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情報屋と刑事

作者: Kyomoto

【利用規約】


1.生配信・練習等での使用は自由。


2.お読みになる際、作者名と配布元のURLを記載してください。


3.語尾の改変・その他アドリブは自由。人称・性別改変はおやめ下さい。


4.使用報告自由。


5.誤字・脱字ありましたら連絡お願いします。


6.ボイスドラマ化・演劇上演される場合は営利・非営利問わずご一報ください。



【注意事項】

※全キャスト【兼ね役】があります。キャスト表には敢えて書いておりません。ご了承ください。

※生配信でBGMを付ける場合、ジャズやピアノ楽曲を使用していただくと雰囲気が出ると思います。

【登場人物】

・男

男性。25歳。ロンドン市警察に勤務する刑事。

とある事件に関する情報を知るため、『ホワイトレディを抱えた情報屋』を探している。


・情報屋

男性。41歳。通称:ホワイトレディを抱えた情報屋

誰も掴めなかった政治家の汚職・有名人のゴシップなどの情報を唯一掴み、それを出版社などに売ることで生計を立てている。


・バーテンダー

男性(オネェ)。42歳。【BAR Jackson(ジャクソン)】のマスター。


・N






【配役表(♂3:♀1)】

・男 ♂

・情報屋 ♂

・バーテンダー ♂

・N ♀



【所要時間】

60分〜70分













N「ここはイギリス・ロンドンにある

【BAR Jackson(ジャクソン)

刑事の男はとある事件を調査していた。

しかし有益な情報を掴む事が出来ず頭を悩ませていた。

そんな時、『BAR Jackson(ジャクソン)に凄腕の情報屋がいる』との噂話を聞き付けた彼はその真偽を確かめるため、藁にも縋る思いで店を訪れた」


男「...ココか」


N「男は店のドアを開けると辺りを見回した。壁にはレンガのタイル。

至る所に額縁に入った絵画が飾られており、備品はアンティーク調。

落ち着いた雰囲気を醸し出していた。

そこには10名程の客がカウンターやテーブルに座り各々酒を飲んでいた。

店先で呆然と立ち尽くしていては怪しまれると考えた彼は近くのカウンター席に座った。するとバーテンダーが声を掛けてきた」


バーテンダー「いらっしゃいませぇ〜...んん?あらヤダァ、アナタもしかしてこの店初めて??」


男「あ、あぁ...」


N「男の何とも言えない反応を聞いてオネェのバーテンダーは突然声を荒らげた」


バーテンダー「んもぅ!何よその反応!絶対『何だこのバーテンは?』って思ってるでしょ!?」


男「だ、大丈夫だ、そんな事1ミリも思ってない」


バーテンダー「...ホントに??」


男「あぁ、信じてくれ」


バーテンダー(男の目を見ながら)「...そう?なら良かったわぁ。それでぇ?注文は何にするぅ?ちなみにぃ...『アタシにする』とかは無・し・よ」


男「あー、いや。今日は飲みに来た訳じゃないんだ」


バーテンダー「飲みに来た訳じゃない?んふふ...お兄さんあのね?凄く申し訳ないんだけどぉ、ここBARなのよぉ。酒を飲むとぉ・こぉ・ろぉ。お酒を飲まないんだったら、ここには一体何の用事で来たの?」


男「あぁ、そうだったな。すまない。そしたら"スコッチ"を"トワイスアップ"で」


バーテンダー(男の顔を見ながら)「...んふ、それでいーの」


(心の声)「マズい...逆に怪しまれてしまったか?」


N「バーテンダーに一瞬ジッと見られながらも出されたスコッチを1口含むと男は彼女に対し小声で話しかけた」


(ボソボソ声で)「あの、さっき酒を飲みに来た訳じゃ無いって言ったのには理由があるんだ」


N「そう言って男は周りの視線を気にしながら内ポケットから警察手帳を出しバーテンダーに見せた」


(ボソボソ声で)「...実はこういう者なんだ」


N「男に警察手帳を見せられたバーテンダーは男と同じように小声になった」


バーテンダー(ボソボソ声で)「...ははぁ~なぁるほどぉ。アナタ刑事さんだったのねぇ。

最初酒を飲まないって言ったから怪しんじゃったのよぉ。ごめんなさいねぇ?」


(ボソボソ声で)「いや、こちらこそ失礼なことを言ってしまい申し訳無かった」


バーテンダー(ボソボソ声で)「いいのよぉ。それでぇ?今日は何の御用なの?...え?もしかして事件?」


(ボソボソ声で)「いや、事件じゃない。それに、ここには調査ではなくプライベートで来ているから安心してくれ」


バーテンダー(ボソボソ声で)「あらそうなの?」


(ボソボソ声で)「ああ...実は人を探しているんだ」


バーテンダー(ボソボソ声で)「人?うーん、そうねぇ...生憎ウチには沢山のお客さんが来るからお兄さんのお目当ての人を知ってるかどうか自信無いんだけどぉ...どんな人なの?」


