神と幼女と好感度
「よう、誠。元気だったか」
「ああ、ついさっきまでは元気だったよ」
「おい待てそれはどういう意味だ」
オリガミちゃんを肩車したまま教室に入った俺を出迎えていたのは、親友の翔馬だ。
イケメンだが女に全く興味がなく、この前行われた校内ベストカップル番付では、俺とのペアで堂々の一位を飾っていたらしい。
生恥晒した。死にたい。
ちなみにクラスの委員長に聞いた所、俺が攻めらしい。
委員長の知りたくない生態を知ってしまった、忘れたい。
「…………ところで、誠。一ついいか?」
「あ、疑問形なの? なら駄目」
「そうか、ありがとう。なんで肩の上に千代紙さん乗っけてんだ?」
「一言も肯定してないんだよなぁ……」
あいつの脳内の俺はイエスマンか何かですか?
「予想してみたんだが……遂に千代紙さんがデレたか、誠が夜這いでもしたのかの二択だな」
「おい待て二番目!」
貴様は俺をロリコンにしたいのか!?
「二番目じゃと……。ご、ご主人……う、嘘を吐くでないぞ……。ま、まあご主人がしたいのなら……」
「やめて! 肩車中にモジモジしないで!」
キュッと股が引き締められる事によって、挟まった俺の顔がとてつもない柔らか集中砲火。
この状況で誰かに俺の顔を見られたら、不自然に頰が凹んでいるように見えるので即刻やめて頂きたい。
「とまあ、そんな冗談は置いといて……実際のところどうなんだ? ほら、昨日は休んでただろ?」
「え、あ、ああ……お前には言っておいた方がいいか」
こいつは、俺がオリガミちゃんの次くらいに信頼している男だ。
オリガミちゃんが見えている事から分かる通り、こいつは神だ。戦神の血を引いているのだ。
「ふーん……好感度、ねぇ……なあ、それって俺の見えるのか?」
「え? あー、男は試した事ないな。うん、ちょっと見てみる」
「多分、200くらいだゼ……」
「やめろ」
そういう事を言うから、俺たちはランクインしてしまうんだよ……。
というか、冗談で言った数値なのにオリガミちゃんよりも低いんだな……。オリガミちゃん、異常に高過ぎだろ……。
「えっと……ああ、見えた」
個体名:ショウマ
性別:男
年齢:206
好感度:────
「おじいちゃん!!」
「は? ってまさか、年齢も見えるのかそれ!?」
「この度は大先輩の前で……」
「やめてくれ!?」
悲鳴を上げる親友……いや大先輩!
「これは神界で過ごした期間が長いからだよ」
「大丈夫、分かってやってる」
神界は、時間の流れが速い。
この世界で起きた一つの物事へ対処するのに、一日とかでは足りないからだ。
こちらでの一日をバグなく過ごさせるためには、神界では実に十二日程かかる。
そのため、地球で一歳年をとる間に、神界では十二歳年をとってしまうのだ。なので翔馬は実際には十七才と少しだ。
だが、今は関係ないな。
「線引かれて見えなかった」
「へぇ、やっぱり男だからか? 千代紙さんのは見えたんだよな?」
「そ、それは吾輩も気になるのじゃ。ご主人、吾輩の好感度は幾つだったのじゃ?」
「えっ!? えっと、それは……」
俺の肩から降りていたオリガミちゃんが、目をキラキラ輝かせて俺の方は期待の眼差しを向けてくる。
正直教えてあげたい……! 君の好感度は1000/100で明らかに異常なんだよって教えたい……!
「む、まさか見えておらんのか?」
「へ? そ、そうなんだよ! 神はやっぱり見えなくてねぇ……」
個体名:千代紙オリガミ
性別:女
年齢:十二
好感度:1015/100
「増えてる!?」
「なんじゃ、見えておるではないか」
しかも、登校している時間に一気に15……こ、こうなってくると、むしろ何をしたら下がるのか知りたいな……。
というか上がりすぎでは……?
「吾輩的には100くらいかの?」
「少ないわ!」
「え?」
「……あ…………」
ヤバイ!
思わず突っ込んでしまったが、100なんて数値、きっとオリガミちゃんは冗談で言っていたはず!
高すぎる! を待っていたのに、まさかの『少ないわ!』……。
「100が少ない? ま、待つのだご主人。好感度は100が上限のはずじゃぞ……?」
「誠、もしかして俺の言った200って、割と冗談というよりむしろ……」
「…………」
はい、むしろ小さいです。
オリガミちゃんの1/5以下です。
「さ、300かの?」違う。
「400か?」まだ少ない。
「ええい、飛んで700じゃ!」まだ足りない。
「まだっ……まさか800……」…………。
「せ、1000かの…………?」
「正解は、1015だ。朝は1000」
「…………」
「…………」
静まり返る俺たち。
空気が重い!
「な、なあ誠。小数点を忘れたとかじゃ……」
「それは俺も考えた。だけど、101・5だとしてもおかしいし、10・05だと……」
「それは少なすぎるのじゃ!」
「ってわけだ」
そもそも、小数点をつける必要はないしな。
1・5だけカンスト値を超えているのも違和感があるし、やはりキリよく1000だろう。
「じゃじゃあ、まさかご主人は……」
「うん、正直少しだけ引いた」
「はうっ!」
俺の言葉に、オリガミちゃんがノックアウトされたみたいに、椅子にヘナヘナと座った。
「まあ……仕方ないの……吾輩、邪念を祓いに水にでも打たれてくるのじゃ……」
「「…………」」
到底、「お前水に触れねえだろ」と言えるような雰囲気ではない。
オリガミちゃんは、閉まった窓をスゥーと通り抜け、フラフラと家の方向へ飛んでいく。
「おい、スカートなんだから浮くなって言っただろ!」
「あっ……すまぬ。地面に下半身を埋めながら帰るのじゃ……」
「…………」
シュール。
幼い女の子の下半身が、地面に突き刺さったようにしか見えない。
と、その時。
窓際一番後ろという最高の立地に座る俺の席、その隣の机に、スクールバックが音を立てて乗せられた。
九時半頃に四話目を投稿します!