舞台の上の、嘘と真実
三日もあけてしまった……。すみません
『姫は自覚した。独りになって初めて、隣に彼がいない空虚さを理解した。ああ、彼女は気が付いてしまったのだ。自分の本当の心に。自分に人を愛する心があったことを』
ナレーションと共に、舞台が暗転。
ナレーションの子の辻褄あわせが上手いのか、主役である王女が一度も出てきていないことに、観客は違和感を抱いていないようだった。
主要キャラの姿がないのにラストシーンまで持たせるなんて、中々のストーリーテラーだ。
そう、ラストシーン。
俺と、雪浜さんの出番だ。いや正確には……
「おお! あれが主人公か!」「んー、思ったよりパッとしない?」「でもなんだか、神聖な雰囲気じゃないか?」「うんうん、高貴な感じが凄く出てる」
もう俺は舞台に立ってるんだけどね!
くっ……最初から観客の視線を一身に受けるとか、めちゃくちゃ緊張する……!
あとぱっとしないって言うな! この後もっと思うことになるから!
(ファイト!)
舞台袖からみんなが応援してくれているのが、せめてもの救いだよなぁ……。
ほんと、俺は他校の生徒なのに、みんな心暖かい。
もしくは、困りきる俺を見て楽しんでいる。
アドリブでOKの一言とともに暗転した舞台に放り出された俺の、この異常なまでの孤独さや。
アクシデントすら楽しむ、文化祭ならではだよなぁ……。
というか、雪浜さんはどうするんだろう。
舞台裏の女子更衣室で着替えて待機していたらしいから、俺はまだ雪浜さんを見ていないのだ。
というか、登場の仕方すらも────
「「「!!!!!!」」」
その瞬間、ワッと会場が沸いた。
スポットライトに照らされた雪浜さんを見て、俺は思わず息を飲む。
純白のドレスとキラキラ輝くティアラが雪浜さんを飾っていて、まさに『姫』だった。
誰もが目を奪われて、まるで時間が止まったかのような静寂だった。
「姫……」
俺が声を発せたのは、日頃から雪浜さんを見慣れていたから、そして、オリガミちゃんたちと行ったコスプレショーのおかげだ。
あの時は役に立つことはあり得ないと思ったが、こんな時に、役に立ってきた。
『……あ、え、えっと……綺麗な満月の浮かぶ空は、思い出の中の空とあまりにそっくりで。思わず窓を開けた姫は、その声を聞きました』
俺の声で現実に戻ってきたのか、ナレーターの子が慌てて語る。
雪浜さんが俺の前に歩いて来る。近くで見ると、雪浜さんにますます引き込まれそうになった。
「来てくれたのね…………誠」
「っ…………!」
確かに、この主人公に固有の名前はなかった。だから、呼びやすいように雪浜さんが俺の名前を使うことは、別におかしいことではない。
だが、このお姫様な雪浜さんに名前を呼ばれた瞬間、全身の毛がブワッと立ったような気がした。
だが……
「助けに参りました、姫」
俺は冷静を装って、膝をついて雪浜さんの手を取った。
まるで、執事と主人だ。傭兵と姫とは言え幼馴染であるこの二人にとっては、少しばかりおかしい行動。
でも、誰も違和感を抱かなかった。
「すげぇ……あの男、まったく怖気ついてねえぞ……」「誰かしらあの人……なんだか、お姫様と同じくらい引き込まれる……」「さすがはご主人じゃ……」
そう、俺は今、神力を使っている。
と言っても、開放をして身体能力を向上させているわけではない。
あくまでオーラのようなものとして、観客にも感じ取れるようにしているだけだ。
「(中々やるわね、恋ノ宮くん)」
「(誠じゃないんですか? 姫?)」
「(ふふ、言ってなさい)」
誰にも聞こえないように、俺たちは小さく言葉を交わし、
「誠……ごめんなさい、私はついていけない」
「…………何故?」
「私は、恋をしてはいけないの。私に、そんな資格などない」
悲痛そうに、しかし全てを諦めたかのようなはかない表情で、雪浜さんは胸に手を当てた。
あまりに自然で、演技とは思えない姿に、観客は皆ゴクリと唾を飲む。
「だから誠、私を好きにならないで。私はこれ以上、誰も────」
「本気で、言っているんですか……?」
だが俺は、理解した。
そして、確かに怒りを覚えた。
雪浜さんのこれは、演技ではない。本心だ。本心でなければ、どうして、こうも色が、感情が出せるのか。
「ええ、本気よ」
「なら、言わせてもらいます」
だったら俺も、本心で答えるしかない。
「馬鹿野郎」
キャラとか、流れとか、そもそも野郎じゃないとかは全て無視して、俺は一言そう言った。
「恋に資格なんて必要ない。人を好きになるのに人の許可なんて必要ない。恋は自然に発生して、胸を甘く締め付けてくるもの。姫は恋心を抑えているんじゃない……ただ、恋をしたことがないだけだ!」
「それが、あなたの答えだと言うのね」
「ええ」
俺が頷くと、雪浜さんは溜息をつきながら頭を振り、しかし笑った。
どんな意味が含まれる笑みなのか、その時の俺は分からなかったが、なんとなく、良いことだとは分かった。
「ごめんなさい、私の気持ちを知りたかったの」
「……どういうことですか?」
微笑む雪浜さんは、もう演技なのか本心なのか見分けがつかない。
全ての振る舞いが、その振る舞いこそ真実なように見えてしまうと言えばいいのか。とにかくもう、俺は自分が舞台に立っていることすら忘れかけていた。
「ほんと、薄情ね、私は。資格なんてないと見えないフリをした想いなのに、貴方に言われただけで、そんなことはどうでも良くなっちゃったんだから」
そして雪浜さんは、胸に手を当て、切ない、まるで告白をするかのような表情で、朗々と宣言した。
「私は貴方が大好きです。私は貴方に恋をしています。ありがとう誠、私を救ってくれて」
任務達成……?それとも……




