多分、この問題は受付嬢の意識次第かもしれない。基本的に他人へ技術を仕込むより自分で解決した方が早いと思う節があるユーリに、後継の育成は向いていないのだ。


 ユーリは少しだけ考えてから、



「前言撤回するよ」


「うん、そうした方がいい」



 さて受付嬢に関する問題はここで終了だが、さらにまた別の問題がある。


 迷宮区ダンジョン【フォレストヴァンシー】では虫除けが必須となってくるのだ。

 もう一つの異世界なのではないかと錯覚するほど広大な迷宮区は、全体的に深い森となっている。森のそこかしこに妖精たちの住む村があり、それぞれ交流を重ねているらしい。


 この迷宮区では珍しい薬草や植物が取れ、研究や医療に使われている。一般的に流通している傷薬も【フォレストヴァンシー】で取れた薬草が使われているのだ。



「問題は虫が多いんだよなぁ……嫌だなぁ……」


「フェイ、家に出る害虫は余裕で殺すだろうに。何でそんなに嫌がるんだい」


「規格外に大きいから」



 フェイは【フォレストヴァンシー】に出現する虫の数々を思い出して身震いした。


 虫の話が苦手な方には申し訳ないのだが、この迷宮区ダンジョンに出てくる昆虫はどれも規格外な大きさをしているのだ。極彩色の蝶々を乗り物に出来るぐらいに大きいのだ。

 当然ながら虫除けも専門店に行かなければならず、市販の虫除け程度では絶対に撃退できない。虫の持つ猛毒にやられて死ぬか、肉食の虫に頭から食われて死ぬか、いずれかの死に様を辿ることになる。


 ついでにこの虫除け、馬鹿みたいに高額な上に鼻がひん曲がりそうなほどに臭い。



「【フォレストヴァンシー】専用に調合された虫除けを使うと、洗っても取れないんだよなぁ。香水も一緒に買った方がいいのかなぁ」


「何言ってるんだい、フェイ」



 虫除けの対処に頭を悩ませるフェイに、ユーリが言う。



「アタシのスキルがあるだろう? それぐらいなら金を出してやるさね」


「いやいや、虫除けの臭いを取れって願いを叶える為にわざわざ金銭を対価にしなくてもいいだろ。一週間ぐらい頑張って全身を洗えば」


「アタシが耐えられるかい」


「え、あー……そうだよな。一緒に住んでるし」



 フェイはユーリの奴隷なので必然的に一緒に暮らすこととなっているし、虫除けで臭いフェイを側に置いておきたくないのだろう。ちょっと悲しいが、まあご主人様の気持ちも理解できる。


 ところが、ユーリの「我慢できるか」というのは別に虫除けの臭いではなかった。

 むしろ虫除けの臭いが耐えられない、という内容がよかった。



「寝る時にアンタを抱きながら寝られないだろ」


「マスター、俺って弾丸になる為に買われたんだよな? 抱き枕になる為に買われたの?」


「うるさいよ、フェイ。アンタは黙ってアタシの弾丸と抱き枕の役目をこなしな」


「うっす」



 何故か弾丸の役目に続いて抱き枕の役目も負ってしまったが、ご主人様の命令なので逆らえない。奴隷のフェイは素直に従うだけだ。



「さっさと虫除けを買いに行くよ」


「了解」



 先を歩くユーリの背中を追いかけて、フェイは虫除け専門店へ向かうのだった。


 余談だが、抱き枕の役目を負ったということは本日もご主人様はフェイを抱き枕にしながら寝るということで。

 残念ながらご主人様に溺愛される奴隷には予想できなかった。

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