(ボソボソ声で)「細かい特徴は分からないんだが...1杯目に必ず"ホワイト・レディ"を頼む高身長の男に何か心当たりはあるか?」


バーテンダー(ボソボソ声で)「ホワイト・レディを頼む…あぁ~!その人だったら今いるわよ?」


N「それを聞いた途端、男は立ち上がり大声を上げた」


男「何!?何処だ!?」


N「突然大声を上げた男に驚き

一斉に客のほとんどが男の方に顔を向けていた」


バーテンダー「あっ!ちょっと!お兄さん!声がデカい!!」


N「客からの視線に気づいた男は頭を下げながら静かに席に座った」


(ボソボソ声で)「...すまない」


バーテンダー(ボソボソ声で)「...まぁ気持ちは分かるわ」


(ボソボソ声で)「あぁ、ありがとう。

それで、その男は何処に?」


バーテンダー(ボソボソ声で)「ほら、あそこの奥のテーブル席で飲んでる...」


N「バーテンダーの視線を追うと赤のYシャツに黒のスラックス

ジャケットを片隅に置き足を組みながら静かに酒を飲んでいる1人の男が居た」


(ボソボソ声で)「...あの男か。分かった、ありがとう」


N「そういうと男は頼んだスコッチを片手にテーブル席の男に近づいて行った」


男「すまない、ちょっといいか?」


N「男に声を掛けられた長身の男は横目でニヤニヤしながら酒を飲んでいた」


情報屋「…なんだい?」


男「お前が『ホワイトレディを抱えた情報屋』

…だな?」


情報屋「…失礼だけど君は?」


N「長身の男に問われた男は内ポケットから警察手帳を取り出した」


男「こういう者だ」


N「男が見せた警察手帳を長身の男はまじまじと見た」


情報屋「…へぇ。君、刑事なんだ」


男「あぁ」


N「そういうと長身の男は酒を一口含めたあと、静かに口を開いた」


情報屋「…確かに俺は情報屋だぁ。

だけど、さっき言ってた『ホワイトレディを抱えた』ってのはどういう意味だい?」


男「1杯目に必ず”ホワイトレディ”を頼むことから巷では『ホワイトレディを抱えた情報屋』と呼ばれているそうだ」


情報屋「へぇ~そうだったんだ。それにしても、ホワイトレディを抱えた情報屋…か。

ふっ、随分と洒落たあだ名を付けられたもんだねぇ…

あ、あと、もう一つ聞きたいんだけど…俺の存在を何処で知った?」


男「…貴方の噂話は前々から署内でも話題になっていた。

マスコミやパパラッチが掴めなかった政治家の汚職事件や有名俳優のゴシップを次々と掴み

その情報を出版社やマスコミに売って生活しているとね。

そんなある日、『BAR Jackson(ジャクソン)』にその情報屋と似た男が居るという話を聞いてこうして訪れたって訳さ」


情報屋「…確かに君が言った汚職事件とゴシップは俺が掴んだものだ。

まぁ、どうやって掴んだかは敢えて聞かないで欲しい。

所謂、企業秘密ってやつでさ」


男「あぁ、分かった。それにしても案外素直に認めるんだな」


情報屋「隠し事は多いけど嘘は嫌いだからね。

それに、たとえ噂話でも俺の中では事実。

はっきりとイエスって言うしそうじゃなかったらノーって言うだけ。

まぁ、刑事を目の前にして噓をつけるほど俺は馬鹿じゃないんでね」


男「アンタ…相当頭が切れるみたいだな」


情報屋「褒め言葉として受け取っておくよ」


男「いや、素直に褒めたんだが」


情報屋「あ、そうなの?じゃあ、ありがとう。

あとさ…そろそろ座ったらどうだい?

