好感度は未知の領域
二話目となります
ラブコメの神様。
それは、俗っぽい名前に反さず、やはり俗っぽい仕事をこなす神だ。
簡単に言えば、人の恋愛を後押しすることが仕事だ。
勇気を踏み出せない女の子には、バナナの皮をプレゼント。
難聴系鈍感男子には、女の子の足元へバナナの皮。
兄に恋する義妹には、兄にアピールする絶好のチャンスを作ってあげる。……バナナで。
ちなみに転生とかは俺の担当じゃないので知らん。転生の神に聞いてくれ。
まぁつまり、仕事の半分くらいをバナナに助けてもらう神でもある。だってバナナの皮有能なんだもん。
そのおかげか、俺の家の近くの坂道はバナナ坂と呼ばれていたりして、隠れ恋愛スポットになっているがそれはともかく。
そして俺は、客観的な事実を述べれば、ラブコメの神様界では中々優秀な人間だ。
サポート役として補助神様──オリガミちゃんのことだが──を付けてもらえるほどに。
そんな期待のルーキーである俺が、警告を示す黒い手紙を送られた。
これは、結構神界でも騒がれているらしい。
他の神に示しを付けるためにも、失敗したら神格剥奪。最悪、殺されてしまうかも知れない事態になっていた。
まあ、つまり俺はかなりピンチってわけだ。
本当は、こうして呑気に登校してる場合じゃない。
「ご主人がいなくなれば、この地域の恋愛という恋愛は消えるぞ」
世界の恋愛と俺の命のために、俺は好かれる!
「……の前に、まずは探す必要があるのじゃ」
「やめてー! この地域の人間全員を調べるのは不可能とか言わないでー!」
「いや、吾輩はちゃんと言うのは我慢したが……」
あ、思ってはいたんだ。
「むむむ……しかし、ご主人の神格が剥奪されるのは吾輩も困る……」
「どうして?」
「そ、それは……ほら、あれじゃ。ご主人は優秀じゃから、吾輩も楽できるしの。べ、別にご主人と別れるのが寂しいとかじゃないからの?」
「…………」
なんか可愛くて、俺はオリガミちゃんを抱き締める。
「……っ〜〜〜〜! や・め・ん・か! 心臓に悪いのじゃご主人! 吾輩の心臓が張り裂けたらどうする!」
俺がオリガミちゃんを抱き締めると、一瞬で茹でたてのオマールエビみたいになったオリガミちゃんは、慌てて身体を霊体化して拘束から逃れた。
普通にズルイ。
「吾輩の身体は、そもそも人間に見ることはできないのじゃ。ナイスバディなお姉さんが好きという噂を立てるのには向いておるまい」
「……えっ?」
何を言っているのかな、この子は。
「……なんじゃ、その目は。まるで吾輩がロリでペッタンで抱擁感のない貧相な身体をしていると言いたげな目付きではないか」
「くっ……図星だ……」
「せめて否定してくれないか!?」
まるでその通りに言い当てられた。
「ていうか、人に見られてたらこんなことしない。幼女に抱き付く高校生とか事案ですから」
「幼女じゃないですー。ちょっと小柄でスタイリッシュなだけですー。脱げばすごいんですー」
唇を尖らせて、ジト目のオリガミちゃんが言った。
しかし、能力を使った俺の目に映るオリガミちゃんの年齢は十二歳、小学六年生。ちなみにオリガミちゃんは小柄。
幼女ではないかも知れないが、ロリではあると思ったのは決して言わない。
「ストイックな身体ってことだな。良いと思うぞ」
「全然嬉しくないのじゃぁ!」
通学路でオリガミちゃんが吠える。
その声は、勿論俺にしか聞こえない。
「それはともかく、ご主人のタイプを広めるのは悪手だと思うぞ?」
「嫌われるのなら簡単そうだけどなぁ……」
「うむ……そうじゃな、それなら、吾輩とご主人が付き合えば良い」
「その場合、諦めるんじゃなくてロリコンって事実に幻滅しそうだけどな。てか見えないし」
「なんか言ったか、ご主人?」
「オリガミちゃん最高! マジ可愛い! 抱き締めて寝たいくらい!」
「む、むう……見え透いた世事を……わ、吾輩はそれくらいで喜ぶ程安くはないぞ」
そう言いながらも、オリガミちゃんは頬を赤くして照れている。
「いやいや、お世辞じゃないって。本心」
「そ、そうか……? そうか……そうかそうか、えへへ……吾輩を喜ばすのが上手いのぉ、ご主人は」
オリガミちゃんは、俺の手をギュッと握って、嬉しそうな顔で俺を見上げてくる。
冗談のつもりだったのだが……少し、罪悪感。だって、不覚にも本当に可愛いと思ってしまったから。
「? どうしたご主人。……あ、もしかして照れておるのか?」
「う、うるさいなっ。手ぇ離すぞ」
「そうかそうか。ふふ、安心せい、吾輩の姿は誰にも見えん。じゃから、こうしようとも……」
「へ?」
突然、俺の手を離したオリガミちゃんがフワリと浮く。
俺がどうするのか見ている前で、オリガミちゃんは幽霊のようにプカプカしていたが、「うむ」と一つ決心したように頷いた。
そして、俺の肩の上に乗った。
「か、肩車じゃ、ご主人」
え? なんで?
いや、理由を聞いちゃダメなんだろうな。
オリガミちゃんの好感度は、カンスト通り越して未知の領域に至っている。
単純に俺と触れ合いたいとかそういう事なんだろう、うん。
「いや、あのオリガミちゃん?」
「な、なんじゃご主人、人に見られないのじゃから構わないであろう」
「いやぁ、オリガミちゃんの重さが僕の肩にこうズッシリと……」
「そんな重くないわ! ……重くないよな?」
不安そうな声でオリガミちゃんが聞いてくる。
言っておいてなんだが、オリガミちゃんは別に重くない。
それに、オリガミちゃんは重さをなくす事もできるから、俺の抵抗はほぼ無意味だ。
「ほ、ほれ、重さを消した。これで良いじゃろ? 肩凝りもしない筈じゃ」
「う、確かに……」
周りからオリガミちゃんは見えない。
そう理解はしていても……やっぱり肩車は気恥ずかしい。
「だ、駄目か? 吾輩へのご褒美だと思って……お願いじゃ!」
俺の肩から降りたオリガミちゃんが、目の前でパチンッと手を合わせる。
幼女様にこうも懇願されちゃ、断れないよな……。
それに、数値だけでなく、オリガミちゃんから直接感じる好き好きオーラは、男として嬉しいし、な……。
「ま、まあ、登下校中なら良いぞ」
「本当かご主人! あ、ありがとうなのじゃ!」
俺が許可すると、オリガミちゃんはパァッと顔を輝かせて、ウキウキと浮遊して俺の肩に乗った。
重さは全くないが、オリガミちゃんの太腿が俺の頰に触れて、早速後悔。
女の子の素肌って、こんなにも柔らかかったっけ……?
「ふふふ、さあ行くのじゃご主人!」
「あ、ああ……」
オリガミちゃんのスキンシップや甘える頻度は、俺のことを好きな子がいると分かった途端、比べ物にならない程多くなった。
理由は、簡単に想像がつく。
俺はラブコメの神様だぞ? 人の恋愛感情には聡いのだ。……多分。
「ご主人、帰ったらデート……じゃなくて、恋愛を増やしに行くぞ!」
「今デートって言ったよね!?」
次話は明日の午後六時くらいに投稿予定です!