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ラブコメの神様ですが、一部女子に好かれすぎて困っています。  作者: 猫まんま
一章:永久凍土も時には溶ける!…………よね?
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幼馴染の後輩

 

「さてピンチだ」


 俺は、ザーザーと激しく降る雨粒を見ながら、一人下駄箱の前でポツンと立ち尽くしていた。

 えー、はい。雨は止みませんでした。しかも、むしろ強くなっている気がする。

 

「オリガミちゃんが心配して傘を持ってくれれば良いけど……、その場合傘が浮くように見えるからなぁ……」


 だから、オリガミちゃんは持ってこないと思う。

 せめて連絡くらいは取りたいが、念話は俺からは繋がらないのでオリガミちゃん待ちだ。

 念話には条件があるとか言ってたから……念話すら来ない可能性も視野に入れなければならない。

 電話をしようにも、オリガミちゃんは携帯を持っていないし、固定電話の使い方も知らない。

 見える……鳴り響く固定電話の前でアワアワする未来が見えるぞ……。結構可愛いな。今度やってみよ。


「折り畳み 必要な時 ないものよ」


 暇すぎて、もう俳句を読むしかない。ちなみにこれは無季俳句な、多分。

 下手とか言わないで、泣く。


「我しのぶもの いざみせん時」


 しのぶものは……傘か? いざみせん時ってのは、今が見せる時だ! みたいな意味か?

 …………いや、そもそも誰の声だよ。

 俺が声のした方へ振り返ると……


「先輩、もしかして傘を忘れたんですか?」

「…………楓?」

「なんですその返事は。……私の事を忘れていたんですか?」


 下駄箱の影に隠れていた少女が、俺に詰め寄り、眉間にシワを寄せて険しい顔をする。

 丁寧に結われた長い黒髪、凛とした顔立ち、自信溢れる静かな佇まい。

 灯りが消されていて玄関も暗かったから、一瞬誰だか分からなかったけど、俺にとっては馴染みの人物だ。

 一条楓、近くの小さな神社の一人娘。神繋がりということもあってか、小さい頃からよく遊んでいた女の子だ。

 神社の娘というだけあり、人間だけどオリガミちゃんの事が見えるし、俺の正体も仕事内容も知っている。


「いや、まさかいるとは思わなくてさ……あと少し近いです」

「む、そうでしたか? それは失礼……これくらいですか?」

「ごめん、何が違うのか分かんないや」


 俺の目の前に詰め寄っていたのが、俺の真横に並んだだけ。

 いや、確かに威圧感はなくなったけどさ……。


「これじゃあ、恋人みたいに見えないか?」

「恋人? 先輩は何を言っているんですか?」

「あ、いやごめん。忘れてくれ」


 めっちゃ睨まれた……でも、それもそうか。

 俺たちは昔からの付き合いで仲も良いが、流石に恋人扱いは嫌だよな。

 というか、オリガミちゃんが来てからは、こいつとはめっきり合わなくなったしな。

 昔はよく一緒に帰ったりもしていたが、それで揶揄われた事もあったみたいだし、気付けば疎遠になっていったんだよな。


「それより先輩、傘、忘れたんですよね?」

「え、ああ……色々あって……」

「置き傘も、さっきの様子じゃないみたいですね……。仕方ありませんから、私の傘に入れてあげますよ」

「えっ? いいのか? ほら、誰かに見られたら……」

「こんな空模様ですよ? 外を歩く人なんていないでしょうし、窓から外を見たとしても空しか見ませんし、そもそも暗くて誰か分かりませんよ」


 た、確かに……。

 全く反論のしようがない正論だな……。


「それともあれですか、先輩、私と相合い傘するのが嫌なんですか?」

「……へ? は、はぁ!? そんな訳ないだろ!」


 先輩の威厳的にそれは認められん!


「……そ、そうですか……なら良いですね。ほら行きますよ」

「え、あっ、ちょっと!」


 腕を組まれて、引っ張られる。

 手を繋いで並ぶと、小さい傘からは俺の身体が出てしまうからなんだろうけど……普通に気恥ずかしい。


「というか先輩、身体がビショビショです。まさかとは思いますが……あ、逃げるのは駄目です」


 くっ……どうせ身体が濡れているなら、もう風邪ひいてでも走って帰って、プライドを守ろうとしたのに……。

 流石は幼馴染。俺の思考回路など、手に取るように分かるのだろう。

 逃げられないよう、俺の腕をさらに引き寄せた楓は、ますます恋人感が増している事に気が付いていないんですね……。

 腕に感じる柔らかい感触は、決して気にしてはいけない。こいつも成長したんだなぁ……。


「先輩、まさか走って帰るつもりだったんですか?」

「い、いや……一回挑戦してそれは諦めた」

「濡れたのに最後まで行かないのが、本当に先輩らしいですね……」

「う、うるさいな。もしかしたら誰かが残っていないかと思ったんだよ」


 楓の言うことが正しいのだが、実際楓がいたわけだしね?


「はぁ……。先輩、私の家でシャワーを浴びてから帰ってください。いいですね?」

「え、いや俺は……」

「い、い、で、す、ね?」

「は、はい……」


 その有無を言わせぬ迫力に、俺はただ頷くことしかできなかった……。


今日の投稿は、夜9時頃と11時頃に投稿します。



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