立ちっぱなしもキツいだろうし

傍から見たら俺が立たせているみたいになっているからさ」


男「あ、あぁそうだな。じゃあお言葉に甘えて」


N「男が座るのを見ながら酒を口に運ぶ長身の男、改め情報屋。だが、酒が無いことに気づく」


情報屋「…ん?おや、もう酒が無くなってしまった。もう一杯頼もうかな。君も何か頼むかい?」


男「いや、俺のはまだ残っているからいい」


情報屋「…そうかい。じゃあ頼ませて貰うよ」


N「そういって情報屋はバーテンダーに2杯目の酒を頼みに席を立った」










N「数分後、2杯目の酒を頼んだ情報屋の男が戻り席に座った」


情報屋「よっこいしょっと。お待たせ」


男「…あぁ」


情報屋「さぁ、改めて聞かせて貰おうか…

君が情報屋の俺に声を掛けてきた理由をね」


N「そういうと男はカバンから資料を出し

それを情報屋に見せ1枚1枚確認していった」


情報屋「…これは…捜査資料と…写真だね」


N「情報屋に見せたのは事件の詳細が載っている捜査資料が5枚。

それと関連人物の写真だった。

写真には国籍の異なる老若男女数名が1枚ずつ映し出されていた」


男「そうだ。今回アンタに依頼したいのは事件の証拠となりうる情報を集め、提供して貰いたい」


情報屋「事件の証拠ねぇ…そもそもコレはどういう事件なんだい?」


男「...先週ロンドン市にある

高級レストラン『イストワール』にて

資産家ジャック=フォートナーとその妻イリス=フォートナーの2名が殺害された。

解剖の結果、死因は毒殺だと分かった。

その毒は2人が使用したグラスから検出され

当初はレストラン側に被疑者がいるのではないかと捜査を始めたが、全員アリバイが立証された。

そこで、我々警察は当時居合わせた客に話を聞いたが…とある数名以外はそもそも被害者との接点がないため、殺す動機がない。

また、客の他にジャックの秘書がいたのだが

その時間は取引先と電話をしていたためその場におらず2人が毒で倒れる瞬間は見ていなかったそうだ」


情報屋「あぁ~その事件は俺も新聞で読んだよ。何とも奇怪な事件だなと思っていた。

で、この写真が被害者との接点があった客かい?」


男「そうだ。

1枚目の女性はエレーナ=アーロン。

IT中小企業『69(ムック)』を経営するロンドン在住の31歳。

被害者のジャックとは経営の事で世話になっていたようだ。

このレストランは元々彼の紹介で知り、せっかくだからと恋人と一緒に来ていた。

で、その恋人というのがこの男だ」


N「男は2枚目の写真を指差すと、情報屋はそれを前のめりになりながらジッと見つめた」


情報屋「えぇ~っと、どれどれ…もしかして彼はアジア圏の人かい?」


男「あぁ。ナオヤ=タカムラ。日本人。

通訳をしているロンドン在住の30歳。

エレーナとは行きつけのバーで知り合いその後、交際に発展した。

彼も被害者とは面識があり、よく仕事を依頼されていたそうだ。

このレストランには彼女の誕生日を祝うために訪れていた」


情報屋「あらまぁ。

まさか、誕生日にこんな事件に巻き込まれるなんてねぇ…それで、この人は?」


N「情報屋は3枚目の写真を指差した」


男「彼女はオリビア=グレース。45歳。

ワドフォード在住。職業はピアニスト。

偶然、彼女のディナーショーに来ていたフォートナー夫妻の目に留まり交流を持つようになった。

このレストランにはエレーナの誕生日を祝うためピアノを演奏しに来ていたそうだ」


情報屋「へぇ。ちなみにエレーナカップルとオリビアの面識は?」


男「無い。3人共この日が初対面だったそうだ」


情報屋「初対面の人にピアノ演奏のプレゼントか…粋だねぇ」


男「…そして、最後はドミニク=ハーヴェイ。

53歳男性。ロンドン在住。

ジャック=フォートナーの秘書で勤続は30年。

ジャックが若い頃から苦楽を共にしてきた仲だ。

真面目な性格ゆえ、仕事のスケジューリングや身の回りの世話を完璧にやっていたそうだ」


情報屋「身の回りの世話か…日頃から2人にやっていることって何か聞いてるかい?」


男「日頃からやっていること…

一つだけあるにはあるが…」


情報屋「…が?何だい?一応言ってみなよ」


男「あぁ。フォートナー夫妻は持病を抱えていてその薬をドミニクがいつも管理していた。

念のため薬が入ったピルケースを鑑識に調べさせたが毒物だと思われる物質は確認されなかった」


N「それを聞いた情報屋は男の顔をじっと見た後、静かに笑った」


情報屋「ククククク」


男「何が可笑しい?」


情報屋「いや…何と言うか…甘いなぁって思ってねぇ…」


男「甘い?何が甘いって言うんだ!?」


情報屋「だってさぁ?そのピルケースをわざわざ鑑識の人に調べてもらって結果は出なかった…

それで君は何か思ったことは無かったのかい?」


男「思ったこと…?」


情報屋「…はぁ。その表情から察するに思ったことは無かったって事かな…

あのねぇ、普通、この手の犯罪を犯す奴らは生半可な計画は立てない。

証拠になりうるものをひた隠しにするもんだ。

それは刑事である君が一番分かっている事だろう?」


男「…あぁ」


情報屋「調べて結果が出なかった…そこで諦めるんじゃなくて次の可能性を示唆するんだ。

そしてとことん調べまくる。

ある程度の柔軟性と信念がなかったら…

刑事の仕事なんて続けていけないと思うけどねぇ。

それが分からないうちの君はまだまだ甘ちゃんだし青臭いなぁ…」


男「…」


情報屋「…沢山の資料を見せて貰ったけど、依頼主様がこれじゃあ引き受けるわけにはいかないなぁ…申しわけないけど、帰ってくれないかい?」


N「情報屋が帰るのを促した。その時…」


男「...待ってくれ」


情報屋「ん?」


男「…確かにアンタの言う通りだ。

結果でノーと言われたから事実なんだと思い

それ以上の調査はしなかった。

とことん調査し満足するまで追求する。

その精神が俺にはなかった。

そこはまだまだ甘ちゃんだったし青臭いところだ。

だが、犯人を探し出し亡くなった被害者や遺族・疑いを掛けられている人たちを救い、安心させてあげたい。

人を殺し、今でものうのうと生きている犯人に虫唾が走る。

何のための警察なのか?何のための刑事なのか?市民の日々の生活を守り悪をくじく。

それが俺が思い描く警察像だ。

だから頼む…依頼に協力してほしい…」


N「情報屋は男の顔をジーっと見た」


情報屋「…ははっ、オーケー。負けたよ」


男「え?」


情報屋「君がここまで熱すぎる男だとは思わなかったよ…分かった。この依頼、引き受けようじゃないか」


男「…本当か!?」


情報屋「あぁ。本当さ」


男「ありがとう…」


情報屋「君の捜査に役立つであろう

”上質な情報”を提供してあげようじゃないか」


男「上質な…情報」


情報屋「あぁ、ダジャレじゃないよ。

依頼者は皆良い情報を欲しがるもんさ。

それに、ただの良い情報だけじゃあつまらない。

大事なのはお互いがウィンウィンな関係になれるようにするための上質さだぁ」


男「は、はぁ…」


情報屋「まぁ、簡単に言うと君は今から上質な情報を買うんだ。

それに見合う値段を払って欲しいのさ。

いやぁ、俺も生活がキツくてねぇ。

金が無いと生きていけないんだ。

だから俺は金が欲しい。

そして君は出せば一発アウトになりうる証拠…つまり情報を欲している。

情報のクオリティが上がればその分値段も高くなる。そのための上質さってことさ。

まさにウィンウィンだろ?」


男「あぁ、そういうことか」


情報屋「そうそう。俺が満足いく情報を提供した暁には値段交渉に行こうじゃないか」


男「あぁ、分かった」


情報屋「と、いうことで4日程時間をくれ」


男「4日!?それだけでいいのか!?」


情報屋「まぁ、早いに越したことは無いからねぇ。それじゃあ4日後の夜にここに来てくれ」


男「分かった」


情報屋「それじゃあな、お友達♪」


男「…ん?お友達??」


情報屋「あぁ、依頼成立した人の事をそう呼ぶのが俺なりのルールなのさ。

まぁ、本当の友達の時はその前に何か付けるけどね?」


男「そうなのか…それじゃあ改めて4日後の夜に」


情報屋「あぁ」


N「男が店から出て行ったあと

情報屋はボソッと呟いた」


情報屋(小声で)「生活を守り、悪をくじく警察か…」


N「そして情報屋は酒を口に含み

過去の事を思い返していた」








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

配役変更

N→少年

男→リアム

情報屋→情報屋(ナレーション)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





情報屋(ナレーション)「あれは今から41年前。産まれたての俺は孤児院の前に置き去りにされた。

両親の顔も名前もどんな人物だったのかも知らない。

そんな俺を先生は時に厳しくそして優しく育ててくれた。

それは他の子供達に対してもそうだった。

暖かく幸せな時間は俺が孤児院を出るまでずっと続くものだと思っていた。

しかし、そうはならなかった。

それは俺が12歳の時に突然起こった。

当時、孤児院があった街で流行り病が発生した。

先生はそれに感染し有効な治療薬も無く

3ヶ月も経たずに死んでしまった。

先生は当時60代だったような気がする。

細かい事はあまり覚えていない。

これは後から聞いた話だが、この流行り病は特に60代は重症化しやすいものだったという。

突然保護者である先生を失った俺達に対し世間の人からの目は冷たかった。


『感染者が出た孤児院の子供を助けたら我々が感染するかもしれない。絶対助けるな』


それだけの理由で手を差し伸べてはくれず俺ら子供は散り散りになった。

そして俺は同じ院出身で1つ上のリアムと2つ下のジェームズと共に孤児院に残った。

それから3年の月日が経った」









リアム「おい!ブツは手に入った!早くズラかるぞ!」


少年「オーケー!」


情報屋(ナレーション)「俺らは街で有名な悪ガキになり店から食べ物や衣服を盗んで生活していた。

一時期、別の街へ行き働き口を探そうと思ったがアテも無ければ暮らす家も無い。

別の孤児院に行っても恐らく噂話が今でも根強く残っているだろうと考え、この街に留まる事を決めた」


リアム「ハァ...ハァ...ここまで来れば大丈夫だろ」


少年「そ、そうだね...」


情報屋(ナレーション)「当時俺らが住んでいた孤児院は廃墟と化し、誰も住んでいないという噂話が流れていた。

そのお陰もあってか今まで誰も孤児院に訪れた者は居ない。

その為俺らは捕まる事は無かった。それにはもう1つある理由があった」


リアム「お前が考えた作戦が見事に効いてるみたいだな!」


少年「うん!」


リアム「それにしても、お前あんな作戦どうやって思いついたんだ?」


少年「孤児院に置いてあったマジックの本を参考にしたんだ」


リアム「あー、えーっと...何だっけ?確かミスター...」


少年「ミスディレクション!」


リアム「そう!それだ!ミスディレクション!!...って何だったっけ??」


少年「はぁ...あのさぁ...この前も説明したじゃん」


リアム「そうなんだけどさ...覚えが悪くてさぁ。それにお前の説明が難しくて何言ってるのかさっぱりだったんだよ」


少年「いや...アレでも大分、分かりやすかったと思うけど?この前ジェームズに説明したら1発で理解してくれたよ」


リアム「アイツと俺は違うんだよ」


少年「あっそ...」


リアム「だからさ!

