風が強く吹いていた
風が強く吹いている。
窓から吹き込む風に耳をすませば、金属の雨戸が小刻みに揺れる音やカーテンが伸び切って張る音がした。ここは部屋の中だから、壁の向こうの音は遠い。
膝を抱えてうずくまるわたしを包むものは停滞した薄暗がりだった。
この風に吹かれて歩けば気持ちがいいだろうか。
太陽が上にあるこの時分なら、人も多くはないだろう。
自堕落な日々を送っているわたしを、誰も見咎めはしないだろう。
窓へ目を向ければ、網戸が波打って風に耐えていた。低い位置に掛けられた洗濯物が飛ばされまいとポールにしがみついていた。壁に当たる風が建物を揺らす。
ともすれば倒れてしまうのではないかと一抹の不安が頭をよぎった。
風がわたしを誘っている。
窓枠に手をかけて一歩踏みだせばそこは壁のむこう。
熱いベランダに足を焼かれながら耳を澄ませても、風の声は聞こえない。
風が止んだ。
次の風を迎え入れるために、わたしは外へ駆け出した。
遮るすべてが邪魔だった。
舗装された地面は薄い皮膚を焼く。ベランダで焼けた足の裏が痛む。
風はもうわたしに吹かない。
過ぎたものは戻らない。
ここではない何処かへ、吹き過ぎて行ってしまった。
お読みいただきましてありがとうございます。誤字等ございましたらご一報くだされば幸いです。