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5.家

最近朝起きるのが辛すぎます。アラーム2個セットしても起きれません。暗いし寒いし、布団から出れないんです。深刻な問題……(´д`|||)

「……え?」


 僕は理解ができずにいた。告白をするのは僕ではなかったのか。


 呆然と立ち尽くしていると、美月は少し顔を上げて、僕の様子を窺った。


「急に言ってもダメだよね……」

「いや、その、よろしくお願いします」


 美月が手を引っ込めようとしたのを見て、あわてて手をとる。こんな締まりのない付き合い方になり、本当に申し訳なく思う。いや、突然だったから。

 しかし、僕が美月の手を握ると、黒い雲に覆われた空から少しずつ光が差してくるように、美月は笑みに染まっていった。


「よろしくお願いします!」


 表情がころころ変わるのを見ていると、子どもだなと思う。それがおかしくて、僕はクスッと笑ってしまった。


「なんで笑うの?」


 美月の声が少し尖ったものになる。ああやっぱり、表情がすぐ変わる。それが愛しく、面白くもあり、そして少し疲れる。





 美月といると、ときどき寂しく思うことがある。美月といられる時間は有限だとわかっていても、いつまでも一緒にいられると勘違いしたがる自分がいて、それが馬鹿らしくて。高校か大学かわからないが、いつか僕たちは別の道を歩み、互いのことなどただの思い出話になってしまうのだろう。だからこそ今を大切にしたい。

 雲も星も、忙しなく動いている。僕にはそれが、腹立たしく思う。


 美月と付き合って2か月が経った。

 学校の裏山では、油蝉がうるさく鳴いている。人のいない水無月公園は、新緑の匂いに満ちていた。

 僕と美月が付き合っていることは、すぐに学校中に知れ渡った。もちろん、秀樹の耳にも入り、からかわれた。

 美月とは喫茶店や遊園地、水族館に行ったりと、毎週休日になるとどこかへ遊びにいった。美月と過ごす一瞬一瞬を大切にしようと思っても、すぐにその意識はどこかへ行ってしまい、時間があっという間に経ってしまう。美月はいつも僕を笑わせてくれる。

 時が経つにつれ、僕は無意識に彼女への想いが強くなっていった。


 そして今日は、初めて美月の家に行く日だ。少し緊張するが、美月が普段どんな環境で過ごしているのかを知れるのは楽しみである。

 

 僕が水無月公園のベンチで待っていると、美月が息を切らしながら走ってきた。


「お待たせ。暑い中待たせてごめんね」

「僕のことはいいよ、そんなに走るほど急がなくても。それより、美月こそ大丈夫か?」


 美月は膝に手を当てて呼吸を整えたあと、私は大丈夫だよと言わんばかりの笑みをこちらに向けてきた。美月の顔はいつも輝いている。日の沈まない太陽を、僕は美月以外知らない。



 公園から5分ほど歩くと、その豪邸は見えてきた。


「私の家へようこそ!」

「…………」


 それを見て、感嘆の息を吐くことすらできなかった。

 彼女の家は、砂漠に咲く花のように目立っていた。白い壁に広大な緑の芝生。西洋の貴族が住んでいそうな、普通の人はまず住めない家だ。ぎぃと重い音をたてる門を通り、家へと続く白い道を歩く。


「そんなに緊張しないでよ」


 先を歩く美月がこちらを振り返り、困ったように笑う。

 困っているのは僕なのに。いや、戸惑っていると言った方が適切だろうか。こんなハリウッドスターのような家に来て、小さくならないわけがない。もちろんハリウッドスターの家など見たことないが。


「お邪魔します……」


 家に入っても、驚きの連続だった。最初に目に飛び込んで来たのは、シンデレラが降りてくるのではないかというような長い階段。部屋の中央にあり、弧を描いて2階へと続いている。壁には高そうな絵画が飾られている。どれも逸品に見えるのは、本当に逸品の絵画だからなのか、家が豪華だからそう見えるのかはわからない。

 2階には、東側に2つ、南側と西側にそれぞれ1つ扉がついていた。


「ここだよ」


 美月の部屋は、西側にあった。部屋には勉強机とベッド、いくつかのぬいぐるみが置いてあり、いかにもお嬢様といった雰囲気だった。


「えっと、何をして遊ぼうか、美月様」

「何その呼び方、違和感満載だよ。うーん、とりあえず勉強しよっか」


 他人の家だし、僕は言われたことをするだけだ。美月は隣の部屋から組立式のテーブルを持ってきてくれた。

 それから2時間、僕たちは黙々と勉強に励んだ。ときどき、美月に分からないところを教えてもらった。その説明がとにかく分かりやすい。どうやら、天才は教え方も上手いらしい。


 途中、部屋に男性が入ってきた。その顔を見て、背筋に冷たいものが走る。穏やかそうで、芯には強い意志がありそうな、一見優しいおじいさんだ。白髪を生やしたその人は、いつか公園のベンチで見た人だった。


「この人は私のおじいちゃん」

「初めまして、宗政くん。美月がお世話になっております。美月から、あなたのことをいろいろとうかがっています。もしよかったら、あとでお話でもしませんか」


 僕は冷徹に言った。


「はい、是非。僕も貴方と話してみたいことがあります」



 勉強がひと通り終わり、美月がシャーペンを投げた。


「あー、疲れた」


 美月がベッドにダイブする。その時、僕は美月の足首に包帯が巻かれていることに気付いた。ずっとロングスカートに隠れていたのでわからなかった。


「なあ、足どうしたんだ?」

「ああ、これはちょっと転んでコンクリートに打っちゃっただけだよ」


 きっと嘘だろう。笑顔が引きつっているし、僕と視線を逸らそうとする。隠したいことがあるなら無理に聞く必要はない。でもこのときは、なんだか嫌な予感がして放っておけなかった。

第5話まで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。更新が遅くて申し訳ありません。できる限り早くしようと思いますので、これからも応援よろしくお願い致します。また、ブックマークがついているのを見ると、とても励みになります。これからも多くの方に面白いと思っていただけるような作品を書けるように頑張ります。第6話からもお楽しみに。

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