もう1回説明してくれ!頼む!!」


少年「...はぁ、分かったよ。ミスディレクションって言うのは元々マジックに用いられるもので注意を意図していない別の所に向かせる現象やテクニックのことで...ここまでは理解出来てる?」


リアム「うーん...悪ぃ、さっぱり分からん」


少年「...だと思った。もう少し簡単に説明すると、人の注意を別の場所にそらすってことだよ」


リアム「で、そのミスディレクションから着想を得たのがあの作戦ってわけか」


少年「ああ。そもそもこの孤児院には人が住んでないってことになってるから大抵の大人は近付かない。

でも、一部の勘の良い大人はココに目を付けてるかもしれない。

だからこそ、そいつらの考えを混乱させる必要があったんだ」


リアム「...わざと追い付かれるフリをして偽物のアジトに誘導する」


少年「それを3人やることでアジトと思しき場所が3箇所になり混乱を招く」


リアム「今の所、この作戦のおかげでバレずに済んでるけど...時間の問題だわな」


少年「まぁ、その時が来たら考えるさ」


リアム「だな。ホントにお前は作成を立てるが上手いよな。

孤児院の時にやったイタズラは全部お前が考えてたしな」


少年「そうだね。

1番笑ったのは...アレは爆竹だったっけ?」


リアム「そうそう!

たまたま街で拾った爆竹を気付かれないように調理室にあるデカい鍋に入れてな」


少年「アレ凄い音鳴ったよね。

俺らもビックリしてね」


リアム「それで結局先生にバレて滅茶苦茶怒られたんだよな」


少年「そうそう。あの後、(スス)だらけになったデカい鍋を2人して洗ってさ」


リアム「アレすげぇ大変だったなぁ...」


少年「2人してヘトヘトになってたよね(笑)」


リアム「なってたな(笑)

...あの時はホント楽しかったな」


少年「うん。毎日が楽しかった。

厳しいけど優しい先生がいて他の皆もいて...

それがずっと続くと思っていたのに。

あの病が無かったら今でも...俺達は」


リアム「...起きてしまった事はしょうがないさ。

いつまでもクヨクヨしている暇があるなら前に進む努力をする。

その為には例えどんな状況でも泥水啜ってまで生きないとな」


少年「リアム...ふふっ、君ってたまに良い事言うよね」


リアム「たまにってなんだよ!?いつもいい事言ってるだろ!?」


少年「えぇ〜?いやぁ〜いっつもバカ丸出しな発言してるよ」


リアム「急な悪口!」


少年「褒めてるんだよ」


リアム「いや、褒めてたらバカなんて言葉出ねぇだろ!?」


少年「...確かに!」


リアム「確かに!じゃねぇよ!

なんだその『よくよく考えたらそうじゃん』みたいなリアクション!?

お前わざとらしいんだよぉ!俺の事バカにしてんのか!?」


少年「いやいや、ホントに褒めてるんだって」


リアム「...ホントに?」


少年「ホントに」


リアム「...ならよかった」


少年「だから、俺が思うにリアムは...あ...愛すべき(笑い堪えながら)バカだよ」


リアム「...お前結局バカにしてんじゃねぇかぁ!!

笑い堪えながら言ってるのバレバレなんだよ!!」


少年「…ははははは」


リアム(後から被せる)「はははははは」


情報屋(ナレーション)「たとえ大変な状況でも笑い合える友がいる。

今思えば、こういう何気ない会話もある意味幸せを感じていたのかもしれない。

それから1週間後、俺らの運命を変える大きな出来事が起こった」





情報屋(ナレーション)「ある日、俺とリアムは街へ繰り出し盗みを働いていた。その帰り道」


リアム「いやぁ…今日も大量!大量!

コレだけの食料があれば死なずに済むだろ」


少年「そうだね…でもさ、何かおかしくない?」


リアム「ん?何がだ?」


少年「いつもはしっかり追いかけてくる街の人達が今日に関しては追いかけて来ない」


リアム「あぁ~そういえばそうだな。もう諦めたんじゃねぇの?それか体調が悪かったのか」


少年「…いや、それはないと思う。

何か原因があるはずだ」


リアム「…とりあえずその話はまた今度考えるとして、今日は早く戻ろう。

ジェームズも待っていることだしな」


少年「…うん」


情報屋(ナレーション)「そして俺たちは孤児院へと繋がる道を曲がった瞬間、とある人影が目に入る」


リアム「…ん?孤児院の前に誰かいるぞ」


少年「アレは…ジェームズ?」


リアム「…と誰かいるな。アイツら誰だ?」


情報屋(ナレーション)「ジェームズと一緒に居たのは2人組の男だった。男達は同じ服を着ていた。その服を見て俺は背筋が凍った」


少年「あの服…ま、まさか…」


リアム「おい、どうした?」


少年「そんな…いや、そもそも何でジェームズと一緒にいるんだ?それに今日は…」


リアム(被せるように)「おい!どうした!?アイツら一体誰なんだよ!?」


少年(被せるように)「あの服を見て気付かないのか!?

…アイツらは…警察だ」


リアム「!?け、警察だって?」


少年「…あぁ」


リアム「何で、何で警察が孤児院に居るんだよ?」


少年「分からない。もしかして誰かに気付かれたのか?」


リアム「…ん?おい見ろ。ジェームズが警察に何か渡してるぞ」


少年「アレは…なんだ?何か袋のような…」


リアム「それを受け取って警察もジェームズに何か渡したぞ」


少年「封筒…?あの薄さ…もしかして金か?」


リアム「は!?金!?何でアイツが警察から金なんて貰ってるんだよ!?」


情報屋(ナレーション)「ジェームズが渡した袋。それを警察が受け取り金を渡す。考えられるのは1つしかなかった」


少年「…ジェームズ。君ってやつは」


リアム「おい、どうしたんだよ?」


少年「…ジェームズが警察に渡していた袋…

恐らく中身は…違法薬物だ」


リアム「…え?違法…薬物…だって?」


少年「…あぁ。どうやって手に入れたか分からないけど、ジェームズは警察相手に違法薬物を売っていた。そして貰った金は俺らに伝えずに隠し持っていた」


リアム「アイツ…何で…?」


少年「…そうか。今日街の人が追いかけて来なかったのは警察、しかもアイツらが巡回していたからだ」


リアム「で、でもよ、警察が巡回しているんなら俺らの悪さも伝えればいいんじゃねぇの?」


少年「普通の警察だったら、そうしてるさ。

でも、アイツらは違う…恐らく悪徳警官ってやつだ。

そうか、アイツらが…!」


リアム「悪徳警官!?それにお前知ってたのかよ!?」


少年「噂で聞いた程度で実際に見たことはなかった」


リアム「でも、悪徳でも警察は警察だろ!?

