Another view
楓視点のお話です
腕を組んで、相合い傘。
本当に、恋人のようです。
胸を押し付けるなんて……はしたなくて、すっごく恥ずかしいけど……頑張って我慢します。
だって、これくらいしないと私はスタートラインにすら立てないから……。
多分、これはオリガミ様に私が勝っている唯一のもの。
遠くから轟く雷の音も、アスファルトを激しく叩く雨の音も、私の耳には届きません。だって私の五感は、全部先輩に向けられていますから。
少しだけ過剰に言えば、私の世界は先輩で構成されているのです。
先輩が隣にいるだけで、心が幸せに満ちてしまう、他のことが気にならなくなります。
「『しのぶもの』は、隠す物じゃないですよ?」
「ん? 何か言った?」
「いえ、何も」
「???」
まったく……先輩は、本当に古典が苦手みたいですね?
それとも、私が知らないだけでしょうか? 『しのぶもの』には、隠す物という意味もあるのでしょうか?
でも、だとしても……私は今ここで『しのぶもの』を、隠す物とは違う意味で使いましたから。
その意味はもちろん、恋心です。……合ってますよね?
相合い傘ができないのは、先輩じゃなくて私の方です。でも、私は勇気を出しました。
私は、私の『しのぶもの』を外に出しました。
「私の恋の気持ち、ちゃんと、見せられましたかね……」
先輩は、きっと私のこの気持ちに気が付いているのでしょう。
それは多分、好感度のせいじゃありません。ずっと前から私は先輩を好きでしたし、先輩もきっと気が付いていました。
先輩の助手に千代紙様が来て、それから段々と本格的に疎遠になっていったのは、先輩が私に気を遣ってくれたからです。
知らない女の子(しかもすっごく可愛い子)が、先輩と同じ家に住む。それが私を傷付けるだろうと、先輩は私から離れて行きました。
それが何より、私にはショックでしたが……過ぎたことなのでもう良いです。
「こうして、また一緒に歩けるわけですし」
そうそう、私がタイミング良く先輩と出会えたのは、別に運命でもなんでもありません。
今日、雨の中雷が怖くて急いで帰った私を、私の家で千代紙様は待っていました。
そこで私は、先輩が傘を持っていない事だけでなく、先輩の状況についても聞いたのです。
ラブコメの神様である、つまり恋愛を司る神様である先輩がモテない。
それはおそらく悲しむべきことなのでしょうが、悪い子の私はそれを聞いて少し嬉しく思ってしまいました。
だって、それ程先輩が好きですから。
そして、先輩は既に私の好感度を見たはずです。だから、私が腕を組んでも振り払ってこないんです。
先輩は、優しいですから。
「先輩……」
「どうした?」
「いえ、なんでもありません」
どうせバレているのなら、もう諦めようとか身を引こうとかは思わない事にしました。
先輩がそういうのを嫌う事は、長い間近くにいた私が一番知っていますし。
今までは、先輩との関係を変えたくなかったから秘めてきましたけど。
世界に恋愛を広げる先輩と、先輩を陰ながら支える私。そんな幸せな二人でいたかったから、ずっと伝えていませんでしたが。
ずっと我慢して、距離を取ってきたけど……。
もうバレているのなら、隠す方が滑稽ですね。
これはきっと私の最後の希望にして、最大のチャンスなのですから!
利用しない手は、ありません。
「…………雷が鳴ってるのに、やけに嬉しそうだな?」
「へ? あ、そ、それは……」
「???」
ひどい先輩です。私の好感度の数値を見て、もう分かっているはずなのに。
でも、それくらじゃ折れませんから。そんな意地悪に、負ける私じゃないですから。
だって先輩は、これから女の子に好かれようと努力し始めるんでしょう?
そうなれば、先輩の魅力に気付く女の子がどんどん増えて、私はどんどん下に……。
だから、だから……もう私は手加減しないことにしたので、
「覚悟してくださいね? 先輩♪」