大人のジャポニカ学習帳
僕のおじいちゃんはこの街の顔役のマフィア。おじいちゃんの娘の僕のママは「娘の亭主にもしもの事があったら」と言って堅気の男と結婚させると大手広告代理店に勤めるパパと結婚した。そのマフィアのおじいちゃんの奥さん。つまりは僕のおばあちゃんになるのだが、そのおばあちゃんは日本人だった。つまり僕は日系3世って事になる。そのおばあちゃんはたまに着物を召したりする気品に溢れたお淑やかな女性だった。おばあちゃんにはおじいちゃんに無い威厳があった。それは僕の11歳の誕生日だった。おじいちゃんの友達のマフィアのおじさんがくれた誕生日プレゼントだった。「坊主、パパやママには内緒だぞ」と言って『大人のジャポニカ学習帳』という本をくれた。ページを繰って僕はその本の虜になった。大人の男の人と女の人があんな事やこんな事をやっている本だった。僕は学校の授業で見せた事のないくらいの驚異的な集中力を以てして大人のあんな事やこんな事を学習して帳面に記した。活字は日本語で書かれていた。この本のお陰で僕は漢字に興味を持った。僕は漢字の意味をおばあちゃんに尋ねた。「おばあちゃん、枕営業って何?」おばあちゃんは何も言わずにただ黙っていた。「おばあちゃん、美人局って何?」その時もおばあちゃんは何も言わず無言を貫いた。「おばあちゃん、亀甲縛りって何?四十八手って何?輪姦って何?口淫って何?」おばあちゃんは頬を赤く染めて何も言わずに無言を貫いた。無邪気だった僕にはその言葉が卑語だなんて知る由もなかった。あれから15年。僕は大学で日本語を専攻し今では日本語はペラペラだ。僕は日本の五反田と言う街で如何わしい非合法の店で人様の奥さんからこう呼ばれている。店長と…僕の右腕の上腕部には昇天と漢字のタトゥーが彫られている。『大人のジャポニカ学習帳』はまさしく僕に日本と言う国の見聞を広めさせてくれた。