言えばいいじゃねぇか!?」


少年「それが出来なかったんだよ。

アイツらは街の人間にも危害を加えていたんだ。

『面倒な仕事を押し付けるな』って暴行を加えられたって話を聞いたことがある」


リアム「なんてひでぇ奴らだ…」


少年「そういう話を聞いていたからこそ俺はアイツらに接触しないようにしてたのさ。

何故なら…アイツらが来る曜日を知っていたからだ」


リアム「…まさか毎週月曜と金曜か!?」


少年「正解」


リアム「そうか…だからお前は毎週月曜と金曜に決行するのを嫌がってたのか!?」


少年「そういうこと。でも、今日は水曜日。

聞いていた話と違う…これも偶然なのか」


リアム「分からねぇが、とりあえずアイツらが去るまでこのまま待機するか?」


少年「そうしよう。その後、改めてジェームズに話を聞こう」


情報屋(ナレーション)「その時、孤児院の方から銃声が聞こえた」


リアム「!?ま、まさか…!?」




情報屋(ナレーション)「俺らが見た光景…それは悪徳警官にジェームズが射殺されているところだった」


少年「ジェームズ!!!」


リアム「…お前ら!!何で!!何でジェームズを撃ったぁっ!?」


情報屋(ナレーション)「俺はすぐさまジェームズの元へ駆け寄った」


少年「おい!ジェームズ!!しっかりしろ!!お前には聞きたいことが沢山あるんだ!!」


情報屋(ナレーション)「その時、ジェームズが掠れた小さな声でこう言った」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

配役変更

バーテンダー→ジェームズ

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





ジェームズ「2人とも…ごめん。中々言い出せなかった。僕の部屋に鍵付きのカバンがある…番号は…先生の…た…ん…じょう…び」


情報屋(ナレーション)「そう言い残すとジェームズは静かに目を閉じた」


少年「…ジェームズ?…おい、起きろ…目を開けてくれ。頼む…開けてくれよ…ジェームズ」











リアム「避けろ!!!」


少年「…え?」


情報屋(ナレーション)「悪徳警官は俺に向かって発砲した。咄嗟に避けたお陰もあって、撃たれはしなかったが、銃弾が頬を掠めそこから血が出ていた」


少年「あ、危なかった…」


リアム「てめぇ!!」


情報屋(ナレーション)「リアムは警官の1人に掴みかかった」


少年「リアム!!」


情報屋(ナレーション)「リアムを引き剝がそうと

もう1人の警官がリアムに襲い掛かる」


少年「やめろぉっ!!」


情報屋(ナレーション)「俺はどうしたらいいのか分からず

襲い掛かろうとしているもう1人の警官に金的を食らわせた」


リアム「お、ナイスゥ!!」


情報屋(ナレーション)「しかし、気が緩んでいる隙を突かれリアムは投げ飛ばされてしまった」


リアム「ぐあっ!!」


少年「リアム!!」


情報屋(ナレーション)「首をコキコキ鳴らした警官は拳銃を取り出し俺に向けた」


少年「…子供を利用し、あろうことかその命を奪い、街の大人に暴力を加え怯えさせている。

そんな奴が警察…笑わせるな!!お前らは人の悲しみや苦しみを知らずのうのうと生きてる。

それを汲んで力になってあげるのが警察なんじゃないのか!?

…アンタらは警察でも何でもない

…警察の皮を被った、ただの犯罪者だ!!」




情報屋(ナレーション)「俺の叫びを聞いた警官は高らかに笑い、こう言った。『それがどうした?』と」


少年「…お、おまえええええええ!!!!」


情報屋(ナレーション)「俺は心の底から怒りをぶつけた。

しかし警官は顔色一つ変えずに引き金を引こうとした。その時」


リアム「やめろおおおおお!!!」


情報屋(ナレーション)「リアムがもう一度、警官に掴みかかった」


少年「リアム!!」


リアム「逃げろ!!」


少年「…え?」


リアム「お前は早く逃げるんだ!!

そして大人を呼んで来い!!!」


少年「でも…!!」


リアム「こいつらの足止めをするだけだ!!

出来るだけ時間を稼ぐ…!!早く行け!!」


少年「リアム…死ぬなよ」


リアム「…へへっ、大丈夫だ!

お前も気を付けろよ!!」


少年「…うん!!」


情報屋(ナレーション)「そして俺はその場を走り去った。

その後、孤児院の方から銃声が2発聞こえ立ち止まった」


少年「…まさか…リアム!!」


情報屋(ナレーション)「俺は孤児院の方に戻ろうとしたが…

リアムとの約束を果たすため踏みとどまり

助けを求めるべく叫び続けた」


少年「はぁ、はぁ、だ、誰か!!誰か助けて下さい!!お願いです!!誰か助けて下さい!!」


情報屋(ナレーション)「ひたすら叫んだ。勿論、最初は見て見ぬふりをされた。

今まで盗みを働いていた奴が急に助けを求めるなんて虫がいい話。

それを承知の上で俺は声が枯れるまで助けを求めた。

気持ちが焦り、もう駄目だと諦めかけていたその時、1人の人物が話しかけてくれた。

そして俺はその人に話をして警察を呼んでもらった。

その後、警察が向かうと足を撃たれ倒れている2人の悪徳警官がいた。

しかし、その場にリアムは居なかった」


少年「リアム…?おい!リアムは何処だ!?」


情報屋(ナレーション)「俺は悪徳警官にリアムの場所を聞いた」


少年「…腹を撃ったあとにそのまま何処かに逃げてった…だと…おまええええええ!!」


情報屋(ナレーション)「俺はソイツに殴りかかろうとしたが警察に止められた。

そしてリアムが逃げた方向に向かって走った。

しかし、何処に行ってもリアムの姿はなかった」







少年「リアム…まさか…君もなのか…君も…逝ってしまったのか…君が逝ったら…俺は独りだ…」











情報屋(ナレーション)「その後、孤児院に戻り2人を一気に失った喪失感に苛まれた俺は数日間ロクに食べ物が喉を通らなかった。そんなある日死ぬ直前ジェームズが言っていた事を思い出した」


少年「ジェームズの鍵付きカバン…」


情報屋(ナレーション)「中身が気になった俺はジェームズの部屋に行き鍵付きカバンを引っ張り出した」


少年「えっと、確か番号は先生の誕生日だから…『1』『0』『2』『5』…よし開いた」


情報屋(ナレーション)「ロックが外れカバンをあけてみるとそこに入っていたのは1枚の封筒と大量の札束だった」


少年「…ジェームズ。こんなに稼いでいたのか…」


情報屋(ナレーション)「そして一緒に入っていた封筒をあけると写真と手紙が入っていた。

写真は孤児院にいた頃、俺・リアム・ジェームズの3人で撮ったものだった」


少年「この写真…ちゃんと持っていてくれたんだ…こっちの手紙にはなんて書いてあるんだ?」


情報屋(ナレーション)「手紙を開くとこう書かれていた」


少年「『今まで隠しててごめん。この資金は愛する親友2人のために。使うか燃やすか自由にしてくれ。PS:例え離れ離れになってもずっと親友だ。決して1人じゃない。前を向いて生きてくれ。それが僕からのお願いだ』

