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2.メモ用紙

中間考査が終わったー!

疲れた( -。-) =3


 暖かい日差しを全身で浴びる大きな桜が、正門の前で美しい花を咲かせていた。心地よい穏やかな風が吹き、僕の頬を撫でる。近くの公園には、舞い散った桜の花びらの絨毯じゅうたんの上で、ベンチに腰を下ろしてパンとコーヒーを手にした人がいた。おこぼれを求めてベンチのまわりに集まった小鳥に、その人はパンを分け与え、それを食べる小鳥を見て、嬉しそうに微笑んでいた。



 少し開いた窓から顔を覗かせる僕に気付いた秀樹が、桜の下で大きく手を振る。


「おっはよー朝陽!」


 そのまま秀樹は走って玄関へ向かった。彼と初めて話したのは2日前。急に僕の机の前に立ち、田久保秀樹と名乗り、またすぐに去っていった。その後僕は彼を観察していた。彼は他の生徒とも明るく交流をして、どんどん友達を増やしていく。しかし、僕のどこを気に入ったのか知らないが、彼は僕にまとわりつくようになった。誰とも気さくに接することができる彼は尊敬するが、正直鬱陶しかった。


「いい友達ができたね」


 横を見ると、僕を見て面白そうに笑う美月がいた。


「まあね。ちょっと面倒くさいけど」


 美月はふふっと笑った。


「昔は朝陽くんもあんな風に元気だったな……」 


 美月は小さく呟き、目はどこか遠くを見ているようだった。その美しくて少し儚い瞳に吸い込まれそうになり、僕は桜に目を移した。


「桜、綺麗だな」


 僕は前を向いたまま、ぽつりと呟く。


「そうだね」


 美月の優しくて美しい声が聞こえる。美月が隣にいるだけで、何故か幸せな気持ちになる。


「桜はなんで春にしか咲かないんだろうね。ずっと咲いていればいいのに」



 僕たちが他愛のない会話をしていると、秀樹が息を切らして教室に駆け込んできた。


「おっす朝陽! っと、素敵なお二人さんの邪魔をしてはいけませんね。まだ入学して2週間なのに、もう付き合ってるの?」


 秀樹が汗だくの顔を拭いながら言った。美人でクラスの人気者である美月と惨めな僕が、そんな関係になるわけないというのに。

 美月は苦笑いしていた。


「んなわけねーだろ。冗談がきついぞ」


 僕はわざとらしくため息をついて、だらだらと汗を垂らす秀樹にハンカチを貸した。秀樹はあざすと言いながら、荷物を置きに席へ戻った。


「優しいね」


 美月は僕を見ながらにこっと笑う。僕はなんだか照れくさくなって、そっぽを向いた。きっと僕の顔は真っ赤だろう。想像しただけで、とても恥ずかしくなった。




 チャイムがなり、授業が始まった。学校生活に慣れてきて、僕の心は期待から退屈へと変わっていった。

 今日もぼんやりと窓の外を眺めていた。その大きくて青い天蓋に貼りついた綿あめがゆっくりと動いていくように、教室の時計の針も、ゆっくりゆっくりと動いている。しかし、動いているのは短針や長針ではなく、秒針だ。時間が経つのはなんて遅いのだろう。自分の人生をこんな「学問」という苦行に費やしていることが、実に馬鹿らしい。

 

 そんな中、僕の机にメモ用紙のようなものが滑り込んできた。隣の席の美月が渡してきたのだ。手紙には、こう書いてあった。


『放課後、水無月みなづき公園に来て。いいものあげる』


 美月をちらりと見ると、ウインクで返された。整った綺麗な字の下に僕の拙い字を書き、先生が黒板とにらめっこしている瞬間を見計らって、美月の机に戻した。


『了解』



 その後は、あっという間に時間が過ぎていった。いいものとはなんだ?という疑問が頭を駆け巡る。というよりも、素直に美月に呼ばれたことが嬉しかった。時間の進む速さはいつも同じはずなのに、気付いたら長針が半周していた。ここまで嬉しく感じるのは何故かわからないが、もしかしたら僕は勝手に美月を意識していたのかもしれない。入学初日に会ったときも、ちょっと何かを感じていた。



 僕はいつもより速く自転車を漕ぎ、家に帰った。そして、すぐに着替え、水無月公園へと自転車を飛ばした。

 公園には、すでに美月がベンチに座って待っていた。制服のままで、横には鞄がおいてあった。直接ここに来たのだろう。


「ごめん、待たせた」

「ううん、大丈夫」


 美月はいつもの笑顔で微笑んだ。


「で、いいものって何?」


 すると、美月はごそごそと鞄を漁り、動物の図鑑のようなものを取り出した。


「はい、これ!」

「え、これ、どうしたの?」

「幼稚園のとき、将来獣医さんになりたいって言ってたでしょ? だから、あげる」

「ありがとう。でも、そんな昔のことよく覚えてたな」

「でも、本当のプレゼントはこれじゃないよ」


 美月は、悪戯っぽい笑みを浮かべていた。


 

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