…ジェームズ。君らしい手紙だ…残された俺に出来ることは前を向いて生きること…か…まぁ、俺なりに何とか頑張ってみるよ」







情報屋(ナレーション)「そして俺はカバンを片手に孤児院を出て行った」








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

配役変更

少年→N

リアム→男

情報屋(ナレーション)→情報屋

ジェームズ→バーテンダー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




N「4日後、刑事の男は『BAR Jackson(ジャクソン)』を訪れていた」


バーテンダー「あらぁ~いらっしゃい!」


男「やぁ、マスター」


バーテンダー「4日ぶりかしら?また来てくれるなんて嬉しいわぁ~って言ってもあの人がお目当てなんでしょ?」


男「あぁ」


バーテンダー「いつもの席にいるわよ」


男「ありがとう」


N「そういうと男は情報屋が座っている奥のテーブル席へ向かった」




情報屋「…ん?やぁ、お友達。

元気にしてたかい?」


男「最近忙しくて疲れてはいるが…概ね元気だよ。そういうアンタは?」


情報屋「俺かい?俺はいつも通り元気だよ。さぁ立ち話もなんだ。座って!座って!

依頼に見合う上質な情報を提供するとしよう」


男「あぁ…宜しく頼む」


N「そういうと情報屋は鞄から資料を取り出し、それを男に渡した」


情報屋「ある程度資料にまとめておいた。

1つずつ説明しよう」



情報屋「まず、エレーナとナオヤの情報だ。

彼女らをよく知る人物から話を聞くことが出来たんだけど、これといってジャックに対して不満は無いみたいだねぇ。

逆にかなりの好印象だったらしい…

エレーナの会社『69(ムック)』に資金提供したり、一時期ナオヤの収入が減った時、22000ポンドあげたみたいだからね。

まぁ、コレに関しては君も取り調べで聞いてると思うけど?」


男「…あぁ。ジャックがナオヤにあげた額に関しては知らなかったが、それ以外のことは聞いていた」


情報屋「そうかい。結果的に俺が掴んだ情報でも取り調べの内容とさほど変わらなかった。

...ってことは、だ。この2人は嘘つきではない。完全にシロってことが分かったね」


男「あぁ、そうだな」


情報屋「で、その次はオリビアなんだけど…」


男「…どうした?」


情報屋「いや…コレも彼女の関係者から話を聞くことが出来たんだけど…なんでも彼女は日頃からジャックの妻であるイリスに対し不満と愚痴を吐露していたみたいだねぇ。

関係者曰く…殺したいくらい憎んでいたってさ」


男「な、なんだと…!?」


情報屋「イリスは元々高飛車な性格だったみたいで、表面上では上手く取り繕って彼女の演奏を褒めていたけど、裏ではボロクソに批判してたみたいだよ。

しかも本人の目の前でねぇ。

そんな事が知り合った3年間ずっと続いていた。

自分のプライドをズタズタにされて憎まない奴なんていないよ」


男「そんなことがあったのか…」


情報屋「...その様子だとオリビアは取り調べで嘘の供述をしたってことかな?」


男「あぁ。彼女は号泣していてまともに取り調べ出来る状況じゃなかったよ。

でも、その後もう一度取り調べをしたら『事故の時、私はピアノを弾いていたし、そもそも2人には演奏前に挨拶された時にしか会ってないのよ!そんなの出来るわけじゃない!』ってブチ切れてたな」


情報屋「う~ん…きっとその涙もブチ切れたのも嘘で塗り固められたもの。

でも、挨拶時にしか顔を見てない人物に毒を盛ることは出来ない。

じゃあ、どうするか…君なら分かるかな?」


男「…まさか…犯人はもう1人いる」


情報屋「ククク、正解だぁ。計画を立てたのはオリビアだ。

しかし、毒を盛ったのはオリビアではない別の人物だ。誰だか分かるかい?」


男「…秘書の…ドミニク」


情報屋「そういうこと」


男「でも、2人の薬を入れていたピルケースには毒の成分が検出されなかったはず

…ということは…何処かに隠し持っていた…?

それを今でも何処かに保管している可能性がある」


情報屋「ククク、多分そうだろうねぇ。

コレは俺の推測だけど、もしかしたらドミニクが事件当時着ていた衣服・もしくは家の何処かに毒の成分か毒薬が入っていたゴミが見つかるかもしれないねぇ…」


男「どうして、ドミニクが…?彼はジャックと苦楽を共にしてきた仲なんじゃないのか?」


情報屋「…ドミニクにもジャックに対しての不満がかなりあったみたいだ。

それを30年間ずっと言い出せなかった。

積もり積もって蓄積されたものが最終的に憎悪へと変わった」


男「フォートナー夫妻の殺害という共通の目的を得た2人は協力関係になり今回の毒殺計画を立てたわけか」


情報屋「そういうことになるね」


男「…それは分かった。

だが、2人が犯人だという証拠がない…」


情報屋「ククククク…君さぁ、何のために俺に依頼したんだい?

ちゃんと証拠を掴んだに決まってるだろ??」


男「本当か!?」


情報屋「あぁ、本当さ。俺が掴んだのはコレだよ」


N「情報屋は男に1枚の紙を見せた」


男「…コレは?」


情報屋「毒薬を販売している裏サイトの注文履歴さ。

俺の友人の知り合いがここの管理者でねぇ。

販売は個人間で取引されるが、誰がどの商品を注文したのか管理者は閲覧することが出来るんだ。

依頼のために見せて欲しいって言ったら見せてくれたんだ…ほら、よく見てご覧よ。この名前をさ」


N「情報屋が指差す場所を見ると、とある名前が書いてあった」


男「…オリビア=グレース」


情報屋「聞いたことある名前だろ?それに送り先の住所も見てご覧」


男「…間違いない。オリビア=グレース本人だ」


情報屋「これを出せば間違いなく一発アウトだ。

後は2人が共犯だったって証拠だけど…これに関しては詳しく調べられなかった。

でも恐らく2人は頻繁に連絡を取り合っている。

携帯履歴を調べてみるといい。

それに今の携帯会社は自動で通話を録音しているみたいだから刑事である君が申請すれば録音データを提供してくれるかもね」


N「情報屋の情報に男は驚きを隠しきれていなかった」


男「……」


情報屋「どうだい?俺の上質な情報は?

お気に召して頂けたかい?」


男「…正直驚きすぎて何も言えない。だが、アンタは正真正銘凄腕の情報屋だ」


情報屋「ハハハ、褒め過ぎだよ。

でも、満足してくれたのなら調べた甲斐があったってもんだよ」


男「あぁ…凄く満足している」


情報屋「それは良かった。

それで、肝心の金額なんだけどねぇ…」


男「…あ、あぁ。そうだったな。これくらいでどうだろう?」


N「男は情報屋に小切手を渡した」


情報屋「どうも。えぇ~っと、1.10.100.1000.10000(マン)…ん?アレ?71000ポンド…?」


男「もしかして足りなかったか?」


情報屋「いやいや、そういうことじゃなくて…俺の記憶だと71000ポンドってかなりの大金だと思うんだけど」


N「情報屋が驚くのも無理はない。71000ポンドは日本円にすると約1000万円である」


情報屋「えっと…確かに金が欲しいとは言ったよ?それこそ、過去に情報を売りつけた出版社にこれくらいの額を貰ったこともある。

だけど、出版社は企業で君は個人だ。どうして一般の刑事である君がこんな大金を持っているんだい?

もしかして…家が物凄く裕福とか?」


男「いや、家は普通の家庭なんだが…実は学生時代に友人に誘われて投資をやっていたんだ。

それで、かなりの資金を手に入れてな。

元々そんなに金を使わない性格だから今でも有り余っているんだ」


情報屋「へぇ…投資ねぇ…それでどれくらい稼いだんだい?」


男「細かい額は覚えていないが…確か億はいっていると思う」


情報屋「お、億!?…君って意外と凄いんだね」


男「そうか?まぁ、その金に見合う情報を提供してくれたんだ。有り難く受け取ってくれ」


情報屋「…じゃあ、お言葉に甘えて受け取ることにするよ」


男「金も渡したところで今回の取引はこれで終了だな」


情報屋「そうだねぇ」


男「今回は本当にありがとう。凄く助かった」


情報屋「どういたしまして。こっちも依頼主様が喜んでくれて何よりだよ」


男「なぁ…最後に1つだけ聞いておきたい事がある」


情報屋「なんだい?」


男「アンタ...名前は?」


N「男の思いがけない質問に情報屋は高らかに笑った」


情報屋「ハハハハハ!!

...名前って...今更過ぎやしないかい?」


男「...聞くのを忘れていたんだよ」


情報屋「まぁ、そういう事にしておいてあげるよ」


男「...それで?」


情報屋「...カーロス=ヴィ=シルヴァ。

気軽にカーロスと呼んでくれ。

君はぁ~えぇっと、なんだったっけなぁ~」


男「おい…まさか忘れたのか?」


情報屋「いやいやいや、最初に警察手帳を見せて貰った時、ちゃんと名前を確認したはずなんだけどねぇ…うーん、ごめん、覚えてなかったみたいだ」


男「やっぱり忘れていたんじゃないか」


情報屋「歳と酒のせいでどうも忘れっぽくなっていてねぇ…

あぁ、勿論仕事とプライベートは別だけどね」


男「別にしてくれないとこっちが困る…」


情報屋「ハハハ、そりゃあそうだ…それで?君の名前は??」


男「...アレックス。アレックス=J=クラウンだ」


情報屋「あぁ~そうだ!アレックスだぁ!

いやぁ、スッキリしたよ!!

…アレックスかぁ。刑事の職にピッタリな良い名前だ」


男「ふっ...ありがとう」


情報屋「どういたしまして。また何かあった時はココに来てくれ。

"ホワイト・レディ"を飲みながら待ってるよ♪」


男「あぁ」


情報屋「それじゃあな、お友達♪」


N「そしてカーロスは店から出るアレックスの背中を見ながらゆっくりと酒を飲み、微笑んだ」









N「店から出たアレックスは車を停めている場所に歩き出そうとした瞬間、後ろから声を掛けられた」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

配役変更

バーテンダー→銀髪の男

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





銀髪の男(煙草の煙を吐きながら)「...よぉ」


男「...来ていたのか。誰から聞いた?」


銀髪の男「ハリーからだよ」


男「そうだったのか。だったら外で待たずに店まで来れば良かったじゃないか」


銀髪の男(煙草を加えながら)「それも考えたさ。...だがな凄腕の情報屋?だかなんだか知らねぇが、得体の知れない男と喋れる程俺はお人好しじゃないんでね」


男「お人好しじゃなくて人見知りの間違いじゃないのか?」


銀髪の男「バカか。人見知りだったら刑事なんて出来ねぇだろ」


男「まぁ、そうだな」


銀髪の男(煙草の煙を吐きながら)「...で?どうだったんだよ?その男から貰った情報は?」


男「...正直言って完璧だ。嘘偽り何も無く全てに確証がある。非の打ち所が無い。

ここまでの情報を探せるのはロンドン中...いや、世界中探しても彼しか居ない」


銀髪の男(煙草を加えながら)「ほぅ...えらくベタ褒めじゃねぇか?」


男「ベタ褒めしたくなるさ」


銀髪の男(煙草の煙を吐きながら)「へぇ...だったら見せてもらおうじゃねぇか?その完璧な情報ってやつをよぉ」


男「分かった。とりあえず車で署に戻るぞ」


銀髪の男「あいよ」


N「銀髪の男が歩き出そうとした時、アレックスは立ち止まった」


銀髪の男「あ?どうした??」


男「この事件、絶対に解決させるぞ...レイ」


銀髪の男「ふっ、当たり前じゃねぇかよ相棒」


N「そして2人は歩き出す」


男「そういえば、情報屋の男に1つアドバイスをされた」


銀髪の男「ほう?情報屋の男が刑事にアドバイスか…なんて言われたんだ?」


男「色々言われたが、簡単に言うと『結果が真実とは限らない。常日頃から様々な可能性を示唆して動け』ってさ」


銀髪の男「へぇ…いい事言うじゃねぇか。お前はたまに詰めが甘い所があるからなぁ…そこを直していかないとな」


男「そうだな。これから頑張るよ」


銀髪の男「おう。これからとことん犯人追い詰めていこうぜ」


男「...あぁ、勿論さ」


N「アレックス=J=クラウンとその相棒、レイ=ブラッドリーは数日後

犯人であるオリビア=グレースとドミニク=ハーヴェイを逮捕。2人は全てを自供した。

この事件を境にアレックスとレイは署内で一目置かれる存在になる。

その後、徐々に実績を積み上げ、周囲から【Double (ダブル) Wolf(ウルフ)】と呼ばれるようになる。

そして後に情報専門会社を立ち上げ、【情報屋の帝王】として界隈のトップに君臨することになるカーロス=ヴィ=シルヴァ。

事件が解決したことを知らせにアレックスはレイと共にカーロスに会いに行く。

そこでレイはカーロスと初対面(はつたいめん)を果たす。

苦手意識を覚えるも情報屋としての腕を買い、徐々に信頼を置いていく。

その後も3人は次々と難事件を解決していき、この奇妙過ぎる友情はこれからも続いていく事になる」
















N「閉店後の『BAR Jackson(ジャクソン)』にて」


情報屋「...ふふっ」


N「情報屋の男ことカーロス=ヴィ=シルヴァは微笑みながら酒を飲んでいた。すると、とある人物が声を掛けてきた」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

配役変更

銀髪の男→バーテンダー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






バーテンダー「...何ニヤニヤしてるのよ?」


情報屋「俺がニヤニヤしてるのはいつも通りじゃないかい?」


バーテンダー「あーそれもそうね...あの刑事のお兄さんの事、えらく気に入ってるみたいだけど...どういう風の吹き回しかしら?」


情報屋「...酔っているせいなのかな?

言っている意味が分からないなぁ」


バーテンダー「とぼけないで頂戴。

過去あんな目に遭ったって言うのに今更刑事の仕事に協力するなんて...アンタ、あの事忘れたとは言わせないわよ?」


情報屋「勿論忘れたわけじゃないさ。あの出来事は今も、そしてこれからも俺の中に住み着く悪魔のようなものだからねぇ...ただあの刑事とアレックスは違った。

彼はまだ若く青臭い。だが、彼の心の中にはメラメラと燃える正義の炎があった。

汚いヘドロを消し炭に出来る位のね?これは長年色んな人を見てきた俺だからこそ分かったことさ。そこに俺は可能性を見出し信頼を置いた。だから仕事を引き受けた。ただ、それだけだよ」


バーテンダー「…何よそれ。アンタ歳になったからってセンチメンタルになったんじゃないでしょうねぇ?」


情報屋「うーん…どうなんだろうねぇ…

そこら辺は俺にも分からないさ。

でも、逆に彼のような刑事があの当時に居てくれたら俺らの人生も大分変ったと思う」


バーテンダー「…まぁそうだけど」


情報屋「それに君もその片鱗を感じたからあの時、彼を俺に通したんだろ?

ちゃんと警察手帳を見せられたから理解も判断も出来たはず…刑事嫌いの君の事だ。

普通だったら嘘をつくなりして俺を紹介しなければ良いのに君はそれをしなかった…それは何でだい?」


バーテンダー「!?…アレは…その…」


情報屋「まさか『演技だった』…なんて言うんじゃないだろうねぇ?」


バーテンダー「…はぁ。確かに刑事って聞いたときは焦ったし、それこそ嘘ついてアンタを紹介しなきゃよかったのかもしれない。でも…何でかしらねぇ…アタシも同じように思っちゃったのかしら」


情報屋「同じように?」


バーテンダー「勿論今でも刑事は大っ嫌いよ。

でもね…彼は今まで会ってきた刑事の中で一番違っていたのよ。

具体的に説明しろって言われても出来ないけど...でも、何かが違った。

それはアタシの勘かもしれないし本能的に見抜いたのかもしれないし…どちらにせよアタシも歳を取ったせいかセンチメンタルになっちゃったのかしらねぇ…」


情報屋「ハハハ…昔はあんなに(酒を飲みながら)兄貴肌だった君が随分しおらしくなったじゃないか。

あの時はてっきり殺されたと思っていたんだけど、数十年ぶりに再会したらオネェになってたもんだからビックリしちゃってねぇ。

犠牲にしたのは二重の意味で男のタマだったってわけかい?」


バーテンダー「…殺されたいの?」


情報屋「ハハハ、ごめん、ごめん。冗談が過ぎたよ」


バーテンダー「はぁ、まったく。そういうアンタは歳を取っても変わらないわね」


情報屋「そうかい?」


バーテンダー「すぐ顔に出るところもだけど嘘をつけないところなんてあの時と同じよ」


情報屋「…こういう仕事だからね。自分の保身のため嘘をつかなきゃいけない時だってある。

でも、完璧な嘘でもバレるし、それこそ苦し紛れの嘘だと一発アウトだ。

だから俺はそれを”嘘”ではなく”事実”にして立証する。

そうすれば嘘をつく理由が無くなる。

まぁ、相手の発言や行動が『嘘だったという事実』を立証するのも俺の仕事なんだけどね」


バーテンダー「…やっぱりアンタは変わってないわね」


情報屋「…えぇ?今の発言を聞いてもかい??」


バーテンダー「えぇ。おっさんになってもアンタはあの時のまんま。

『頭の切れるずる賢いガキ』よ…あぁ、おっさんになってからはもっと磨きが掛かっているわね」


情報屋「…悪口なのか褒めているのかよく分からないな」


バーテンダー「半々よ」


情報屋「ハハッ、そうかい」


バーテンダー「…で?さっきからチビチビ酒飲んでるけど、時間見て頂戴。

もうとっくに店閉めてんのよ。

まぁ、昔のよしみだから閉店後も飲ませてやってるけど…アンタいつまで居る気?」


情報屋「…ん?」


N「カーロスは時計を見た。すると閉店後から2時間以上経過していた」


情報屋「あぁ!もうこんな時間か…

いやぁ、時間が経つのが早い早い」


バーテンダー「アンタねぇ、次やったら出禁にするからね」


情報屋「いやぁ…そいつぁ困るなぁ…」


バーテンダー「だったらさっさと帰って」


情報屋「はいはい」


バーテンダー「あ、表のドア閉めてるからいつも通り裏口から出てって」


情報屋「分かった…さてコレ飲んで帰るか」


N「カーロスは残っている酒を一気に飲み干すと、立ち上がりドアの前まで歩いていった。

そしてドアノブに手を掛けると立ち止まった」


情報屋「…また来るよリアム」


バーテンダー「…その名はもう捨てたわ。

今はバーバラよ。それかマスター」


情報屋「あぁ、そうだったね。じゃあなマスター」


バーテンダー「じゃあねカーロス」


N「カーロスはジャケットを肩に掛け颯爽と出て行った」















バーテンダー「…あ、そう言えばあの子いつから『カーロス=ヴィ=シルヴァ』って名乗ってるのかしら。確か本名は……ま、いっか。さてと、アタシも早く帰ろっと」




[完]



最後までお読み頂き、ありがとうございました。


滅茶苦茶久しぶりの新作台本で緊張しているKyomotoです。


実はこの作品...私が以前書いた【Double Wolf(通称:DW)】の過去編になります。


DWで出てきた刑事アレックス=J=クラウンと情報屋カーロス=ヴィ=シルヴァの出会いの話です。


カーロスは私の周りでも好きと言って下さる方が多く、私自身書いていてとても楽しいキャラでした。


そんな彼をもっと書きたい。DWで書いていない話は何処だろう...と考えた時一番最初に思いついたのが今回の2人の出会いでした。


最初は相棒であるレイを登場させようと考えたのですが...レイの性格上わちゃわちゃ感が否めないので敢えて最後の登場にしました。(他にも理由がありますが...)


DWはまだまだ書きたい話が沢山あります。


ゆっくりと書きたいなと思っていますのでお待ちいただけると幸いです。


今回の「情報屋と刑事」を面白いと思った方は是非「Double Wolf」も読んでみてください。


それでは皆様お身体には十分お気を付け下さい。

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